11月中旬。
やりたいことリストの一つ目をやりにきた。
「ディズニーーーッ!!!」
「おい。落ち着け。」
乃愛流は入場ゲートを通って中へ入るなり、思いっきり叫んだ。
はしゃいでいる乃愛流を見て、ルシフェルはげんなりしている。
乃愛流はやりたいことリストを書いた後、退職届も書いて後日会社に提出した。
理由は正直に書くことができず、実家に戻るためと書いた。
同僚や先輩、後輩、いろんな人にお疲れ様とか寂しくなるなどと声をかけられたが、部長からは特に心配された。
異動の件で悩んだ末の決断だと思われていたのだ。
こんなにたくさんの人が気にかけてくれて、いい職場だったと胸が熱くなった。
残された時間を充分に楽しんで過ごせるくらいの退職金をもらい、やりたいことの一つ目を達成するため、ディズニーランドへやって来た。
「はしゃぎすぎだ。もう少し静かにできないのか。」
「無理。」
乃愛流はげんなりしているルシフェルに満面の笑みで答えた。
「あとで疲れたなどと言っても、俺は何もしないからな。」
「いいよ。自分でちゃんと歩くから。それより、ほら。これ。」
乃愛流はルシフェルをぐいぐい引っ張って、帽子やカチューシャが売られているワゴンに来た。
ルシフェルにミッキーの帽子をかぶせようとするが、頭に届かない。
「…ルイ、身長いくつ?」
「180くらいだ。」
「…ちょっとしゃがんで。」
乃愛流はルシフェルを人前ではルイと呼ぶことにした。
しゃがんだルシフェルの頭に帽子をかぶせる。
「ふふっ、いいね。」
「…今、笑っただろう。」
「思ったより似合うよ。私、このカチューシャにしようかな。」
乃愛流はピンクのリボンのカチューシャを手に取った。
ルシフェルはそれを見て、赤のリボンのカチューシャを差し出す。
「それなら、この色の方が似合う。」
「じゃあ、そっちにする。」
会計を済ませて、さっそく身につけた。
まっすぐ進んで行くと、シンデレラ城が見えた。
「ルイ!写真撮ろう!」
乃愛流はかばんから自撮り棒を取り出して、スマホをセットし、ルシフェルを引き寄せた。
「ほら、笑って。」
乃愛流にせっつかれたルシフェルは、仕方なく笑顔を作った。
カシャッと音が鳴る。
撮った写真を確認した乃愛流は、それをルシフェルにも見せた。
「見て、ルイ!きれいに撮れた!」
乃愛流の無邪気な笑顔につられて、ルシフェルも自然と笑顔になる。
そこへ、キャストが近づいてきて声をかけられた。
「写真お撮りしましょうか?」
「お願いします!」
乃愛流はキャストにスマホを渡して、ルシフェルと並んだ。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
スマホを受け取って、写真を見る。
「ルイの笑顔がさっきより自然でいい。」
「それは良かった。」
乃愛流がルシフェルを見ると、ルシフェルは照れ隠しに片手で口もとを覆った。
少し赤くなっているルシフェルを見て、乃愛流は嬉しそうに笑った。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、バスに乗る時間が近づいていた。
「そろそろ出るぞ。バスに間に合わなくなる。」
「もう?まだ遊び足りない。」
不満そうな顔をする乃愛流を見て、ルシフェルは呆れ顔になる。
「何を言ってる。充分はしゃいだだろ。ほら、帰るぞ。」
ルシフェルに手を引かれて、2人はゲートを出た。
「…また来たいな。」
乃愛流のつぶやきが聞こえたのか、ルシフェルは乃愛流に一瞬視線を向ける。
「また来ればいい。仕方ないから、もう一度くらい付き合ってやる。」
予想もしていなかったルシフェルの答えに、乃愛流は目を見張った。
「…本当?」
「一度だけだからな。」
「じゃあ、絶対また来ようね。」
「ああ。」
乃愛流はルシフェルの背中を見ながら、嬉しそうに微笑んだ。
絶対にまた来ることができると信じていた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!