【黒髪の館>>3-4】
俺はもう、逃げることが許されない。
そう悟ったところでまた足と手が動き出して
先程のドアを勢いよく開け始めた。
その勢いに吹っ飛ばされそうなくらいだったが、なんとか堪えて部屋に入る。
部屋には真ん中に棺桶らしいものがあるだけだった。
側面は木材に金粉を塗った様なもので、
ところどころ汚れていて、金の姿がなかった。
上の扉はガラス張りで中が透けていた。
そこから中を覗くとどうやら人が入っているらしい。
その死体の周りには赤い薔薇が敷き詰められ、
その死体の手には黒い髪の毛の束を持っている。
これがあの赤い薔薇か。
なんとも言えない美しさに言葉を失う。
…まさかと思い、わざと目を向けなかったが見ない訳にはいかない。
この死体の顔を。
___。
やはりそうだ。これは間違いなく友人の顔だ。
何故…。
大体誘われた時からおかしいと思っていたんだ。
普段は俺が花にしか興味がないからって
わざわざ廃墟に行こうだなんて誘いやしない。
なのに今回はどうしてもって土下座までしやがった。
その時から薄々違和感を感じていたんだ。
きっと彼には何かがある。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!