第17話

これから
629
2025/06/14 01:01 更新





それから、愛菜が働けるようになる前に松田、諸伏、伊達が次々と殉職した。

愛菜は相変わらず心配そうな顔をしていたけど、それでも私は警察官を辞めなかった。


ずっと、逃げていた。








ピピッピピッピピッ
あなた
ん……
朝。
目覚まし時計の音で目を覚ます。
あなた
起きなきゃ……



なのに、身体が動かない。


起き上がれない。


仕事があるのに……
まるで金縛りにあったかのようだ。
とりあえず、恵に電話しよう……
早川 恵
早川 恵
『もしもし?どうしたの?』
あなた
助けて、身体が動かない
早川 恵
早川 恵
『……何があったか知らないけど、とりあえず家に行くね』
あなた
うん、ありがとう



恵が来るのを待っている間も、どうにかして動こうとしていた。

でも、仕事に行こうとすればするほど、動かなかった。



ピーンポーン


チャイムが鳴った。


鍵を開けなきゃ。


そう思った瞬間、さっきまでの頑なに動かなかった身体が嘘のようにすっと動いた。
あなた
恵……
ごめんね、急に来てもらって
早川 恵
早川 恵
私は大丈夫だけど……
顔色がすごいよ、大丈夫?
あなた
そんなこと、ないと思うけど……
早川 恵
早川 恵
ううん、強がっちゃダメ。
中に入るよ
恵に押されるように中に入った。
早川 恵
早川 恵
はい、座って
言われるがままにベットの上に座る。
あなた
ねぇ、そんなことより仕事……
早川 恵
早川 恵
そんなこと?

私の発言がまずかったのか、眉間に皺を寄せながらずいっと顔をこっちに近づけた。
早川 恵
早川 恵
あのね、あなたの下の名前にとってはそんなことかもしれないけど、私にとっては大事な親友のSOSなんだよ?
無視する訳には行かないでしょ?
あなた
……そ、だね。
ありがと
早川 恵
早川 恵
よし。

それで?急に体が動かなくなった原因は、何かわかる?

あなた
たぶん、仕事だと思う。

早川 恵
早川 恵
仕事?
あなた
うん…
きっと、萩原達が殉職して、怖くなったんだと思う
早川 恵
早川 恵
うん
あなた
……萩原も松田も伊達も諸伏も、みんな、職務を遂行したんだよ。大切な人を守るために。
私も、いつかそんな日が来ると思うの。
そう考えた時ね、怖くなったの。
愛菜を置いてそんなこと出来ない、とも思った。
早川 恵
早川 恵
うん
あなた
でも、愛菜が働けるようになるまでは、私が働かなきゃ行けないしっ……
言いながら、ポロポロと涙がこぼれてきた。

恵は、ずっと黙って私の話を聞いてくれていた。
愛菜
うん
あなた
ねぇ、どうしたらいいと思う?
早川 恵
早川 恵
…………それは、私が答えることじゃないよ
あなた
え……?
早川 恵
早川 恵
ずるいよね。
わかってるの。でも、私の一言で、あなたの下の名前の人生を決めちゃいけない
あなた
……
早川 恵
早川 恵
あなたの下の名前は、どうしたいの?
あなた
私は……


どうしたい?

そんなの決まってる。

愛菜のそばにいたい。

あなた
私は、愛菜のそばにいたい。そばにいて、一緒に生きていきたい。
愛菜
うん、それがいいよ。あなたの下の名前がそうしたいなら
あなた
うん



翌日、私は辞職届を出して、警察官を辞めた。
そして、米花町から、元々住んでいた場所に引っ越すことにした。





あなた
(最後くらい、降谷に出会ってもいいかもな。でも、どこに行ったら会えるんだろう)



米花町をぶらぶらと歩いていると、『ポアロ』と書かれた看板が見えた。

茶髪のロングヘアの女子高生と、ストレートボブのカチューシャを付けた女子高生。


そこで掃除をしている店員らしき人と話している。




金髪で、褐色肌の・・・・・・・・







あなた
降谷……?









3人とも振り返った。


そして、ポアロと大きく書かれたエプロンをつけた店員の目が大きく見開かれた。
安室さん、知り合いですか?
いえ、初めましてかと
安室?


それが降谷の偽名か。


ていうか人格変わりすぎでしょ
毛利蘭
こんにちは、私毛利蘭って言います
鈴木園子
あたしは鈴木園子。
毛利蘭
で、この人が、ポアロの店員さんの、
安室透
安室透と言います。


うわ、胡散臭。

めっちゃ笑顔じゃん。


萩原と諸伏を足して2で割ったらこんな感じかな?
あなた
えっと、私は、
偽名の方がいいかな……

降谷も、なんか正体隠してるっぽいし。
あなた
私は川根小葉かわねこのはと言います。
安室透
まあ、立ち話もなんですし、中に入りませんか
毛利蘭
そうですね
鈴木園子
川根さんも行きましょ
あなた
あ、はい
そうだった、偽名を名乗ったんだった。
反応が遅れてしまった。



中に入ると、がらんとしていた。
あなた
あの、失礼ですけど、他のお客さんは…?
安室透
今日は、あまりいませんね。
たまにこういう日があるんです
あなた
へぇ…
安室透
適当に座っててください。
ご注文が決まりましたら、お呼びください



胡散臭い笑みを浮かべて、厨房らしきところにもどっていった。
降谷って、料理からっきしなんじゃ……?
大丈夫かな?
鈴木園子
何食べる?
毛利蘭
私ハムサンドにしようかな
鈴木園子
あたしはパンケーキ
川根さんは?
あなた
私は、アイスコーヒーでいいかな
鈴木園子
すみませーん
安室透
はい
鈴木園子
ハムサンドと、パンケーキ、アイスコーヒーを一つずつお願いします。
安室透
かしこまりました



毛利蘭
川根さんのご職業はなんですか?
あなた
え?
毛利蘭
あ、不快に思われたらすいません。
あなた
ああ、いや。
全然そんなことないんだけど……
昨日、辞めちゃったんだよね
毛利蘭
え……あ、なんかすいません
辞めた、と言ったとき、一瞬だけ降谷の動きが止まった。
あなた
ううん、気にしないで。私の意思だから。
鈴木園子
そんなに大変なお仕事だったんですか?
あなた
うーん、大変っちゃ大変だけど、なんていうか、自信をなくしたって言うか……
毛利蘭
自信をなくした?
あなた
そう、私警察官だったんだけどね、仲間が次々と殉職していって……怖くなったの。身内でも、目の前で亡くなった訳でもなんでもないのにね。
わざと、降谷にも聞こえるくらいの声量で喋る。
あなた
だから、今もこうして続けてる人はほんとにすごいと思う。私には、そんな勇気も度胸もなかった。
毛利蘭
……
鈴木園子
……
あなた
ごめんね、しんみりさせちゃって。


毛利蘭
い、いえ、そんな
安室透
僕は、続けることだけがすごいことじゃないと思いますけどね
あなた
え?
いつの間にか、降谷が注文したものを全て持って来た。
安室透
お待たせしました。
ハムサンドと、パンケーキ、アイスコーヒーです
毛利蘭
ありがとうございます
鈴木園子
美味しそ〜♡
あなた
ありがとうございます
あなた
ていうか聞いてたんですか?
まあ、聞こえるように言ったんだけど。
安室透
すいません、聞こえちゃいました。

それで、あなたは辞める決意をした時も、今も、後悔してますか
あなた
っ……いえ、全く
安室透
だったら大丈夫です。
仲間の死を経て尚続ける決意をした人は、もちろんすごいと思います。でも、大切な、そばにいたい誰かと一緒にいる決意をすることも、勇気がいることだと、僕は思いますけどね
あなた
……。
そう、なんですかね
安室透
そうですよ
あなた
ありがとうございます、ふる、安室さん
安室透
いえいえ。
鈴木園子
川根さんの、その大切な、そばにいたい誰かって、もしかして彼氏とか?
毛利蘭
ちょっと園子、やめなさいよ
あなた
あはは、別にいいよ。
残念だけど、彼氏じゃない。妹だよ
鈴木園子
なんだ〜
毛利蘭
妹さんも、米花町に住んでるんですか?
あなた
ううん、だから、一緒に暮らすために私引っ越すんだ。と言っても元々住んでた場所に戻るってだけだけどね。
あなた
そういうふたりは、いるの?彼氏
毛利蘭
えっ……彼氏っていうか、まあ、うーん
鈴木園子
蘭の未来の旦那様♡でしょ?
毛利蘭
ちょっと園子!違うってば///
鈴木園子
蘭ってば照れちゃって〜
毛利蘭
も〜、違うって言ってるでしょ〜!
あなた
あはは、平和でいいね〜
毛利蘭
えっ、川根さん、大丈夫ですか?
あなた
え?
毛利蘭
いや、泣いてるから
あなた
うそ、私泣いて……
頬に手を当てると、指が涙で濡れた。
鈴木園子
ごめんなさい、私たち、うるさかったですか?
あなた
ううん、違うの。
なんか、幸せだなって
そう言うと、2人は顔を見合せ、席を立って私に抱きついてきた。
あなた
うわっ、ちょっと2人とも……!?
毛利蘭
川根さん、絶対幸せになってくださいね
鈴木園子
そうよ、いい人見つけたら、教えてくださいね!
あなた
ふふっ、うん。
……ねぇ、連絡先交換しない?
またどこかで会えるかも
毛利蘭
もちろん!
鈴木園子
また絶対会いましょうね!
からになったコップの中の氷が、カランと音を立てた。

私は、幸せで満たされている。


ねぇ、萩原、私、案外やってけそうだよ。

プリ小説オーディオドラマ