次の日の朝。
教室に入ると、いつも通りの景色が広がっていた。
騒がしい声。
机を動かす音。
笑い声。
その中で、私は自分の席に座る。
そして、自然と隣を見る。
スビンはまだ来ていなかった。
「珍しい」
思わず呟く。
いつもは私より早く来ていることが多いのに。
「なにが?」
後ろから声がして振り向くと、ボムギュだった。
「スビンまだ来てない」
「あー」
ボムギュは少しだけ笑う。
「寂しい?」
「違う」
即答すると、ボムギュはさらに笑った。
「はいはい」
その時、教室のドアが開く。
「おはよ」
落ち着いた声。
振り向くと、スビンが立っていた。
「おはよ」
私は何も考えずにそう返す。
スビンは席に座りながら言った。
「今日早いね」
「普通だよ」
「そう?」
鞄を机に置きながら、スビンが少し首を傾げる。
その仕草が、なぜか昨日より少しだけ気になった。
……たぶん、ボムギュのせいだ。
昨日言われた言葉が、頭の端に残っている。
“気づいてないの、たぶんお前だけ”
あれ、どういう意味だったんだろう。
考えていると、スビンが私を見た。
「どうした?」
「え?」
「さっきから静か」
「そんなことない」
慌ててそう言うと、スビンは少しだけ笑った。
「嘘」
「嘘じゃない」
そう言いながら、私は軽くスビンの腕を叩く。
いつも通りのツッコミ。
でも。
その瞬間、スビンの手が私の手首を軽く掴んだ。
「痛い」
「え?」
思わず顔を上げる。
スビンは少し困ったような顔で言った。
「今ちょっと強かった」
「え、ほんと?」
慌てて手を引く。
「ごめん」
そう言うと、スビンはすぐに首を振った。
「別に怒ってない」
「でも」
「大丈夫」
その声はいつも通り穏やかだった。
なのに、なぜか少しだけ距離を感じる。
気まずくなって、私は机に視線を落とす。
すると。
ぽん、と頭に軽く触れる感覚。
驚いて顔を上げると、スビンが前を向いたまま言った。
「気にしすぎ」
「……なにそれ」
「顔に出てる」
私は少しだけむっとして言う。
「誰のせいだと思ってるの」
「俺?」
「そう」
そう言うと、スビンは小さく笑った。
その時。
「はいはい」
横からボムギュが顔を出す。
「朝からなにしてんの」
「なにもしてない」
私が言うと、ボムギュはニヤッと笑った。
「ほんと?」
そして、スビンと私を交互に見て言う。
「まあいいけどさ」
少しだけ間を置いて。
「やっぱりお前ら変だよ」
「なにが」
「距離」
そう言われて、私は首を傾げる。
「普通でしょ」
するとボムギュは肩をすくめた。
「そう思ってるならいいけど」
そう言って自分の席に戻っていく。
私はもう一度スビンを見る。
「距離って?」
聞くと、スビンは少し考えてから言った。
「……別に」
「絶対なにか思ってる」
「思ってない」
そう言ってスビンは窓の外を見る。
その横顔を見て、私は少しだけ思う。
やっぱりよく分からない。
でも。
もし本当に“変”だとしても。
私はきっと、
この距離が嫌じゃない。
むしろ——
当たり前になっていた。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。