人生は、人生でしかない。
食卓へと向かう。
今日もまた、私の人生が上書きされる。
それだけ。
お母様は笑っている。
寝坊したのに、優しいんだね。
でも、僕の朝ごはん、これなのかな。
きたないね。
へえ、そうなんだ。
お母様とお兄様は、僕を殺そうとしている。
トーストの上に乗った、高級バターとナメクジ。
ナメクジは、口にして約1週間で重篤な症状を引き起こす。
ここで死ぬのは世間的によくないのかな、たぶん。
お母様もお兄様も、何を考えているのかな。
わからないな。
僕は、何を考えているのかな。
僕が一族の汚点?どうでもいい。
そもそもその汚点を作った人間を殺せばいいのに。
あの人たちに僕が勝っているのは、頭脳だ。
凝り固まった2人の価値観はおもしろいのかも。
馬鹿だから。
会食の招待状は、全てお母様が破いた。
ダンスは踊れるのに、機会が無い。
学校は、祖父がなくなってから行かせて貰えない。
毎日が少し違った、同じ日。
退屈で、退屈で仕方がない。
だから僕は、おじい様の書斎で本を読み漁る。
物語、参考書、哲学書、魔法書、聖書、図鑑。
それらの情報は、僕のからっぽのこころに染み込んでいく。
1ページ1ページが、僕の胸の容積を満たしていく。
僕は、何も忘れない。
全てのことを、忘れない。
久方ぶりの客人だ。
にこやかな笑みが、皮膚に張り付いている。
お父様も似たような目をしていた気がする。
今は戦場へと出向いている。
混沌としたセカイで、僕の一族だけが、何故か、没落しない。
一人合点し、うんうんと満足気に頷くハートは、今までの人生に対する最適解を見つけ出したような、清々しい顔をしていた。
「 破 壊 者 」
先程から、非科学的な言葉しか吐かなくなった ハート。
利口そうだと思ったのに残念ね。
ほしい。ほしい。
さっきまで埋まっていた空虚に、また隙間ができ始める。
足りない。
もっとたくさんの事で、頭の中をいっぱいにしたい。
書斎から少し歩いた突き当たりに、屋根裏への階段がある。
昔はよくおじい様と昼寝をした。
自由な思想を掲げる祖父が、大好きだった。
屋根裏に到着し、梯子を登る。
遠くで、森が、燃えていた。
自由にどれだけ憧れてきただろうか。
本の世界では、主人公は自由に、自由な空間を、自由な人々と生きている。
そんな世界が手に入るとしたら?
お兄様もお母様も、ただのゴミと同じ。
何も感じ「られない」今の僕にとって、この話は悪いことじゃない。
「また此処に、おいでなさい」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。