第2話

マイニチ
53
2023/02/02 02:21
















人生は、人生でしかない。
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎

おはようございます、お嬢様

エンド
 おはよう 



食卓へと向かう。





今日もまた、私の人生が上書きされる。











それだけ。












エンド
 おはようございます 
mother
 あらぁエンドじゃないの 
mother
 随分と遅いお目覚めねぇ 
エンド
はい、そうですね


お母様は笑っている。


寝坊したのに、優しいんだね。


でも、僕の朝ごはん、これなのかな。




きたないね。




brother
エンドの朝ごはんは、これさ
エンドも好きだろう?

エンド
僕は、これが好きなんですか?

brother
ああ、そうさ
よく好んで集めていただろう?
brother
せっかくお母様が用意してくれたんだ、まさか食べないなんてこと…ないよな

エンド
食べると、どうなりますか?
mother
ふふ、面白いことになるわよ


へえ、そうなんだ。



お母様とお兄様は、僕を殺そうとしている。



トーストの上に乗った、高級バターとナメクジ。




ナメクジは、口にして約1週間で重篤な症状を引き起こす。



ここで死ぬのは世間的によくないのかな、たぶん。




お母様もお兄様も、何を考えているのかな。




わからないな。




僕は、何を考えているのかな。



エンド
僕はこれを食べたら死にます
brother
だから何だ?
そのためにこの食事を用意したのだぞ
mother
貴方さえ死んでしまえば、一族の汚点は消えるの
エンド
僕には、死ぬ義務がないので
エンド
生きる権利はありますね、失礼します














僕が一族の汚点?どうでもいい。




そもそもその汚点を作った人間を殺せばいいのに。





あの人たちに僕が勝っているのは、頭脳だ。






凝り固まった2人の価値観はおもしろいのかも。





馬鹿だから。









エンド
……………………


会食の招待状は、全てお母様が破いた。





ダンスは踊れるのに、機会が無い。





学校は、祖父がなくなってから行かせて貰えない。






毎日が少し違った、同じ日。






退屈で、退屈で仕方がない。







だから僕は、おじい様の書斎で本を読み漁る。






物語、参考書、哲学書、魔法書、聖書、図鑑。







それらの情報は、僕のからっぽのこころに染み込んでいく。







1ページ1ページが、僕の胸の容積を満たしていく。







僕は、何も忘れない。








全てのことを、忘れない。









︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎
お嬢様、お客様です
エンド
通して



久方ぶりの客人だ。



Hurt
初にお目にかかります、
Another財閥のお嬢様
Hurt
私の名前は、Hurt。
気軽にハート、とでも呼んでください

エンド
ハート様、何の用ですか?

にこやかな笑みが、皮膚に張り付いている。







お父様も似たような目をしていた気がする。







今は戦場へと出向いている。







混沌としたセカイで、僕の一族だけが、何故か、没落しない。



Hurt
君に、会いに来たんだ
それだけさ
エンド
貴方はだあれ?
Hurt
人間さ
エンド
僕の味方?
Hurt
…使い方によってはね
エンド
おじい様のお友達?
Hurt
まあ、そんなところかな


Hurt
それじゃあ、君は?
エンド
……僕は
エンド
人間よ、それ以上でもそれ以下でもない
エンド
大きな括りで言えば、蛋白質かしらね


Hurt
……素晴らしい答えだ!


一人合点し、うんうんと満足気に頷くハートは、今までの人生に対する最適解を見つけ出したような、清々しい顔をしていた。


Hurt
君は、どちらかといえば無機質だものね
Hurt
このセカイで、唯一の……






「 破 壊 者 」







エンド
破壊……?何かを壊せるのかしら
Hurt
そうさ
Hurt
このセカイを、人類を、生命を、地球を、宇宙を
エンド
……面白い冗談ね
Hurt
いいや、君の手のひらに乗っているよ
Hurt
試しに言ってご覧よ、ほら
Hurt
「アバタリの森林で、火災が起きる」





先程から、非科学的な言葉しか吐かなくなった ハート。








利口そうだと思ったのに残念ね。





エンド
アバタリの森林で、火災が起きる











エンド
…ほら、何も起きないじゃない

Hurt
!!!!✨✨
Hurt
それはどうかな


Hurt
ねえ、エンドくん。
この家のいちばん高い窓から、東の方向を覗いてごらんよ
エンド
どうして?
Hurt
なんでもさ
エンド
意味の無いことは、したくないの

Hurt
そうか……
それじゃあ
Hurt
君が窓を除けば、知らなかった知識を手に入れられるよ
エンド
…………



ほしい。ほしい。








さっきまで埋まっていた空虚に、また隙間ができ始める。








足りない。









もっとたくさんの事で、頭の中をいっぱいにしたい。





エンド
……
エンド
わかった




書斎から少し歩いた突き当たりに、屋根裏への階段がある。








昔はよくおじい様と昼寝をした。









自由な思想を掲げる祖父が、大好きだった。









屋根裏に到着し、梯子を登る。









遠くで、森が、燃えていた。





エンド
……燃えている
Hurt
ね!?わくわくしたでしょう?
Hurt
これで貴方は自由だ
エンド
じ、ゆう?
Hurt
気に入らないものは破壊する
気に入ったら、そいつの精神を破壊してつけ込む
そうすれば、エンドは幸せだ




自由にどれだけ憧れてきただろうか。









本の世界では、主人公は自由に、自由な空間を、自由な人々と生きている。









そんな世界が手に入るとしたら?









お兄様もお母様も、ただのゴミと同じ。









何も感じ「られない」今の僕にとって、この話は悪いことじゃない。





エンド
……素敵ね
エンド
いいわ、覚えておく

Hurt
ああ、そうしてくれ
それじゃあ















エンド
……ハート
エンド
新しい知識をありがとう
エンド
それから……





「また此処に、おいでなさい」


















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