何時ものようにぶうぶうと文句を言う士郎くん。
何時も通りだなぁ……と思い、笑った。
次の日の防衛任務
また、鋭い音とともに近界民を斬る。
その次の敵も、そうやって片付けようとした。
でも、そうは行かなかった。
腹と足なら、"あれ"で狙えるな。
弧月じゃ無理だけど、誘導炸裂弾なら当てられる。
私は、"誘導弾"と"炸裂弾"の合成をはじめた。
誘導炸裂弾は上手く当たり、敵の装甲が薄いところにあたった。
私も一応士郎くんと同じ副作用を持っているが、士郎くんほど使いこなせない。
だから聴覚情報は基本的に士郎くんに頼っている。
そうこうしているうちに遼くんが私が誘導炸裂弾を当てた敵を倒していた。
そして、任務が終わってトリガーを解除した瞬間、それは起こった。
その時、士郎くんの目が一瞬虚ろになった気がした。
後ろ、?なに言って…
そこで私の意識は消えた。
菊地原Side
なにか聞こえる。
夜撫に近づいている。
そう言われた時にはもう、"そいつ"は夜撫の後ろにいた。
そして"そいつ"は、夜撫の背中を刺した。
夜撫は倒れ、ぼくはまたトリガーを起動した。
三上さんのとこにデータ行ってると思うけど……
ぼくの副作用なんだと思ってるの……
夜撫……生きててよ。
あと少しだから、頑張って。
死んだら許さないから。
そのまま夜撫は、病院に運ばれた。
命に別状はないものの、危険な状態らしい。
夜撫は何時もこう。
命を懸けて直ぐに何処かへ行く。
ほんと、自分をなんだと思ってるの……
自分を大切にしてくれる人が、周りにどれだけいると思ってるの……
馬鹿。
夜撫の馬鹿。
風間さんや三上さんが横に来るのを感じた。
込み上げてくる涙を堪える。
それでも溢れて止まらなかった。
ぼくは、そのまま泣いた。
そう分かっていても、涙は止まることなく頬を伝う。
"ぼくの中にはまだ、後悔が残ってるんだ……"
夜撫の後ろにいた事を知っていたのに。
知っていたのに、"そいつ"を斬れなかった。
斬っていれば、夜撫があんな目に遭うことはなかったかもしれないのに。
病院についた。
夜撫は起きる気配がない。
なんで……ぼくじゃないんだろう。
嗚呼、やっぱりこの世界は理不尽だ。
悪い人が楽をして
優しい人が辛い思いをする。
なんでなんだよ!!
夜撫には、これ以上辛い思いをしてほしくないよ……
でも、夜撫はどうなんだろう。
ぼくは夜撫の過去を知っている。
その性格上、きっと"私なら大丈夫"とか言って大怪我して帰ってくるんだろうな。
昔からそれを好む夜撫だから。
次の日も、その次の日も、ぼくは夜撫のいる病院に通った。
何日通っても、目を覚ます雰囲気がない。
やっぱり、もう駄目なのかな。
夜撫は、もう戻ってこないのかな。
眠り続ける夜撫の手を取ってこう願った。
"早く夜撫が目を覚ます日が来ますように。"
その時、夜撫の口角が少しだけ上がった気がした。
気が付くと、2ヶ月が経っていた。
夜撫はやっぱり眠り続けている。
来る日も来る日も、早く夜撫が目を覚ます日が来ることを祈っている。
その時、奇跡は起きた。
続く
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。