第19話

Chapter19
29
2024/06/12 12:44
棗 夜撫
棗 夜撫
明日防衛任務か……
菊地原 士郎
菊地原 士郎
うわ……やだなあ……
何時ものようにぶうぶうと文句を言う士郎くん。
何時も通りだなぁ……と思い、笑った。
次の日の防衛任務
棗 夜撫
棗 夜撫
旋空弧月せんくうこげつ
また、鋭い音とともに近界民ネイバーを斬る。
その次の敵も、そうやって片付けようとした。
でも、そうは行かなかった。
菊地原 士郎
菊地原 士郎
夜撫、こいつの装甲結構堅いよ
菊地原 士郎
菊地原 士郎
削りきるのはきついよ
棗 夜撫
棗 夜撫
おっけー!それなら薄いところはどこ?
蒼にぃに伝えておくよ
菊地原 士郎
菊地原 士郎
薄いところは腹と足
腹と足なら、"あれ"で狙えるな。
棗 夜撫
棗 夜撫
りょーかい!それなら私がやる
菊地原 士郎
菊地原 士郎
でもどうやって……弧月じゃ……
弧月じゃ無理だけど、誘導炸裂弾サラマンダーなら当てられる。
私は、"誘導弾ハウンド"と"炸裂弾メテオラ"の合成をはじめた。
歌川 遼
歌川 遼
夜撫、?
棗 夜撫
棗 夜撫
誘導弾ハウンド+炸裂弾メテオラ
風間 蒼也
風間 蒼也
誘導炸裂弾サラマンダーだろう。
歌川 遼
歌川 遼
あー……その手がありましたか……
棗 夜撫
棗 夜撫
=誘導炸裂弾サラマンダー!!
誘導炸裂弾サラマンダーは上手く当たり、敵の装甲が薄いところにあたった。
私も一応士郎くんと同じ副作用サイドエフェクトを持っているが、士郎くんほど使いこなせない。
だから聴覚情報は基本的に士郎くんに頼っている。
そうこうしているうちに遼くんが私が誘導炸裂弾サラマンダーを当てた敵を倒していた。
そして、任務が終わってトリガーを解除した瞬間、それは起こった。
棗 夜撫
棗 夜撫
ふぅ……トリガー解除オフ
棗 夜撫
棗 夜撫
やっと終わった……
菊地原 士郎
菊地原 士郎
トリガー解除オフ
菊地原 士郎
菊地原 士郎
……!
その時、士郎くんの目が一瞬虚ろになった気がした。
棗 夜撫
棗 夜撫
士郎くん、どうかした?早く戻ろうよ
菊地原 士郎
菊地原 士郎
夜撫、後ろ!!
棗 夜撫
棗 夜撫
え、?
後ろ、?なに言って…
そこで私の意識は消えた。
菊地原Side
なにか聞こえる。
夜撫に近づいている。
棗 夜撫
棗 夜撫
早く戻ろうよ
そう言われた時にはもう、"そいつ"は夜撫の後ろにいた。
菊地原 士郎
菊地原 士郎
夜撫、後ろ!!
棗 夜撫
棗 夜撫
え、?
そして"そいつ"は、夜撫の背中を刺した。
菊地原 士郎
菊地原 士郎
トリガー起動オン
夜撫は倒れ、ぼくはまたトリガーを起動した。
菊地原 士郎
菊地原 士郎
風間さん、夜撫がやられました
風間 蒼也
風間 蒼也
それはほんとか?!
三上さんのとこにデータ行ってると思うけど……
菊地原 士郎
菊地原 士郎
はい、トリガーを解除した隙にやられたようです。
歌川 遼
歌川 遼
"音"は聞こえなかったのか、?
ぼくの副作用サイドエフェクトなんだと思ってるの……
菊地原 士郎
菊地原 士郎
普通に聞こえたけど避けられなかった
棗 夜撫
棗 夜撫
……
夜撫……生きててよ。
あと少しだから、頑張って。
死んだら許さないから。
そのまま夜撫は、病院に運ばれた。
命に別状はないものの、危険な状態らしい。
夜撫は何時もこう。
命を懸けて直ぐに何処かへ行く。
ほんと、自分をなんだと思ってるの……
自分を大切にしてくれる人が、周りにどれだけいると思ってるの……
馬鹿。
夜撫の馬鹿。
菊地原 士郎
菊地原 士郎
また、"ばーか"って言って笑ってよ……
菊地原 士郎
菊地原 士郎
また、未来聞かせてよ……
風間さんや三上さんが横に来るのを感じた。
込み上げてくる涙を堪える。
それでも溢れて止まらなかった。
ぼくは、そのまま泣いた。
風間 蒼也
風間 蒼也
菊地原、大丈夫。
よるはきっと、戻ってくる
菊地原 士郎
菊地原 士郎
そう、ですよね
菊地原 士郎
菊地原 士郎
夜撫だから……戻ってきますよね……
そう分かっていても、涙は止まることなく頬を伝う。
三上 歌歩
三上 歌歩
元気だしてください!
大切な人が泣いていたら夜撫ちゃんが悲しみますよ。
菊地原 士郎
菊地原 士郎
分かってるよ……でも
"ぼくの中にはまだ、後悔が残ってるんだ……"
夜撫の後ろにいた事を知っていたのに。
知っていたのに、"そいつ"を斬れなかった。
斬っていれば、夜撫があんな目に遭うことはなかったかもしれないのに。
風間 蒼也
風間 蒼也
取り敢えず、病院に行くぞ。
風間隊
了解(-風間さんと夜撫
病院についた。
夜撫は起きる気配がない。
菊地原 士郎
菊地原 士郎
……なんで、夜撫なんだよ
なんで……ぼくじゃないんだろう。
嗚呼、やっぱりこの世界は理不尽だ。
悪い人が楽をして
優しい人が辛い思いをする。
なんでなんだよ!!
夜撫には、これ以上辛い思いをしてほしくないよ……
でも、夜撫はどうなんだろう。
ぼくは夜撫の過去を知っている。
その性格上、きっと"私なら大丈夫"とか言って大怪我して帰ってくるんだろうな。
昔からそれを好む夜撫だから。
次の日も、その次の日も、ぼくは夜撫のいる病院に通った。
何日通っても、目を覚ます雰囲気がない。
やっぱり、もう駄目なのかな。
夜撫は、もう戻ってこないのかな。
眠り続ける夜撫の手を取ってこう願った。
"早く夜撫が目を覚ます日が来ますように。"
その時、夜撫の口角が少しだけ上がった気がした。
気が付くと、2ヶ月が経っていた。
夜撫はやっぱり眠り続けている。
菊地原 士郎
菊地原 士郎
夜撫…早く起きてよ。目を覚ましてよ。
また馬鹿話聞かせてよ。
菊地原 士郎
菊地原 士郎
またあの日みたいに笑ってよ。
来る日も来る日も、早く夜撫が目を覚ます日が来ることを祈っている。
棗 夜撫
棗 夜撫
む……
菊地原 士郎
菊地原 士郎
夜撫、?
その時、奇跡は起きた。
棗 夜撫
棗 夜撫
し、ろう……くん…?
続く

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