第110話

日向の温度
1,384
2026/03/09 07:59 更新
晴れた日の午後は、二人で陽光を浴びて過ごした。
特に何をするでもなく、陽の当たる窓の前にリクライニングチェアを移動して、二人で一つのチェアに身を寄せ合う。
テレビもスマホも、パソコンもない空間だから、本当に世界に二人だけ取り残されたようだった。テヒョンはそれでも構わないと思っていたが、ジョングクは違った。

日に日に、物思いに耽る時間が増え、ジョングクは次第に無口になっていった。
穏やかすぎる日常を過ごしていたから話すこともなくなってくるが、それでもジョングクの口数の少なさは明らかに何かに思い悩んでいるように見えた。
その悩みの種が、なんなのかは聞かなくても大体想像はつく。
でも、テヒョンはあえてそれを聞かなかった。聞いてしまえば、ジョングクが行ってしまうとわかっていたから、ただ黙って、時間が過ぎていくままに過ごしていた。

最初の一ヵ月は、どこにも行かずログハウスと周辺の散歩だけで過ぎていった。
パントリーの食料も底をつき始めたので山を降りて、街のスーパーに買い物に行き、渡されたお金でギリギリの生活を続けていた。
そんなある日のこと。
リクライニングチェアで眠っていたテヒョンを置いて、ジョングクは一人で出て行った。
このまま帰ってこないかもしれない。
そんな不安が過ぎるも、テヒョンはジョングクの帰りを待った。
深夜、風の音に混じって遠くから車のエンジン音が聞こえてくる。ジョングクだと確信して、テヒョンは玄関で待ち構えた。
TH
TH
「どこに行ってたんだ」
扉が開いた瞬間、問い詰める。
本当は、今すぐにでも抱きついて、キスをして、ジョングクの存在を確かめたかったが、それを上回る怒りと不安と恐怖が、テヒョンの態度を頑ななものにしていた。
JK
JK
「悪い……でも、朗報がある」
ジョングクはワインボトルをテヒョンに差し出して、「飲みながら話そう」と言った。
JK
JK
「ジンに会ってきた」
予想通りの回答にテヒョンは苦虫を噛み潰したような顔をした。
TH
TH
「なんで一人で行くんだよ」
ジョングクはワインのコルクを開けながら、答えた。
JK
JK
「二人で行ったら目立つ。まだ危険な状態は続いてるんだからな」
TH
TH
「スーパーは二人で行ったじゃないか」
子供が屁理屈を言うように唇を尖らせて怒るテヒョンに、ジョングクは困ったような笑みを浮かべた。
JK
JK
「テヒョンが怒るのもわかるけど、仕方なかったんだよ。どうしてもジンと話したかったし、俺一人なら尾行されても撒けるから」
確かに、テヒョンはそういう面で足手纏いになる。その事実がテヒョンの胸をチリチリと焼いた。
さらに不貞腐れた顔をしたテヒョンのグラスに、ワインを注ぐジョングク。
JK
JK
「ジンがヴィと呑んでってさ」
ジンから貰ったワインは、テヒョンが農場で働いていた時に収穫した年の葡萄から作られたワインだった。
JK
JK
「味の感想、聞かせてって」
濃紅色に輝き、煮詰めたベリーの甘く重たい香りを嗅ぐと、どうしてもあの頃の記憶が蘇る。
他人として生きた人生だったが、とても満ち足りて幸せだった日々。
あの頃の幸せを取り戻すことはもうないと思っていた。
だが、今、現実にジョングクとテヒョンは穏やかな暮らしをしている。
でも、その根底にはまだ解決されていない問題が残っていることも事実だ。
今の二人の安寧は、多くの問題を置き去りにした結果の不安定で不確かなものだった。
JK
JK
「……テヒョン、美味しい?
黙り込んだテヒョンに、ジョングクは優しく問いかける。
伏せたまつ毛を瞬いて、テヒョンは顔を上げた。
TH
TH
「うん……よくできてる」
JK
JK
「そっか、よかった。ジンやサンも喜ぶだろう」
TH
TH
「三つ子はどうしてる?」
JK
JK
「みんな元気だって。ちょっとだけ、サラが塞ぎ込んでたらしいけど、今は大丈夫みたい」
TH
TH
「それは……」
テヒョンとジョングクのせいだろう。
三つ子の中で、一番のお姉ちゃんで大人びたサラだが、その分感受性も強かった。
サラはテヒョンが逮捕される瞬間を見たのだ。きっと、とても怖い思いをしたに違いない。
JK
JK
「もう少ししたら、三つ子にも会える。その時はいっぱい遊んでやろう」
TH
TH
「……そうだな」
ジョングクはまだワインが残るグラスを傍に避けて、グラスを握るテヒョンの手を取った。
JK
JK
「今日はごめん……勝手なことして。言えば反対されるってわかってたから言えなかった」
TH
TH
「ジンに会って、何を話してきたんだ?」
ジョングクは、握りしめたテヒョンの手を撫でたり揉んだりしながら、伝える言葉を探していた。
JK
JK
「……これからのこと。このままずっとここにいるわけにはいかない。今、向こうがどうなってるのかも知りたかったし、いつまでここにいればいいのかとか、いろいろと……」
TH
TH
「それで、いつまでここに?」
JK
JK
「もうしばらく……あと少しって。ジンも詳しいことはわからないけど、本当にあと少しだって」
ジンはただ間に立たされているだけで、何が起きているのか、全く知らなかった。







ジン
ジン
「お前がテレビに出た時は驚いたよ」
こちらでも、サゴングループの当主交代はニュースで大きく取り上げられていたらしい。
サンとエマは、ジンを問い詰めたが、何も聞かされていないと言い張った。
ジン
ジン
「お陰でしばらくエマから無視されたけどさ」
ぶつぶつと文句を言われたジョングクは、「俺だって……なりたくなかったよ」
と、呟いた。
ジンは、そんなジョングクの肩を力任せに叩いて、ひゃっひゃっと笑った。
ジン
ジン
「あんまりにもイケメンで最初はお前だって気がつかなかったけどな」
と、さらに声を上げて笑う。
ジョングクは舌を出して、べぇーとふざけた顔をした。






ジョングクの朗報は、曖昧で不確かだけど、少しの希望は持てる内容だった。
TH
TH
「ジンには、心配ばっかりかけちゃうな」
JK
JK
「それも、もうすぐ終わる。テヒョン、本当に悪かった」
ジョングクはテヒョンの瞳を見つめて謝った。それは心からの謝罪だと思う。
だけどテヒョンの心は晴れなかった。
やはり、自分ではジョングクを救えないのではないかと、不安で押しつぶされそうになる。

グラスの中で揺れるワインを、一気に飲み干したテヒョン。
目の前の苦い顔をしてる恋人に無性に絡みたくなって、テヒョンはテーブルの上に乗り上げた。
JK
JK
「……何してるんだ」
恋人の行動に目を丸くするジョングク。
テヒョンは、四つん這いでテーブルの上を歩き、ジョングクの目の前に座って、脚をジョングクの肩に乗せた。
TH
TH
「お前は俺が足手纏いなのか?」
テヒョンはジョングクを挑発するように、肩に乗せた足をクロスして、首に絡めた。
TH
TH
「俺は邪魔なんだろう?」
テヒョンがいなければ、ジョングクはきっと、あそこに残って、ヨンスとともに最後まで戦っていただろう。そう思えば思うほど、自分はジョングクの枷でしかないような気がしてくる。
TH
TH
「邪魔だから消えろってはっきり言えよ。どうせ俺は金魚のフンみたいにくっついて回ってるだけで、お前にとったら動きにくいだけのお荷物なんだからさ」
言いながらテヒョンは上体を後ろに倒して、テーブルに背中をつけた。
TH
TH
「今日だって、本当はジンじゃなくて他の誰かと会ってたんじゃないの?こんな四十手前のおじさんより」
トレーナーの裾を握り、ゆっくりとたくし上げ、脱ぎ捨てる。
ジョングクは不敵な笑みを浮かべて、テヒョンのすることを一部始終見ていた。
TH
TH
「若い方が良くなった……とか」
ボタンを外し、ズボンのジッパーを下ろす。腰を浮かせて、ズボンと下着を膝まで脱いだ。
TH
TH
「脱がせて」
ジョングクは、テヒョンの内腿を撫でながら、片足づつズボンと下着を脱がせていく。
テヒョンは、素足をジョングクの首に絡めて引き寄せた。
TH
TH
「やりまくって飽きたとか……」
テヒョンは、ワインボトルを手に取り、肩肘をついてジョングクを見つめた。
JK
JK
「ずいぶんな言いがかりだな」
TH
TH
「そうかな……完全な言いがかりでもないと思うけど」
最近、心ここに在らずな自分の行動を顧みると、反論できないようだ。
ジョングクは黙って、奥歯を噛み締めた。

テヒョンはそんなジョングクに、妖艶な笑みを返した。そして、ワインボトルを胸の前で抱え、ボトルを傾けてワインを浴びた。
JK
JK
「テヒョン……!」
白い肌に濃紅の川が流れる。
TH
TH
「乾杯しよ、ジョングク」
テヒョンはボトルを咥えた。
TH
TH
「ここ、早く呑んで……」
自身の茂みに溜まったワインを指差した。
ジョングクは口角を釣り上げて、テヒョンの目を見つめながら、そこに口づけた。
JK
JK
「乾杯……テヒョン」
テヒョンは、残りのワインをゴクンゴクンと喉を鳴らして飲み干した。

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