第109話

愛日
1,020
2026/03/07 15:12 更新
JK
JK
「散歩に行こう」
穏やかで暖かい日差しの中、ジョングクはテヒョンの手を取り、ログハウスの近くにある川まで歩いた。

三日間降り続いた雪のせいで、辺りは白銀の世界へと様変わりしている。地面を踏みしめるたびに、ぎゅっぎゅっと雪の鳴る音がした。大きな岩には綿帽子のような雪が積もり、水面は黒く光って見える。白と黒のコントラストが描く水墨画のような景色に、二人はしばらく見惚れていた。
TH
TH
「はぁー……一気に冬だな」
吐く息は白く、テヒョンの頬は淡いピンク色に染まっていた。
ジョングクは握りしめたテヒョンの手を引き寄せると、自分のポケットの中へ強引に突っ込んだ。
JK
JK
「寒いな」
ここに来て、もうすぐ一ヶ月が経とうとしている。
パントリーには最初から保存の利く食品が用意されていて、一週間は一歩も外に出なかった。
ジョングクは自分の中から欠け落ちた何かを埋めるようにテヒョンを求め、テヒョンはジョングクに与え続けることで、自らの存在意義を見出していた。
TH
TH
「なあ……お前はずっと、こんな風に世界が見えていたのか?」
テヒョンは目の前に広がるモノクロの世界を見つめながら、ジョングクに問いかけた。ジョングクはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと呟いた。
JK
JK
「それも、悪くない」
それは、色を失っても、あの悍ましい現実を鮮明に見なくて済んで良かった、ということだろうか。

ジョングクは夜中、未だにうなされることがあった。そうなると彼は必ず、テヒョンを荒々しく抱いた。虎が兎を弄び、一滴の血も残さず喰らい尽くすかのように。
テヒョンは、暴力と紙一重の悦楽に堕ちていく自分を、遠くから眺めているような感覚に陥る。
可哀想なジョングク。愛おしくて、誰よりも深く繋がりたい男。いっそ、本当に食べられてしまえば、彼の気持ちをすべて理解できるのではないかと、テヒョンは何度となく考えた。
JK
JK
「きいろ……」
ジョングクの不意な呟きに、テヒョンはその視線を追った。
白く凍りついた石の上に、黄色い何かが張り付いている。二人はそれに近づいて、その正体を確かめた。
JK
JK
「蝶……?」
TH
TH
「凍蝶か……」
JK
JK
「いてちょう?」
TH
TH
「寒さに羽を休めたまま動けなくなって、そのまま……」
JK
JK
「死んでるのかな」
TH
TH
「多分な」
色のない世界に、鮮やかな蝶が標本のように固まっている様は、悲劇的な美しさを湛えていた。厳しい寒さに耐えられなかった、儚い命。どんな世界でも、弱いものが無情に散りゆくのは定めなのだろうか。

ジョングクはポケットの中で、テヒョンの手を強く握り直した。
JK
JK
「埋めてやろう」
TH
TH
「そうだな」
蝶を壊さないよう、そっと手のひらに乗せた。
テヒョンが石で数センチほどの穴を掘ると、ジョングクはその底に蝶を横たえた。
土を被せるジョングクの表情は穏やかだったが、どこか思い詰めたようにも見えた。
テヒョンは、盛り上がった地面をじっと眺めるジョングクに問いかけた。
TH
TH
「ジョングガ……黄色に見えたんだよ
な?」
JK
JK
「黄色であってる?」
TH
TH
「うん……綺麗な黄色だよ」
色が戻り始めたのか、それともこの一瞬だけの奇跡なのか。
TH
TH
「俺のダウンの色は?」
JK
JK
「……黒」
正解は深緑だ。まだ、完全に色が戻ったわけではない。
TH
TH
「黄色は見えるのかな。……帰って、他の色も試してみる?」
ジョングクは小さく首を振り、「やめとく」と言った。
JK
JK
「このままでいい。別に困らないから」
ジョングクはテヒョンに手を差し出して、静かに笑った。
JK
JK
「帰ろうか」
テヒョンはその手を両手で包み込んだ。
TH
TH
「そうだな……」
ジョングクの手の甲に息を吹きかけて温め、今度は自身のポケットへ誘う。

色を失くしたまま生きていく。ジョングクが選んだその覚悟と意味を、テヒョンは少しだけ理解できた気がした。

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