これで断るのは何度目だろうか。若い女性が夜中一人で出歩くことを良しとしないようで、場地母だけでなく、場地にも留まれと言われた
無用な心配は必要ない。私は自他共に認める強さを持っているし、最悪弟たちの名前を言えばいい
私のこんな無愛想な対応に、彼らはこちらを心配する言葉を掛けてくれた
正直、あんな事件があった彼らの方が気をつけるべきで、何かがあったら言うべきなのだが…
そんな優しい人たちに見送られながら、私は暖かく居心地のいい場地家から退出した
…あんなに暖かい場所にいたからか、来る前はそんなに寒くなかったのに、今は身が縮こまるほど寒かった
時刻はもうすぐ11時を回る頃。今から店に向かえば、裏方の作業を手伝えるだろう
そう思って立ち止まってしまった足を動かし、慣れ親しんだバイト先へと向かう
この通りは数回来たことがあるので、道に迷うこともなく見覚えのある場所にまで着いた
…まるで頭に霞が掛かったかのように、頭が認識する前に体は真っ直ぐに目的地へ進む
__嗚呼。そうだ
見覚えのあった場所、そこは、私たち姉弟の思い出の場所。弟たちが13歳よりも少し前…
私がバイトに明け暮れ、二人を我慢させて泣かせてしまった日から1週間後。なんとか切り詰めて、二人を連れて遊びに来ていた、三人の遊び場
……私は何をやってるんだろう
バイトが忙しくても、二人の相手は欠かさなかったし、大切な日はまる一日一緒にいた
大切な弟だから、私が守らなきゃいけないと分かっていたのに、あんなにも守りたかった二人を、自分の手で傷つけた。傷つけてしまった
誰もいない薄暗い広場に、幼い頃の私たちが笑って遊んでいる姿を見てしまって、等々涙が溢れた
伝えるべき相手はこの場にいないのに、教会で懺悔するように何度も謝罪を口にした
この様子を誰かが見ていたら、通報ものだろうなと、少しだけ気が紛れて体が軽くなった
それと同時に軽快な音が懐から鳴った。その正体は携帯で、今から向かうはずだったバイト先の先輩からだった
それに何処か酷く安心してしまって、私は過去の美しく暖かい記憶から目を逸らすように、踵を返した
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!