夜明け前。
まだ辺りは薄暗く、
仮設キャンプの空気は冷え込んでいた。
物資の補給に向かっていた偵察班が、
緊急連絡を入れてきた。
“正体不明のB.O.Wを確認、
移動ルートに変異体の群れ”
ざわつく隊員たち。
あなたもその気配に目を覚ました。
起き上がった彼女に、
近くの隊員が簡単に状況を説明する。
英語の専門用語ばかりで、
細かい部分までは分からない。
でも、“すぐに移動が必要”という
ことだけは伝わってきた。
隊員たちはすぐに撤収を始めた。
ピアーズは、装備を整えながら
あなたのそばに来る。
短い言葉だったけど、それだけで安心できた。
あなたは深呼吸し、小さく頷いた。
ーー
移動の途中。
霧が深く、視界は最悪だった。
ピアーズがあなたの手首を軽く掴んで、
後方を守るように歩いていた。
突然、何かが茂みを割って飛び出してくる。
前を歩いていた隊員のひとりが襲われ、
悲鳴を上げる。
その瞬間、混乱が広がった。
銃声、怒号、そして濃くなる霧――。
あなたは必死に周囲を見回し、
ピアーズの姿を探す。
無意識に名前を叫んでいた。
それは、助けてという意味だけじゃなかった。
――いて、欲しかった。
ただ、それだけだった。
即座に返ってきた声。
あなたが振り返ると、そこにピアーズがいた。
B.O.Wを撃ち抜きながら、
一直線に彼女の元へ向かってきていた。
そして、あなたの腕をしっかりと引いて、
自分の背後に庇う。
震える声に、
ピアーズは一瞬、目を細めた。
そして、手を伸ばして、
彼女の肩を包み込む。
それは彼の中では、きっと特別な言葉だった。
誰にでも使うようなものじゃない。
あなたはうっすらと涙をにじませながら、
小さく頷く。
不器用にそう言って、
視線を逸らす彼の横顔が、
ほんの少し赤かった。
そして彼女は、ふっと笑った。
ピアーズは一瞬だけ目を丸くして、
そして――
ぽつりと、でも確かにそう答えた。
ーー
銃声が止み、霧の中を静かに進むふたりの影。
その距離はもう、
守る側と守られる側じゃなくなっていた。
たとえ言葉が足りなくても、
名前を呼ぶその声と、
すぐに駆けつけてくれるその行動が、
互いを強く、結んでいた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!