ある所に、学校でいじめられている少女がいた。
そのいじめの内容は本当に壮絶で、少女の心を確実に壊すものだった。
日用品も勉強道具も少女の体も少女の心も壊す、悪意と敵意と害意に満ちたおぞましいものだった。
少女は1年も経たずに自殺してしまった。
少女は呪いやオカルト、都市伝説を信じていた。
それ故にいじめられていた。
少女は自殺する前、いじめに関与したクラスメート全員に呪いを試みていた。
その呪いの人型にはへのへのもへじが使われていた。
それ以降、いじめに関与した生徒はどんどんと追い詰められていった。
精神的でなく、肉体的に。
謎の病に罹患したり、交通事故に遭ったり。
しかもそれだけでは留まらず、いつしか、へのへのもへじを描いた人間は呪われると噂になった。
それからというもの、その学校ではへのへのもへじは禁止となった。
昼寝の時間が近付いてきた穏やかな午前、シンタとワタルはマドカから巷で噂の「へのへのもへじの禁止の学校」について聞いていた。
どうやら聞き耳を立てていたらしい。
マドカはうきうきでスマホの画面を見せてくる。
そこに映っているのはネット掲示板の画像。
ネット掲示板では既に学校の場所まで特定されているらしい。
マドカは行く気まんまんだ。
ユズリハはハヤテをチラリと見る。
ワタルが挙手をする。
何やかんやワクワクしてきたらしい。
シンタはさっきまでの様子が嘘のように怖がりもしない。
ワタルは早口で切り上げるとさっさと外に出た。
何人かは外で遊んでいるが、いつもよりは少ない。
人のいない端っこに行き、周りに人の目が無いことを確認する。
ドッペルが何も無い所から音も無く現れた。
さながら忍者だが、ワタルは特段驚かない。
ワタルは力強く頷く。
ワタルは不本意のようだ。
しかし背に腹はかえられない。
へのへのもへじを描くと、描いた人間は皆一様に呪われる。
呪われた人間は学校から出られなくなり、そして自殺した少女に追いかけられる。
少女から逃げることは不可能で、殺されないためには別の人間に呪われて貰うしかない。
呪われてもいい、憎い、そう思う人間の1部、または写真、無い場合は呪いたい人の名前を書いた紙を渡す。
ワタルは静かな声で言った。
ドッペルが吹いた。
ワタルは両腕をブンブンと上に振る。
怒りを表しているようだ。
ドッペルはワタルの手を握る。
ドッペルは頭を斜めに傾ける。
推奨年齢中学生から高校生の作品の履修を勧められた。
ワタルはドッペルの手を振り払う。
このままでは今すぐにでも連れて行かれかねない。
ドッペルは瞬きした瞬間にその姿を消した。
中からダイゴロウの大きな声が聞こえる。
もう昼寝の時間らしい。
眼前にある学校は中々の大きさで、どうやら私立らしい。
セキリュティも高水準だろう。
マドカは学校のホームページに飛んでうーんと唸っている。
学校の中から男性が出てきた。
何やかんや何分も校門前でうろうろしていたからだろうか、とワタルは不安になる。
男性はつかつかと一直線に近寄ってくる。
マドカは正直に言う。
男性がにこやかに言うが、当の本人は理解不能で混乱しかしていない。
何よりこの男性、何とも言えない違和感がある。
既視感すら覚える違和感。
しかし折角中に入れそうなのだ。
ワタルも進んで入りたくないが、シンタやマドカと出かけるのは嫌いではないし、都市伝説と関わる時にドッペルと二人よりは怖くないだろう。
危険だが、ワタルはどうせ遅かれ早かれこの都市伝説も消さなくてはいけない身。
ここは利用させてもらい、皆で入りたい。
男性は頷く。
皆で男性についていく。
しかしハヤテは1人首を傾げていた。
普通こんなことあるだろうか?
何より、ここまで曖昧な理由で中に入れるだろうか?
そうは思いつつも、ここでそれを口にして台無しにするのも何だ。
そう思い黙ってついていく。
中に入っても人の姿はあまり無い。
人がいてもワタル達に何か言ってくる人はいない。
マドカが小声で言う。
綺麗な校舎の中を、とりあえず進んでいく。
いつの間にかワタル達は教室の前にいた。
中に入り扉を閉める。
そこは学習室らしく、空っぽの机がいくつか置いてあるだけだ。
マドカは椅子に座る。
マドカはペンを握りへのへのもへじを描き始める。
すると、扉をノックする音が聞こえた。
返事を待つことなく扉が開かれる。
ワタルは一瞬固まったが、すぐにドッペルということは分かった。
そしてワタルは察した。
さっきの会ったことも無いやけに親切な男性。
あれはドッペルだったのかと。
そしてあの違和感の正体。
既視感すらも抱いたあの違和感は、他でもない、ワタルがドッペルと会った時と同じく、影が無かったからこその違和感。
わざわざ他人になってまでワタル達を校内に入れたらしい。
ドッペルはマドカの描いている描きかけのへのへのもへじを指さす。
ドッペルの後押しもあり、まどかはイキイキとへのへのもへじを描き、へのへのもへじが完成する。
瞬間、ワタルは背中にぞわりと冷たいものを感じた。
冷たいものが背中に触ったかのような、冷や汗が流れる重たい異質な何かがこの空間を包んだかのような。
今まで遭ってきた都市伝説に近い気配。
どうやらワタルの感じた恐怖に近い冷たい気配はワタルしか感じなかったらしい。
ドッペルは静かに窓の外を指差す。
ユズリハが不審そうに窓の外を見る。
ワタルも窓際に駆け寄り外を見る。
確かに学校の敷地外が、墨汁を煮詰め、夜を濃くしたかのように真っ暗。
暗い、黒いというよりも虚無に近い。
ドッペルはワタルに向き直る。
ツッコミが入った。
しかしドッペルは気にしない。
彼女、それは説明されなくとも分かる。
ワタル達を呪い殺さんとする少女の怨念、怨霊だ。
ワタルは窓の外を指差す。
ドッペルは言葉無く笑顔で頷く。
言葉にしなくても分かるでしょ、と言わんばかりだ。
ワタルはドッペルを教室からグイグイと押し出す。
混乱と困惑が広がっていく。
そして、その混乱を極める形でハヤテが口を挟んだ。
ワタルはドキリとした。
影が無い。
それはドッペルが人に化けるにあたって特徴となる部分。
しかしそれに気が付く人間は中々いない。
その中々人が気が付かない部分に、ハヤテは目ざとく気が付いたらしい。
ワタルは少し口ごもる。
ドッペルの存在は複雑怪奇で、そもそも言っても信じられる類のものではない。
どうやったら良いのか考えあぐねていると。
パキン!
と大きな音がどこからともなく聞こえた。
見れば、先程までとは打って変わって、何とも無い穏やかな周辺住宅が見える。
ドッペルは音も無く教室内に立っていた。
その白い服を血まみれにして。
その姿に園児達はすっかり戦々恐々としている。
ハヤテはワタルを見る。
これを何も説明せず、事実を隠したまま納得させるのは不可能に近い。




































編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。