第69話

#,赫 × 桃 「 ︎︎ ︎︎ ︎︎ ︎︎」
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2026/01/03 17:03 更新















   夜の部屋は  、前より少し散らかっていた  。
誰かが増えたわけじゃない 。

ただ 、気にしなくなった痕跡が増えただけ 。

なつはベッドに腰掛け 、スマホを弄っている 。
画面を隠す気もない 。


    ……  その人  、最近よく連絡くるね    

    ん ー  ?  そう  ?    


   軽い声  。適当な返事  。
それすらも 、昔は愛おしかった 。
   今では俺の胸の奥で  、日に日に何かが軋んだ音を立てて
崩れていく要素になるだけ 。


    名前  、前と違う    

    よく見てんな    

    だって俺の世界には  、
なつしかいないから 。


   一瞬の沈黙  。
 なつは呆れたように笑い 、ため息をつく 。


    そーいうの  、
気持ち悪いって言ったよね


   なつのその言葉が  、俺の内側を削る  。


    ……  ごめん  。
でも俺 、見ないようにすると不安で

    不安  、不安  ってさ    



    お前ってさ  、俺がお前だけを見てなきゃ    
死ぬの ?

    ……  死ぬ    


   即答だった  。
嘘じゃなかった 。
   なつは 俺のその言葉に一瞬目を見開き  、
ムシャクシャしたように頭を掻きむしる 。


    冗談でも  、んなこと言うなよ    

    冗談じゃない    
    なつがいない世界  、想像できない    

    ……  重  。  
    俺  、重いの嫌い    

    ……  ごめん  、直すから    

    直すとかじゃなくて  、
普通で居てくれればいいんだよ


    普通  。
 その言葉が 、今の俺には一番遠かった 。


    ねぇ  、なつにとって俺って何  ?    

    何って  ……  恋人だろ    

    嘘だ    

    じゃあ逆に
なんだと思ってるんだよ


    なつにそう問われた時  。

___ 答えられなかった 。
 答えたら 、全部終わっちゃう気がして 。

 俺はなつの服の裾を掴む 。指先が微かに震える 。


    っ  ……  行かないで  、    

    どこにも行かねーよ    

    心が    


   なつは  、俺のその手を乱暴に振り払った  。


    そういう芝居  、
誰にでもしてんの ?

    違う  、なつだけ    

    じゃあ尚更めんどくせぇ  。   


   その言葉が  、最後の杭だった  。

 夜が深くなるにつれ 、俺の思考が濁っていく 。
 ここにいても 、いなくても 、同じだと気づいてしま
った 。


    ねぇ   

    何  、まだなんかあるん  ?   

   俺がいなくなっても平気  ?   


   なつは  、考える素振りを見せたあと  、
すぐ視線をスマホに戻す 。


    そのうち慣れるんじゃね  ?    


   それで  、全部が終わった 。
 俺は笑った 。音のない 、壊れた笑い方で 。


    ……  そっか  、よかった  。    


    何がよかったのか  、自分でもわからない  。

 ___ ただ 、この世界にはもう 、自分の居場所が
ないことだけが 、やけに鮮明だった 。













   2人ともお風呂を済ませ  、ベットに寝転ぶ  。


部屋を見渡す 。

付き合いたての頃に笑いながら選んだカーテンも 、
床に転がるクッションも 、何一つ変わっていないのに、
俺の中だけが 、確かに 壊れていた 。


    ……  初めて行った海    


   唐突な俺の言葉に  、なつが少し怪訝な顔をする  。


    は  ?    

    覚えてる  ?  付き合ってすぐ    

    ……  あー 、家の近くの    

    手  、繋いで  。寒いって言ったら  、  
上着 貸してくれた 。
    あの日も  、今日みたいに雪が降る    
寒い日だったねぇ


    あのときの海の潮の匂い  。
 夕焼けに染まる水面 。
崖の上から見る海の綺麗さ 。

 「好きだよ」って 、俺の好きな笑顔で 確かに
言ってくれた 。


    急に懐かしむなよ    

    あの頃に戻れたらいいのにね    

    もう無理だろ    

    ……  そっか  、そうだね  。  


    俺は  、もう泣かなかった  。
 涙が出る段階は 、とっくに過ぎていた 。


    ねぇ好きって言ってよ    


   なつは  、少し黙ってから吐き捨てるように言う 。


    今更  ?    

    一回でいいから    

    ……  好きだよ    


   なんの気持ちもこもっていない声  。
それでも 俺は 、救われた気持ちになる 。


    ありがとう    


   これが  、俺となつの最後の会話  。

そう 、俺の中で線を引いた 。



















    夜中  、なつが眠ったあと  、俺は静かに立ち上がる。
 コートを羽織り 、鍵を握る 。
    海までは徒歩数分  。
 なつと二人で何度も歩いた道 。

    ……  寒いなぁ    


   そう呟いても  、

「 しゃーなしな

そう言って 、上着を貸してくれるなつはいない 。


   街灯の下  、影が一つだけ伸びている  。
 本当は 、隣にもう一つあるはずなのに 。














    うわー  、海  見えねぇ      


   崖の上から  、柵越しに見下ろしてみるが  、
波打つ音が聞こえるだけで 、下は真っ暗闇だ 。


    ……  好きだったよ   


    誰もいない海に  、そう告げる  。
 返事は 、波の音だけ 。
    なつの笑顔も  、冷たい言葉も  、全部抱えたまま  。
 ここで終われば 、最後はきっと、幸せだった記憶のまま
でいられる。



















    朝になっても  、海は何も語らない  。
 ただ 、二人で来た場所に 、一人分の思い出だけが、
静かに残った 。




















なつ 視点


    朝  。
 俺は 、空の隣に気づいて目を覚ました 。


    ……  ?    


   スマホを見る  。 
あいつ からの 新着メッセージはない 。
   胸の奥に  、嫌な予感だけが残る  。


    …  あいつ  ?    


   ふと  、昨日の会話が蘇る  。
   ーー  「  ……  初めて行った海  」
   俺は  、血の気が引くのを感じた  。


    ……  まさか    


   上着を掴み  、急いで家を飛び出す  。
 数分の道が 、異様に長い 。


















 海は 、静かだった 。
 あまりにも、何もなかった 。


    ……  らん  ?    


    ___  らんの名前を呼んだのは  、いつぶりだろうか
   返事はなかった  。

足元の雪に、見覚えのある足跡が、海に向かって歩いて
行き 、柵の手前で 消えている。























   好きだと言わなかった夜  。
 重いと切り捨てた言葉 。
 「 そのうち慣れる 」と 、笑った自分 。
    全ての行動  、言動に 後悔が湧き出てくる  。


    ……  戻ってこいよ  、っ゙    


   焦りで上手く履けなかった靴の中に  、
俺の体温で溶けた雪が 水となって入り込んでくる


    俺  、お前のことほんとに  っ゙ ……    


    最後まで言えなかった言葉は  、
 もう 、届く相手がいない 。





















    海は  、今日も変わらない  。
 叫んでも、縋っても、波は同じ音を返すだけ。
 __ ただ、二人で来たはずの場所に、
 もう二度と触れられない一人分の記憶と 、
取り返しのつかない後悔だけが、重く、静かに残って
いた。






















これは、
依存して壊れていくらんと、愛を雑に扱ったなつのすれ違いが、取り返しのつかない結末に行き着く話。
らんは「幸せだった頃」に縋ることでしか自分を保てず、なつはその重さから目を逸らし続けた。
最後に残るのは、救われなかった想いと、気づくのが遅すぎた後悔だけ。

愛が壊れたあと、後悔は何も救わない、って話です。

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