夜の部屋は 、前より少し散らかっていた 。
誰かが増えたわけじゃない 。
ただ 、気にしなくなった痕跡が増えただけ 。
なつはベッドに腰掛け 、スマホを弄っている 。
画面を隠す気もない 。
軽い声 。適当な返事 。
それすらも 、昔は愛おしかった 。
今では俺の胸の奥で 、日に日に何かが軋んだ音を立てて
崩れていく要素になるだけ 。
一瞬の沈黙 。
なつは呆れたように笑い 、ため息をつく 。
なつのその言葉が 、俺の内側を削る 。
即答だった 。
嘘じゃなかった 。
なつは 俺のその言葉に一瞬目を見開き 、
ムシャクシャしたように頭を掻きむしる 。
普通 。
その言葉が 、今の俺には一番遠かった 。
なつにそう問われた時 。
___ 答えられなかった 。
答えたら 、全部終わっちゃう気がして 。
俺はなつの服の裾を掴む 。指先が微かに震える 。
なつは 、俺のその手を乱暴に振り払った 。
その言葉が 、最後の杭だった 。
夜が深くなるにつれ 、俺の思考が濁っていく 。
ここにいても 、いなくても 、同じだと気づいてしま
った 。
なつは 、考える素振りを見せたあと 、
すぐ視線をスマホに戻す 。
それで 、全部が終わった 。
俺は笑った 。音のない 、壊れた笑い方で 。
何がよかったのか 、自分でもわからない 。
___ ただ 、この世界にはもう 、自分の居場所が
ないことだけが 、やけに鮮明だった 。
2人ともお風呂を済ませ 、ベットに寝転ぶ 。
部屋を見渡す 。
付き合いたての頃に笑いながら選んだカーテンも 、
床に転がるクッションも 、何一つ変わっていないのに、
俺の中だけが 、確かに 壊れていた 。
唐突な俺の言葉に 、なつが少し怪訝な顔をする 。
あのときの海の潮の匂い 。
夕焼けに染まる水面 。
崖の上から見る海の綺麗さ 。
「好きだよ」って 、俺の好きな笑顔で 確かに
言ってくれた 。
俺は 、もう泣かなかった 。
涙が出る段階は 、とっくに過ぎていた 。
なつは 、少し黙ってから吐き捨てるように言う 。
なんの気持ちもこもっていない声 。
それでも 俺は 、救われた気持ちになる 。
これが 、俺となつの最後の会話 。
そう 、俺の中で線を引いた 。
夜中 、なつが眠ったあと 、俺は静かに立ち上がる。
コートを羽織り 、鍵を握る 。
海までは徒歩数分 。
なつと二人で何度も歩いた道 。
そう呟いても 、
「 しゃーなしな 笑 」
そう言って 、上着を貸してくれるなつはいない 。
街灯の下 、影が一つだけ伸びている 。
本当は 、隣にもう一つあるはずなのに 。
崖の上から 、柵越しに見下ろしてみるが 、
波打つ音が聞こえるだけで 、下は真っ暗闇だ 。
誰もいない海に 、そう告げる 。
返事は 、波の音だけ 。
なつの笑顔も 、冷たい言葉も 、全部抱えたまま 。
ここで終われば 、最後はきっと、幸せだった記憶のまま
でいられる。
朝になっても 、海は何も語らない 。
ただ 、二人で来た場所に 、一人分の思い出だけが、
静かに残った 。
なつ 視点朝 。
俺は 、空の隣に気づいて目を覚ました 。
スマホを見る 。
あいつ からの 新着メッセージはない 。
胸の奥に 、嫌な予感だけが残る 。
ふと 、昨日の会話が蘇る 。
ーー 「 …… 初めて行った海 」
俺は 、血の気が引くのを感じた 。
上着を掴み 、急いで家を飛び出す 。
数分の道が 、異様に長い 。
海は 、静かだった 。
あまりにも、何もなかった 。
___ らんの名前を呼んだのは 、いつぶりだろうか返事はなかった 。
足元の雪に、見覚えのある足跡が、海に向かって歩いて
行き 、柵の手前で 消えている。
好きだと言わなかった夜 。
重いと切り捨てた言葉 。
「 そのうち慣れる 」と 、笑った自分 。
全ての行動 、言動に 後悔が湧き出てくる 。
焦りで上手く履けなかった靴の中に 、
俺の体温で溶けた雪が 水となって入り込んでくる
最後まで言えなかった言葉は 、
もう 、届く相手がいない 。
海は 、今日も変わらない 。
叫んでも、縋っても、波は同じ音を返すだけ。
__ ただ、二人で来たはずの場所に、
もう二度と触れられない一人分の記憶と 、
取り返しのつかない後悔だけが、重く、静かに残って
いた。
これは、
依存して壊れていくらんと、愛を雑に扱ったなつのすれ違いが、取り返しのつかない結末に行き着く話。
らんは「幸せだった頃」に縋ることでしか自分を保てず、なつはその重さから目を逸らし続けた。
最後に残るのは、救われなかった想いと、気づくのが遅すぎた後悔だけ。
愛が壊れたあと、後悔は何も救わない、って話です。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。