第30話

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2024/07/01 06:10 更新



hs










急に入った連絡によって、近くのファミレスに呼び出された。
まぁ別に夏休みなんてすることもあまり無いし、友達も少ない私は基本空いてるからいいんだけどさ。

ファミレスの中に入ると、寒いくらい冷房が効いていて。
迷ったけど、薄めのジャケットを羽織って来て正解だった。

1番奥の角のソファの席。
そこに夏休み前までは、毎日見てた顔が待っていた。





💙「おはよ…待たせてごめんね、龍我」





私の声にパッと顔を上げた龍我と、視線が合う。





「はしもっちゃん!金髪だ、似合うね!」

💙「ありがとw」





ぱあっと満開の笑顔を見せてくれる龍我は、相変わらず『嬉しい』って顔に出まくっている。
まぁそんなところが犬みたいで可愛いんだけど。





💙「もうなにか頼んだ?」

「ううん、まだ。はしもっちゃんなにかいる?」

💙「んー……お腹すいてないからいいかな、ドリンクバーだけで」

「…………じゃあ、僕もそうする」





今どきのタッチパネルから注文して、2人でドリンクバーを取りに行く。

席に戻って1口飲むと、思った以上に喉が乾いてたみたいでどんどん飲んでしまった。





「……ねぇ、はしもっちゃん」





かけてる伊達メガネの奥から、真っ直ぐ覗かれて、思わず私も龍我から目を逸らせなくなってしまう。

龍我があまりに真剣な顔をするから、「どうしたの」って言葉すら張り付いて出てきてくれなくて。





「前さ、昼休みから帰ってこなかったことあったよね?」

「…………その日から…はしもっちゃん、なんかおかしい…」

「たまにいなくなるし、誰も居場所知らないこと多いし、」

「……なんかあった…?」

「………なんか、……されてたりする……?…」





ドクン、と心臓が嫌な音を立てた。

……まさか、龍我に気付かれていたなんて…。
盲点だった、全く警戒していなかった。

混乱した馬鹿な頭では、いい言い訳なんて思いつかない。
でも言い訳しないわけにもいかなくて。

なんて、なんて言えば、納得してくれる…?





💙「……………なんもないよ、」





とりあえずはそう言うと、目の前の龍我がくっと顔を顰める。

………どうして…?
どうして龍我が、そんな辛そうな顔してるの?





「なんもないわけないよ!」

「………大昇が、部活中に見たって言ってた」

「…はしもっちゃんが、びしょ濡れで帰ってるの、見たって」





息が、止まりそうになった。

いつの間にか俯いてたみたいで、パサりと顔に髪が掛かる。
太陽に自分の金髪が透けて、消えそうだなと自分でも思った。





💙「………………瑞稀に、言わない…?」

「……え?」

💙「…………約束できるなら、…ちょっと話す……」





ちら、と俯いてた顔を少し上げると、やっぱり辛そうな龍我と視線が合う。

………ごめんね。
…でも、これだけは譲れないの。

瑞稀が笑ってくれることが、幸せでいてくれることが、なにより大事だから。

そのためなら、私は大丈夫だから。





「…………わかった、約束する」





不本意そうな龍我の声に、場違いながら笑いそうになってしまう。

龍我がね、私のこと心配してくれてるのは、嬉しい。
でも大丈夫だよって、その心配はいらないよって、伝わってくれたら…。





💙「……ほら、私って女の子の敵作りやすいからさ、」

💙「ちょっと先輩に、嫌がらせ?っていうか、嫌われてるだけ」

💙「………そんな酷いことされてないから大丈夫!」

💙「大昇が見たってのも、あれ以来されてないしさ、」

💙「だから、私は大丈夫だから……心配しないで、」





精一杯笑ったのに、龍我は今にも泣きそうだった。

……なんでよ、笑ってよ。
そう言いたいのに、もう口角を上げるだけでいっぱいいっぱいで。

龍我が泣いたら、私も我慢できそうになかった。





「…………大丈夫じゃないよ、…」

「だって、はしもっちゃん明らかに痩せたじゃんっ!」





………痩せた、ね。

夏バテってのもあるけど、最近ご飯が美味しくなくて。
何を食べても味がしないし、なんだか寝付きも悪いの。

自分がどれだけ精神的に追い詰められてるかなんて、認めようとすればすぐで。

……それでも、認めたくなかった。





「……それに、……その金髪は、なんのため…?」

💙「……っ、!」





………弱い自分を隠すため。

外見だけでも強くなりたくて、舐められたくなくて。
笑っていられるように、隠した。

ジンジンと、もう治ったはずの痣が痛んだ気がした。
こんな話をしてたから、きっと思い出してしまって。

さっきからね、すごい寒いの。





💙「……龍我、…ありがとね…」

💙「………でもね、私ほんとに大丈夫!」

💙「不本意だし、なんで私がって思うこともあるけどね、」

💙「……それでも、瑞稀が無事なら……私は大丈夫!」





そう言って、笑った。
大丈夫、まだ笑えるから、大丈夫だよ。

龍我は不満そうな顔しながらも、「はしもっちゃんが言うなら…」ってしぶしぶ頷いてくれた。
なんだか騙した気持ちになってしまう、申し訳ない。





「…………じゃあゆうぴーにだけ、ちょっと言っていい?」

💙「……っ、だめっ!」





優斗の名前に思わず反応してしまった私に、目の前の龍我が目を見開く。

きっと龍我のことだから、私の味方になってくれる場所を作ろうとしてくれたんだろうな。
……そんなの充分なのに。





💙「…………優斗は、だめなの…」





きっと優斗は、勝手に自分を責めるから。
優斗はなにも悪くないから、誰も悪くないから。

だから、優斗にはバレちゃいけないの。





「………わ、かった……ごめん、…」

「…………じゃあ何かあったら、絶対僕に言って」





また、この真剣な目。
この顔されると、なにも言えなくなってしまう。

でもこんな私なんかのこと、本気で心配してくれるのは、正直嬉しかったりもするんだ。





💙「…………わかった、ありがとう」





そう言うと、龍我は満足そうに笑った。
………よかった、笑ってくれて。

きっと龍我には、いじめにあってるのがバレてしまったと思うけど。

それでも、龍我が誰にも言わないことを信じよう。
……瑞稀まで、巻き込まれないように願おう。

そうすることしか、私は出来ないから。




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