hs
急に入った連絡によって、近くのファミレスに呼び出された。
まぁ別に夏休みなんてすることもあまり無いし、友達も少ない私は基本空いてるからいいんだけどさ。
ファミレスの中に入ると、寒いくらい冷房が効いていて。
迷ったけど、薄めのジャケットを羽織って来て正解だった。
1番奥の角のソファの席。
そこに夏休み前までは、毎日見てた顔が待っていた。
💙「おはよ…待たせてごめんね、龍我」
私の声にパッと顔を上げた龍我と、視線が合う。
「はしもっちゃん!金髪だ、似合うね!」
💙「ありがとw」
ぱあっと満開の笑顔を見せてくれる龍我は、相変わらず『嬉しい』って顔に出まくっている。
まぁそんなところが犬みたいで可愛いんだけど。
💙「もうなにか頼んだ?」
「ううん、まだ。はしもっちゃんなにかいる?」
💙「んー……お腹すいてないからいいかな、ドリンクバーだけで」
「…………じゃあ、僕もそうする」
今どきのタッチパネルから注文して、2人でドリンクバーを取りに行く。
席に戻って1口飲むと、思った以上に喉が乾いてたみたいでどんどん飲んでしまった。
「……ねぇ、はしもっちゃん」
かけてる伊達メガネの奥から、真っ直ぐ覗かれて、思わず私も龍我から目を逸らせなくなってしまう。
龍我があまりに真剣な顔をするから、「どうしたの」って言葉すら張り付いて出てきてくれなくて。
「前さ、昼休みから帰ってこなかったことあったよね?」
「…………その日から…はしもっちゃん、なんかおかしい…」
「たまにいなくなるし、誰も居場所知らないこと多いし、」
「……なんかあった…?」
「………なんか、……されてたりする……?…」
ドクン、と心臓が嫌な音を立てた。
……まさか、龍我に気付かれていたなんて…。
盲点だった、全く警戒していなかった。
混乱した馬鹿な頭では、いい言い訳なんて思いつかない。
でも言い訳しないわけにもいかなくて。
なんて、なんて言えば、納得してくれる…?
💙「……………なんもないよ、」
とりあえずはそう言うと、目の前の龍我がくっと顔を顰める。
………どうして…?
どうして龍我が、そんな辛そうな顔してるの?
「なんもないわけないよ!」
「………大昇が、部活中に見たって言ってた」
「…はしもっちゃんが、びしょ濡れで帰ってるの、見たって」
息が、止まりそうになった。
いつの間にか俯いてたみたいで、パサりと顔に髪が掛かる。
太陽に自分の金髪が透けて、消えそうだなと自分でも思った。
💙「………………瑞稀に、言わない…?」
「……え?」
💙「…………約束できるなら、…ちょっと話す……」
ちら、と俯いてた顔を少し上げると、やっぱり辛そうな龍我と視線が合う。
………ごめんね。
…でも、これだけは譲れないの。
瑞稀が笑ってくれることが、幸せでいてくれることが、なにより大事だから。
そのためなら、私は大丈夫だから。
「…………わかった、約束する」
不本意そうな龍我の声に、場違いながら笑いそうになってしまう。
龍我がね、私のこと心配してくれてるのは、嬉しい。
でも大丈夫だよって、その心配はいらないよって、伝わってくれたら…。
💙「……ほら、私って女の子の敵作りやすいからさ、」
💙「ちょっと先輩に、嫌がらせ?っていうか、嫌われてるだけ」
💙「………そんな酷いことされてないから大丈夫!」
💙「大昇が見たってのも、あれ以来されてないしさ、」
💙「だから、私は大丈夫だから……心配しないで、」
精一杯笑ったのに、龍我は今にも泣きそうだった。
……なんでよ、笑ってよ。
そう言いたいのに、もう口角を上げるだけでいっぱいいっぱいで。
龍我が泣いたら、私も我慢できそうになかった。
「…………大丈夫じゃないよ、…」
「だって、はしもっちゃん明らかに痩せたじゃんっ!」
………痩せた、ね。
夏バテってのもあるけど、最近ご飯が美味しくなくて。
何を食べても味がしないし、なんだか寝付きも悪いの。
自分がどれだけ精神的に追い詰められてるかなんて、認めようとすればすぐで。
……それでも、認めたくなかった。
「……それに、……その金髪は、なんのため…?」
💙「……っ、!」
………弱い自分を隠すため。
外見だけでも強くなりたくて、舐められたくなくて。
笑っていられるように、隠した。
ジンジンと、もう治ったはずの痣が痛んだ気がした。
こんな話をしてたから、きっと思い出してしまって。
さっきからね、すごい寒いの。
💙「……龍我、…ありがとね…」
💙「………でもね、私ほんとに大丈夫!」
💙「不本意だし、なんで私がって思うこともあるけどね、」
💙「……それでも、瑞稀が無事なら……私は大丈夫!」
そう言って、笑った。
大丈夫、まだ笑えるから、大丈夫だよ。
龍我は不満そうな顔しながらも、「はしもっちゃんが言うなら…」ってしぶしぶ頷いてくれた。
なんだか騙した気持ちになってしまう、申し訳ない。
「…………じゃあゆうぴーにだけ、ちょっと言っていい?」
💙「……っ、だめっ!」
優斗の名前に思わず反応してしまった私に、目の前の龍我が目を見開く。
きっと龍我のことだから、私の味方になってくれる場所を作ろうとしてくれたんだろうな。
……そんなの充分なのに。
💙「…………優斗は、だめなの…」
きっと優斗は、勝手に自分を責めるから。
優斗はなにも悪くないから、誰も悪くないから。
だから、優斗にはバレちゃいけないの。
「………わ、かった……ごめん、…」
「…………じゃあ何かあったら、絶対僕に言って」
また、この真剣な目。
この顔されると、なにも言えなくなってしまう。
でもこんな私なんかのこと、本気で心配してくれるのは、正直嬉しかったりもするんだ。
💙「…………わかった、ありがとう」
そう言うと、龍我は満足そうに笑った。
………よかった、笑ってくれて。
きっと龍我には、いじめにあってるのがバレてしまったと思うけど。
それでも、龍我が誰にも言わないことを信じよう。
……瑞稀まで、巻き込まれないように願おう。
そうすることしか、私は出来ないから。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。