こ、この人なんて言ったの?
よめ? ……ようめい?
用命って命令するって意味だっけ?
も、もしかして私の体目当て⁉︎
お父さん! お母さん! 親不孝な私でごめんなさい!
私、この男に弄ばれ――
――飽きたら売られちゃう……え?
この人は何を言っちゃっているの⁉︎
私は状況が飲み込めずにアタフタしながら、後退りした。
とんっと背中に扉が触れた感触。それを感じたと思ったら、眼の前に外道王子がいた。
そして、逞しい右腕が私の頭を掠めて扉に伸びて――ドンッ、という音が聞こえた。
眼光鋭い外道王子の顔を見ながら、私は不覚にも思ってしまった。
これが世にいう《壁ドン》、
人生で一度はイケメンにやられてみたいランキングで必ず上位に入る幻のイケメン業。
儚い幻想だと思っていた《壁ドン》が体験できるなんて!
もう死んでもいい……と。
私の頭が困惑していると、外道王子の顔が近づいてきた。
《壁ドン》からこの流れは――きすぅ⁉︎
急速に高鳴る心音。
私は混乱する心を必死に抑えながら、私は瞼をきつく閉じると――
――頭がフリーズした。
私の両頬を掴んで引っ張りながら、わけのわからない事を言う外道王子。
嫌味ったらしい笑みを浮かべてくるけど……ちょっと待ってほしい。
この人はさっきなんて言ったの?
え、えっと……確か、ぎそうがどうのって言っていたような――って、頬が痛いっ⁉︎
私は外道王子の手を払い、赤くなった頬を擦りながら睨みつける。
いいえ、初耳ですよ‼︎
急に真剣な顔して、何を言い出すの?この人は……。
そりゃ……見合い話なんてたくさんくるでしょうよ。
私に妄想させるくらいイケメンフェイスなんだから。
ま、毎回お見合い相手を泣かせているの⁉︎
さ、最低だこの人……。
外道王子の腕が伸びたと思ったら、ドンッと音が響いた。
壁ドンーーそう思ったときにはもう、外道王子の唇が私の耳元まできてーー
ーーガチャ、と音が聞こえた。
寄りかかっていた扉が開いた。
その瞬間、私の体が後ろへと倒れていきーー
ふわっと優しく包み込まれ、漂ってくる甘い匂いが私の心を落ち着かせてくれる。そして、心にぬくもりを与えてくれるような声音に、私の目は吸い込まれていった。
赤みが少し混じった綺麗な茶髪。少し幼く見えるけど、それを最大限に引き立てる甘いマスク。
そして、優しく微笑む顔は、まさに西洋の王子様だった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。