「おい。」
背後から響いたその声に、
ジナの身体がビクッと震える。
恐る恐る振り返ると、そこには他校の男子生徒が一人立っていた。
「お前、何しに来たの?」
「……。」
ジナが答えられずにいると、男はジナの腕を掴んだ。
「……っ!」
そのまま、ぐいっと引っ張られる。
「ジナちゃん……。」
ソヌが手を伸ばす。
けれど、立ち上がることもできないソヌの手は、あっけなく振り解かれてしまった。
「離して下さい……。」
ジナの声は、小さく震えていた。
「俺たちの縄張りに、のこのこ入って来てさ。」
「そんなこと言っても、知らねぇよ。笑」
男はジナの腕を掴んだまま、ニヤッと笑う。
「俺たちのケンカに参加するか?」
「……え?」
男はそのまま、ジナを敷地の奥へと引っ張っていく。
「やだ……!離してっ!」
ジナは必死に腕を振りほどこうとする。
けれど、力では敵わない。
「離して!!」
必死に訴えるけれど、それでも離してもらえない。
どうしよう…っ。
ジナは、大きく息を吸い込むと、
「キャ――ッ!!」
思い切り叫んだ。
その数秒後だった。
「ジナ!?」
叫び声を聞きつけて、
ジョンウォンが建物の中から飛び出して来る。
「ジョンウォンくんっ……。」
ジナの目には、涙が浮かんでいた。
「その子を離せ!!」
ジョンウォンが強く言う。
けれど、男はジナの腕を掴んだまま離そうとしない。
「縄張りに入ってきた奴は、どうなっても知らねぇって言ったよな?」
「でも、その子は関係ない!」
ジョンウォンの声が低くなる。
「巻き込むな。」
「知らねぇよ。」
男は鼻で笑った。
その瞬間、
ジョンウォンが一気に距離を詰めた。
「……!」
男が反射的に手を離す。
「ジナ!逃げて!」
ジョンウォンが叫ぶ。
ジナは急いでその場から離れた。
けれど、ソヌのいる場所まで戻って来たところで、足が止まる。
「ソヌくん…。」
倒れたままのソヌを、置いていくことができなかった。
「僕は大丈夫だから……。」
「ジナちゃんは、外にいて。」
きっと、ソヌくんの言う通りにするべきだ。
ここは凄く危険だから。
ジナがふと後ろを振り返ると、ジョンウォンがさっきの男とやり合っていた。
ジョンウォンは相手の攻撃をかわす。
そして、勢いをつけて身体をひねりながら跳ぶと、
ドッ!
鋭い蹴りが相手に入った。
「……!?」
ジナは目を疑った。
と……飛び蹴り……?
ケンカって、拳で殴り合うものじゃないの……?
思わぬ光景に、ジナは一瞬その場に釘付けになる。
けれど、すぐにハッと我に返った。
今はそんなことを考えている場合じゃない。
ジナは後ろ髪を引かれながらも、急いで敷地の外へ出た。
工場の外にある塀に背中を預ける。
「……はぁ……。」
と息をついた。
本当は、このまま帰った方がいいんだろう。
でも、みんながまだ中にいる。
とても一人で帰ることなんてできなかった。
そのまま待っていると、
こちらへ近づいてくる足音が聞こえた。
誰……?
足音の方を見ると、
そこには、ソヌの肩を支えながら歩いてくるジョンウォンの姿があった。
「ジョンウォンくんっ、ソヌくんっ…。」
「ジナ……。」
ジョンウォンはジナの姿を確認すると、ほっとしたように息を吐いた。
「無事で良かった……。」
切なげに眉を寄せる。
「ごめん……。」
ジナは俯いた。
「来るなって言われたのに……。迷惑かけて……。」
「ううん。」
ジョンウォンは首を横に振った。
「迷惑なんかじゃない。」
そして、支えていたソヌをゆっくりと、塀にもたれるように座らせる。
「俺は、また中に戻らないといけないから。」
ジョンウォンはジナを見る。
「ジナ、ソヌの側にいてくれないかな。」
「うん。」
ジナは頷いた。
「ここにいるね。」
「ありがとう、ジナ。」
ジョンウォンは、ほんの少しだけ笑った。
「すごく助かる。」
「うん。」
「じゃあ、行ってくる。」
「うん……気を付けてね。」
ジョンウォンは頷くと、再び工場の中へと戻っていった。
その背中を見送りながら、ジナは胸の前で手を握りしめた。
どうか、みんな無事でありますように。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!