公演期間が終わった日の夜。
私は家に帰ると、何も言わずに凪様の背中にそっと近づき、ギュッと抱きついた。
不意を突かれて、彼女は少しだけ驚いた声を出す。
振り返ろうとしながら、柔らかく笑う。
けれど私は答えない。
そのまま彼女の背中にグリグリと頭を押し付けるようにして、ただ甘える。
様子がおかしいことに気づき、
彼女はそっと私の腕をほどいた。
ゆっくりと振り返る。
そこには、今にも泣き出しそうな顔をした私。
声のトーンがグッと低く、優しくなる。
私は唇を噛んだまま、何も言わない。
それ以上問い詰めることはせず、
彼女はただ私を抱きしめた。
大きな腕で包み込んで、背中をトントンと一定のリズムで
優しく叩く。
言葉はそれだけ。
しばらくすると、あなたの下の名前の肩の力が抜けていく。
呼吸が整い、やがてスヤスヤと寝息が聞こえ始めた。
彩凪はそのまま動かず、
片手であなたの下の名前の髪を撫でながら、
そっとスマホを手に取る。
彩風に短くメッセージを送った。
しばらくして返事が届く。
『あなたの下の名前が千秋楽で台詞を忘れてしまって、
周りがフォローしたんです。練習しすぎてほかのシー
ンと台詞がこんがらがってしまったみたいで。
終わった後、すごく落ち込んでいました。』
画面を見つめたまま、彩凪は小さく息を吐いた。
腕の中で眠るあなたの下の名前の額に、
そっと自分の頬を寄せる。
小さな声で囁き、頭をゆっくり撫でる。
責める気持ちなんで、微塵もない。
どれだけ頑張ってきたかを知っているから。
そう言って、もう一度ギュッと抱きしめる。
やがて彩凪も目を閉じた。
腕の中の温もりを確かめながら、
2人は静かな眠りに落ちていった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。