稽古場の隅で、私はいつも静かに立っていた。
感情を表に出すのが得意じゃない。
笑う時も泣く時も、どこか一歩引いてしまう。
そんな私を、凪様はずっと気にかけてくださっていた。
そう声をかけられるたびに、私は首を振るだけだった。
本当は、彼女の視線が温かくて、少しだけ怖かった。
その日、稽古終わりの静かな楽屋で、
彼女はいつになく真剣な顔をしていた。
名前を呼ばれ、私は背筋を伸ばす。
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
けれど次の瞬間、胸の奥がギュッと締め付けられる。
私の目は、抑えきれない寂しさで潤んでいた。
それを見て、彼女は小さく息を吐いて優しく笑う。
あまりにも突然で、私は驚き少しの間固まった。
頭が追いつかない。
けれど心だけは、先に答えを出していた。
気づけば、私は勢いよく頷いていた。
それを見た彼女は、ホッとしたように肩の力を抜く。
その声は、舞台上の凛とした男役とは違って、とても人間らしくて。私は初めて、自分の感情を隠さずに微笑んだ。
彼女はその小さな変化を見逃さなかった。
彼女の退団は終わりじゃない。
2人で始める、新しい日々の始まりだった。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。