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第1話

優しい凪様は私の恋人に
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2026/01/29 06:07 更新
稽古場の隅で、私はいつも静かに立っていた。
感情を表に出すのが得意じゃない。
笑う時も泣く時も、どこか一歩引いてしまう。
そんな私を、凪様はずっと気にかけてくださっていた。
彩凪翔
彩凪翔
無理してへん?
そう声をかけられるたびに、私は首を振るだけだった。
本当は、彼女の視線が温かくて、少しだけ怖かった。
その日、稽古終わりの静かな楽屋で、
彼女はいつになく真剣な顔をしていた。
彩凪翔
彩凪翔
なあ、あなたの下の名前。
名前を呼ばれ、私は背筋を伸ばす。
彩凪翔
彩凪翔
私、退団することにした。
一番にあなたの下の名前に伝えたかってん。
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
けれど次の瞬間、胸の奥がギュッと締め付けられる。 
私の目は、抑えきれない寂しさで潤んでいた。
それを見て、彼女は小さく息を吐いて優しく笑う。
彩凪翔
彩凪翔
寂しいよな。私も寂しいんよ。
だから……付き合ってくれへん?
一緒に住まん?
あまりにも突然で、私は驚き少しの間固まった。
頭が追いつかない。
けれど心だけは、先に答えを出していた。
(なまえ)
あなた
(私も凪様が好き。離れたくない。)
気づけば、私は勢いよく頷いていた。
それを見た彼女は、ホッとしたように肩の力を抜く。
彩凪翔
彩凪翔
よかった。断られるかと思ったわ。
その声は、舞台上の凛とした男役とは違って、とても人間らしくて。私は初めて、自分の感情を隠さずに微笑んだ。
彼女はその小さな変化を見逃さなかった。
彩凪翔
彩凪翔
……やっぱり、笑うと可愛いやん。
彼女の退団は終わりじゃない。
2人で始める、新しい日々の始まりだった。

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