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2019/04/10

第10話

第十話
 美琴は朝弥に視線をやり、そうして、銃のトリガーを引いたときの心境を思い起こす。
美琴
美琴
……先輩の、おかげ――だと、思います
朝弥
朝弥
……僕の?
美琴
美琴
はい、先輩が、私を守ってくれたから……。だから私も、先輩を守りたいって思って……
 朝弥に向けて、美琴は微笑んだ。
美琴
美琴
ありがとうございました、先輩
 一瞬だけ彼は言葉に詰まり、そうして返答をする。
朝弥
朝弥
……礼を言うのは、僕のほうだよ。おかげで命を救われたんだ
美琴
美琴
そんな……ほんとに、私――
虹子
虹子
ちょっとぉ~! 私のこと忘れてなぁい~?
 静かな夜に似つかわしくない賑やかな声が、ふたりのやり取りを遮った。
 見ると、虹子が手を振りながら走ってきている。スリットの深いチャイナドレスで走っているために、たくましいふとももが際どいところまで露出していた。
鬼ヶ崎
鬼ヶ崎
おお、虹子。大丈夫そうやな
虹子
虹子
大丈夫じゃないわよぉ~。ほら、見てこれ! 爪欠けちゃったんだからぁ~!
 彼は美琴達のところにまで走ってくると、紫のラメだらけのネイルをかかげる。確認すれば、たしかに端が僅かに欠けてしまっていた。
鬼ヶ崎
鬼ヶ崎
あんだけの数の敵片付けてそれで済んだんやから、かまへんやないか。相変わらずアホみたいな強さやな
虹子
虹子
全然よくないわよぉ~! 塗り直しじゃな~い! 昨日塗ったばっかりなのにぃ~
 悲しげな声を出した虹子は、そこではっとして美琴と朝弥に双眸をやる。
虹子
虹子
ちょっとちょっと、そういえば。さっきのすっごい光、あれなんなの? 誰よ? もしかして、あっちゃん?
鬼ヶ崎
鬼ヶ崎
と、思うやろ
 鬼ヶ崎が親指で、美琴を指し示した。
 彼と美琴を交互に見た虹子はきょとんとして目をしばたたき、次いで瞠目する。
虹子
虹子
えっ、嘘、みぃちゃん? って、やだもぅ~、そんなわけないじゃない。まだ素人同然なのよ、この子
鬼ヶ崎
鬼ヶ崎
これがマジなんや。ワシがこの目で確認したし、なんやったらあっちゃんに訊いてくれてもかまへん。この子もみぃちゃんが敵ぶっ飛ばすん見とったしな
 笑っていた虹子が、急に真剣な面持ちになる。
虹子
虹子
……え、本当なの? あっちゃん
朝弥
朝弥
本当なんですよ、虹子さん
 肯定を受け、虹子が丸くした目を美琴に注いだ。
虹子
虹子
あらぁ……。また、とんでもない素質の子が入ってきちゃったわねぇ
鬼ヶ崎
鬼ヶ崎
期待の新人っちゅーやつやな
美琴
美琴
いや、でも、あの……自分でもどうしてあんなことが出来たのか、よくわかんないですし……偶然かも……
虹子
虹子
たとえ偶然だったとしても、ろくな経験も積んでないのにあんなことが出来るあたり、やっぱりみぃちゃんには素質があるのよ。センスって言い代えてもいいかもしれないわね
 虹子は美琴の肩に腕をまわして密着し、頬ずりをする。
虹子
虹子
なんなら、私の妹分にしてあげてもいいわよぉ~。その才能を開花させるために、ビシバシしごいてあげちゃう!
美琴
美琴
えっ、いや、急にそんな……
鬼ヶ崎
鬼ヶ崎
それ、ええかもしれへんな
美琴
美琴
えええ……っ
 美琴は、鬼ヶ崎が冗談でそうくちにしたのだとばかり思ったのだけれども、どうやら彼は本気らしかった。
鬼ヶ崎
鬼ヶ崎
みぃちゃんの基礎的な能力が高いんは、今回の一件でわかったからな。あとは、経験積むだけや。どや、みぃちゃんさえかまへんのやったら、虹子とあっちゃんのコンビとしばらく一緒に行動して、退魔師のノウハウを教えてもらうっちゅーんは
虹子
虹子
あら、いいじゃな~い。お姉さんがなんでも教えてあげちゃ~う!
美琴
美琴
に、虹子さんと……先輩、と……?
 ちらりと美琴が朝弥に視線をやると、それに気付いた彼は美琴に微笑を返した。
朝弥
朝弥
うん、いいんじゃないかな。学校も一緒だから、なにかあった際も相談に乗ることが出来ると思うし。……もちろん、桃木さえよければ――なんだけど
美琴
美琴
わ、私は全然、断る理由なんかないです! あの、よ、よろしくお願いします
 美琴は、朝弥と虹子に頭をさげる。すると、虹子がこれまで以上に楽しげな声を出した。
虹子
虹子
あ~ん、真面目~! 超いい子じゃな~い!
鬼ヶ崎
鬼ヶ崎
お前も見習え、虹子
虹子
虹子
ボスに言われたくないんですけどぉ~
 朝弥は美琴に手を差し出す。
朝弥
朝弥
じゃあ、改めてよろしくね、桃木
美琴
美琴
あっ、は、はいっ
 握手を求められているのだと気付くのに、少しの間があった。美琴はあわてて、朝弥と握手をする。
 退魔師の仕事が危険であるのは先程の経験で痛感したけれど、それでも、朝弥と行動を共に出来る喜びを抑えることは難しかった。

 今の握手にも、深い意味が込められているわけではないのは理解している。が、理解はしていてもやはり胸の鼓動は高鳴ってしまうし、体温もいくらか上昇してしまうのだった。

 それに、今後は自分の努力が世界を救うだけではなく、朝弥を手助けすることにも繋がるのである。高揚するなというほうが、無理な話だろう。
 頑張りたい――と、単純ではあるが、ただ純粋にそう思った。

 そこまで考えて、美琴ははっとする。
美琴
美琴
……そういえば、先輩。敵にやられて、怪我してたんじゃ……
朝弥
朝弥
うん。じつは、今ちょっと眩暈がしてる。あはは
 笑うと、彼はその笑顔のまま倒れていった。
美琴
美琴
せ、せんぱーいっ!
鬼ヶ崎
鬼ヶ崎
うわ、お前のこれ全部血ぃか?
虹子
虹子
やだぁ~、あっちゃん死んじゃうの? 死なないでぇ~!
 倒れた朝弥を、虹子が力任せに激しく揺さぶる。朝弥の頭が、まるで壊れたオモチャのようにがくがくと揺れた。
美琴
美琴
虹子さん、だめです! そんなことしたら本当に先輩が召されちゃいます!
虹子
虹子
あっちゃんのことはずっと忘れないからねぇ~!
美琴
美琴
縁起でもないこと言わないでください!
鬼ヶ崎
鬼ヶ崎
とりあえず、救護班に連絡入れるわ
 言うと、鬼ヶ崎は指輪型の通信機でさっそく連絡を取り始める。
 虹子の獣じみた雄たけびは、静かな夜の街に反響して広がった。通報でもされてしまうのではないかと、美琴は気が気ではない。

 そんな虹子に強く抱きしめられて、朝弥が意識を失った。出血のせいもあってか、顔色が死人のようである。
 美琴は、退魔師としてのこれからの活動に、早くも不安をいだき始めた。
 そして、朝弥のためにも、一刻も早い救護班の到着を祈るのであった。