朝食を作っていると、突然左肩に何かが乗ってきた。
駄々をこねる子供のような声を出したと思えば、ふと気付いたように言う。
思い出したくないから言わないでと言ったのに、遊は相当この時のことが嬉しかったのか毎年必ず話題に出してくる。まぁそれは他の日もだけど。
遊の雰囲気がすぐにも歌い出しそうな上機嫌になる。
遊の穏やかな笑い声を聞いて、自然と口から笑みが漏れた。
肩から重みがなくなり、行くのだろうと思ったが、何故か、するりと右肩の方に腕を回してくる。
彼を振り向くと、視線が合う前に唇を重ねられた。
甘く微笑むと、遊はキッチンを出ていって後方にあるダイニングへ向かっていく。
私はお玉を持っていない左手で顔を覆った。
鷹羽遊。夫になった彼は――ますます、愛が重い。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。