第3話

ア ネ モ ネ
100
2025/03/19 01:38 更新



︎︎
あ、あなたさぁ〜ん

放課後の少し暗くなった教室
私は一人残って、高校の数学の参考書を開いている。

そんな私に、いわゆるクラスの一軍女子の集団が話しかけてきた。


話したことのある記憶は無いが。


あなた
…なにか、用ですか…?
︎︎
同クラなのに敬語とか笑えるんだが〜w
︎︎
あ、実はさー?今日日直なんだけどさアタシ
︎︎
用事あって!マジで重要すぎるやつ!
世界滅亡レベル?って感じ!

何となく、言いたいことは察した。

︎︎
でぇ、日誌代わりに書いといて欲しくって〜…みたいな?

まぁ、そうだろうな。

猫なで声で女の私に甘えてくる彼女を前に
頷く以外、選択肢は無かった。

あなた
…分かりました、どこにあります…?
︎︎
優しすぎかよ!!?さんきゅーあなたさぁん
これこれ、じゃやっといてなー。あたしら行くわ。


恐ろしいほどの手のひら返しを披露して、
彼女たちはそそくさと教室から去っていった。
彼女たちの足音とはしゃぐ声が、遠ざかって、ついに消えた。



あなた
…こんなこと、してる場合じゃ……

まだ、お母さんから渡されたノルマを達成できていない

早く終わらせて帰ろう。


乱雑に机に放り投げられた日誌を開いて、白紙のページを開いた。


今日、なにしたっけ…?

まずはそこから思い出さなければ、何も始まらない。


あぁ


ああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ


だめだ

なにもかんがえられない

あたまがせいじょうにはたらかない

はやくとかなきゃ
さんこうしょ、ださなきゃ

おかあさんに おこられる

おとうさんに あきれられる



みんなに だれかに



不二くんに

きらわれる?





ガラガラ、となにか重い音がした気がした

そんなもの、私のその時の脳で処理できる訳もなかった

額から汗が滴り、落ちる。

私の前の席の椅子が動いたのが視界の端で見えた。



恐る恐る、足りない脳で体を、頭を動かした。


 不 二 周 助 .
ふふ、どうかした?

 不 二 周 助 .
あなたさん。


一瞬で、思考がいい意味で飛び散っていった。


あなた
…不二、さん、、?
 不 二 周 助 .
ふふっ、“不二くん”でいいよ。
同じクラスなんだし……ね?

私の机に肘をつき、頬杖をつく不二くん。

そんな仕草さえ、男なのに可愛らしく見えるのは、
私が変だからなのか?


あいや、そんなことをしている場合じゃない。

日誌、やるんだった…


再び、開かれた日誌に向き合った。


私が日誌に向き直ってもなお、
目の前の彼は立ち去ろうとする仕草を見せない。

 不 二 周 助 .
ここの漢字、間違ってるよ。
「ごめんね」の一言の後、彼は私が持っていたシャープペンシルを取り、間違っていた漢字のお手本を書いて見せた。
 不 二 周 助 .
確か、こっちのはずだよ。
君の字ほど、綺麗じゃなくてごめんね。
あなた
…っえ、あ。全然…
…ごめんなさい…
 不 二 周 助 .
……

 不 二 周 助 .
謝らないで。
 不 二 周 助 .
人間だからね、間違えることや分からないこともたくさんあるのは当たり前だよ。
 不 二 周 助 .
何も悪くないよ、大丈夫。

あなた
…は、い……


 不 二 周 助 .
さっきから気になっていたんだけど…
今日、あなたさんは日直じゃないよね?
どうして日誌をやって…
あなた
えと、その………頼まれた、ので…
若干濁して言うと、彼は呆気に取られたかのように珍しく目を見開き、すぐに閉じてクスクスと笑い始めた。
あなた
な、なん、なんで笑う…の、、
 不 二 周 助 .
っ、ふふふっ…いや…優しすぎるなぁと思って……

 不 二 周 助 .
優しい人なんだね、あなたさん。
普通、断っちゃうものだよ、そういうのは。
 不 二 周 助 .
僕だったら、直近の用事が無くても断るだろうし。
 不 二 周 助 .
僕も少しだけなら手伝うからね。



私が産まれてこのかた、一度も言われた覚えの無い言葉の羅列
其れが、当たり前のように彼の口から流れ出た。

そう、彼は私の生きる理由。

真っ暗闇の私の人生に、たった一つ光が差したの。

だから、私は貴方に近づきたくない


私の生きる理由を、私で穢したくない。



その日、日誌が終わって昇降口に降りるまで
彼は、私のそばにいてくれた。


そばに、いてくれた。
わたしみたいなゴミクズのとなりに。


もう、これで最後にしよう。
諦めなきゃ、私はいつまでもあの光を追い求めてしまうのが目に見えているから。

断ち切らなければ、いけない。


藍色が混ざった夕焼け空を眺めながら帰路を辿り、私はそう独り思った。

アネモネの花言葉【 恋の苦しみ 】【 見捨てられた 】

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