第8話

7 . 脱獄王
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2025/08/28 18:14 更新
軍人A
夕方に川岸で見つけました…。
軍人B
発見がもう少し遅ければ低体温症で死んでいたでしょう。この怪我でよく岸まで這い上がったものです…。
軍人C
何者かに山で襲われたのか…?
どうして尾形上等兵は単独行動をしていたのだ?
軍人D
わかりません…、意識の回復を待つしか…。
夜が明け私達は早速罠を仕掛けにクチャ(仮小屋)を後にした。
アシㇼパ
ウサギの足跡だ…!
あなた
あっ、本当だ!
杉元
どれどれ…
アシㇼパ
こら杉元、あなたの下の名前、獣道を踏むな。ウサギは人間の足跡があると避けるぞ。
あなた
わ、ごめんなさいっ!また一つ勉強になった…。。
アシㇼパ
気にするな!それより罠を仕掛けよう
杉元
ここにも仕掛けるのか
アシㇼパ
獣道を見つけたら上に罠を仕掛ける。道の両脇に木の枝で柵を作り罠に向かって誘導する。
アシㇼパ
あとはくくり罠を獲物の頭の高さに合わせて調整すれば……。。。
白石
ぐあうッ…!!
杉元
二匹目!!
私達が仕掛けた罠にハマったのは…ウサギではなく入れ墨の囚人だった。
杉元
お前も他の囚人に殺されかけて逃げてきたのか?囚人は全部で何人居る?
杉元
のっぺら坊の仲間とはどこで会う手はずだった?
杉元
罠で喉が潰れたか?
白石
そのアイヌと…ここらじゃ見掛けない女のコはお前さんの飼いイヌか?
私とアシㇼパちゃんに嫌な事を言ってきたこの坊主頭の囚人さん…第一印象が最悪過ぎた。
私はともかくアシㇼパちゃんを悪く言うのは許さない、言い返すのは怖いけどどうも納得がいかず入れ墨を模写しているアシㇼパちゃんのすぐ傍に居た私は思わず立ち上がり…
あなた
っ…アシㇼパちゃんを侮辱する様な発言…今すぐ取り下げて下さいっ!!
メギメギメギッ…
杉元
アゴを砕いて本当にしゃべられん様にしてやろうか
あなた
す、杉元さん、っ!
アシㇼパ
よせ杉元、あなたの下の名前。私は気にしない、慣れてる。
だがあなたの下の名前に対しての侮辱は私が許さない。発言には気を付けろ。
あなた
っ…アシㇼパちゃん…ありがとう。でも慣れる必要なんかないよ。慣れちゃいけない。
杉元
…そうだ。
この時何故ここまで憤っていたのか…杉元さんがまだ戦争へ行く前の村で皆と過ごしていた話を後に聞いた。杉元さんの言う惚れた女はその村に居た『梅子』さんと言う人で杉元さんの親友である【寅次】さんと結婚したと言う話も聞かされた。
胸が苦しくなって切なくて、杉元さんの優しさや時々垣間見える猟奇的部分にも納得がいく程だった。戦争は人を変える…私は戦争を学校の教科書や修学旅行等で観る映像程度の知識だけだった為か現代を生きている我々の甘さが今はもどかしく感じた。
アシㇼパ
杉元!あなたの下の名前!見ろ、ウサギが居る!
あまりにも囚人さんが何も吐かない為、ある程度入れ墨を写した所で各自飽きてしまったのか…はたまた一人目で上手く?いったせいか気を緩めてしまった。
あなた
ん…?どこ、?
アシㇼパ
あそこに耳が見えるだろ、先の黒い
あなた
あっ、本当だ…!かわいい〜…。
杉元
んん…見えるには見えるが…隠れて狙えんな…。手負いにはさせたくない。
アシㇼパ
いいか?ウサギが昼間にうろうろしているのは天気が崩れるから避難するためだ。今日はアイツを捕まえてすぐ小屋に戻ろう。
アシㇼパ
よし、あなたの下の名前!この棒をウサギの頭の上に投げろ!
鳥に襲われたと勘違いして動かなくなるぞ!
あなた
うぇっ…!私?!
杉元
ん゙、驚かせるのはかわいそうだな…
あなた
杉元さんっ!そんな事言わないで下さい!やりづらい…!!
アシㇼパ
杉元が余計な事言うからあなたの下の名前のやる気が削がれるだろう!
杉元の事は気にするな!合図するから投げろ!私が走って手で捕まえるから!
あなた
わ、分かった!!
そう…この時私達は狩りに集中していて気が付かなかった。
この男が白石由竹であると同時に『脱獄王』の異名を持つ天才脱獄犯だと言うことに。
『脱獄王』白石の投獄のきっかけは強盗だった。しかし今となれば幾度と無く脱獄を繰り返した為強盗での懲役をはるかに上回る程の罪を重ねていた。
彼の脱獄は様々で関節を安易に脱臼させられる特異体質を生かし鉄格子を外した狭い視察孔を抜け出したり、不意に捕まったとしても拘束を解ける様に自身の体に針金や釘を埋め込むなどして隠し持っているなどしてその場をやり過ごして居た。

そして現在…私達がウサギに夢中になってる最中、口内から包まれたカミソリを吐き出せば器用に使って固く結んだ手首の拘束は簡単に切り離されてしまっていた。
杉元
いけっ!あなたの下の名前!
あなた
〜〜〜っ…ふん!!!
アシㇼパ
オラァーッ!!!
アシㇼパ
はぁっ、はぁっ、どうだ杉元、あなたの下の名前!撮った………
アシㇼパ
…ッ…後ろーーーッ!!!
あなた
…へっ…?!
杉元
何っ…嘘だろ…?どうやって…!!
アシㇼパ
杉元!深追いするな!天候が……!
杉元
アシㇼパさんとあなたの下の名前ちゃんは小屋に向かってろ!!必ず捕まえて来るから!!
杉元
っ…この野郎……戻ってこい!撃つぞ!!
白石
やってみろッ!こっちは今撃たれようがあとで撃たれようが一緒だ!
パァァーーーーン
杉元
銃声…?
アシㇼパ
っ…いやニプㇱ フㇺだ…!
ニプㇱ フㇺ とは、アイヌ語で『木が裂ける音』を意味する。強烈な気温低下によって樹木の水分が凍結し、幹が凍裂する現象である…。

マイナス30℃の猛烈な寒気が 山の上から杉元達に襲い掛かる音であった…。
あなた
あ…アシㇼパちゃん…!
アシㇼパ
っ…ここは杉元達に任せよう…。あなたの下の名前、けして逸れるなよ、ちゃんとついてこい!
あなた
っ…わかった…!!
アシㇼパ
杉元まだか…はやくウサギ食べたいのに…。
あなた
んん、アシㇼパちゃんはもっと違う事を心配するべきな気が……。。
アシㇼパちゃんの腹の虫が鳴り止まず私が丁度なだめていた時、彼等は川に落ち危うく二人まとめて低体温症で死ぬ所だった…と言う話はまた今度…。。

無事生存出来た二人は私達が腹ペコだとつゆ知らず暖を取りながらのっぺら坊について話していたらしい。
白石
入れ墨の囚人は全部で24名だ。はたして今どれくらい生き残っているのやら…お前が言っていたのっぺら坊の仲間の事は本当に知らん。
…それについて知っているのは脱獄の指揮をした囚人達の親玉だ。
杉元
親玉はどんな野郎だ?
白石
単なる政治犯のジイさんだと思っていた。大人しい模範囚さ…ところがどっこい猫かぶってやがった。脱獄途中…俺の目の前に居た屯田兵から軍刀を奪い瞬きの間に3人切り捨てていた。
…後で知ったが、三十数年前の箱館戦争で戦った敗残兵らしい…、旧幕府軍の侍だ…、。
白石
そしてあの爺は箱館戦争で戦死したと言われている…
" 新撰組 鬼の服装長 土方歳三 " だってね…
杉元
…………。
白石
最後に一つ教えてやる。俺たち囚人はのっぺら坊から『小樽へ行け』と言われた。
杉元
…白石と言ったな。次に会う時はその入れ墨を引っ剥がすぜ。アイヌの金塊は諦めて脱出するんだな。
その入れ墨を狙ってるのはほかの囚人達やのっぺら坊の仲間だけじゃねぇ…
杉元
日露戦争帰りの第七師団も追ってるんだ。戦い慣れた歴戦の兵士達だぞ…。
杉元
きっと生かしちゃくれねぇ、入れ墨さえあれば本体は用無しだからな…態々連れて歩く手間も省けるし刺青人皮として持ち歩けば目立たないだろう。
白石
ハッ!俺は脱獄王だ。誰に捕まろうが煙のように逃げてやるさ。
白石
…アバヨ!『不死身の杉元』!もしもまたどこかで会えたなら…そん時はあの可愛い女のコ紹介してくれよっ!
杉元
な゙…っ…!…チッ…冗談じゃねぇ…。
軍人A
鶴見中尉殿ッ!尾形の意識が回復しました。
鶴見中尉
そうか、では見舞いに行ってやろう。

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