その夜。
みんなもう寝た頃。
迅の部屋の隣の壁───
そこから、トントン、と何かが当たるような微かな音がした。
そしてすぐ、ベッド脇に置いたスマホが震えた。
───【あなた】からメッセージ。
「……ねぇ、迅」
「恥ずかしすぎて寝れない……」
迅は小さく吹き出して、思わずスマホを口元に当てながら笑いをこらえた。
呟きながらも、返事を打つ。
【迅】「あはは。バレた時の顔、真っ赤だったもんな」
【迅】「大丈夫、みんな祝福してくれてたし」
すぐに返ってくるメッセージ。
「だって、みんなの前で言うなんて思わなかったもん!」
「思い出したくないよ…」
その文面を見た瞬間、迅は思わず天井を見上げて深く息をついた。
でも、顔を見に行こうとはしなかった。
今、彼女がどうしても気恥ずかしくて、自分の部屋で丸まってるのを分かっていたから。
だからこそ、彼は“待つ”ことを選ぶ。
【迅】「今日はゆっくり休みな。
明日も訓練あるし、あなたが倒れたらおれが困るから」
すると、少し間を置いて……
「迅、ほんと優しいの」
「好き」
───その瞬間。
迅の指が止まった。
心臓が一瞬で熱を帯び、ほんの数秒の間、頭が真っ白になる。
彼女は軽く打った一言かもしれない。
でも、それは紛れもない“好き”で。
今までどんな未来を見ても動じなかった自分が、このたった一行に、完全にやられてしまっていた。
指先が震える。
……それでもなんとか打ち返した。
【迅】「おやすみ、あなた」
【迅】「おれも好きだよ」
───既読がつく。
そしてその後、返信は来なかった。
多分、照れながら布団に潜って寝たんだろう。
静かな部屋に、自分の鼓動だけが響く。
枕に顔を埋めて、迅は小さく呻いた。
笑いながら、照れながら。
結局その夜、寝れなくなったのは───
迅の方だった。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!