ꕤ︎︎~新設定~ꕤ
__LAN視点
濁り色の空を見上げそろそろ雨が降り出すだろうとぼんやりと考える
冷え込んできた。北風が容赦なく俺に向かって吹いてくる。早く帰った方が良いなと思いつつも一向に足が家の方向に進むことはなく
気づけば「自殺の名称」と人々によって呼ばれている海に来ていた
……ん?…え?……海!?
自殺の名称…?(笑)
何言ってんだ俺は。
そんな事でメンタルが壊れる程やわじゃ無いだろ。…帰ろう。
そう思ったがここに来たのも何かしらの縁だと思い
靴下を脱いで足だけ水につける
水の中は俺の想像していた水温より冷たくて一瞬にして足は麻痺していった
そして冷たさが感じなくなると今度は急に強い眠気が襲ってきて知らず知らずのうちに俺は深い眠りの中に堕ちていった。
昔から感受性が豊かだと言われ子供の頃から目指してきた”声優”の道
1日何十時間を超える過激な練習量
高校も大学も声優科がある学校に進学するなど俺の青春は全て…その道に費やしていた。
それでも同じ夢、目標を持つライバルは星の数ほどいる。それを職と出来る人などほんのひと握りだけ。俺が何度オーディションに参加しても受け取る結果通知の内容には良いものは含まれていなかった。
ずっと俺に期待をしてくれていた親も親友も気づいた頃には俺から離れていった。
この世の中は結果が全て。その過程など誰1人して見てくれない
それでも声優の道に進むのは俺にとって本当に憧れだったから、諦めたくなかったから
寝る間も惜しんで永遠に経験を詰んできた。
その努力が実って「合格」の通知が届いた時の感動は忘れられない。
同期にもう1人事務所が採用した人がいた。
「岩崎 風雅」後にいれいすの「If」として活動する事になる男。
彼とは本当に不仲だった。
いや、一方的に俺が嫌っていたという方が正しい表現かな。理由?そんなのさ…分かるじゃん。全てといっても過言ではない位、俺の仕事を取られたからだよ。
俺を採用してくれた所は英語を得意とする事務所だった。帰国子女である彼はそれを知った上で受けたのだろう。俺ももちろん苦手なりには頑張った。あの時と同じくらい一日の大半を英語の学習で潰したこともあった
だけどさ、俺はただの一般人
それも演技の勉強しかして来なかった奴がさ
いきなり帰国子女に太刀打ち出来ると思う?
答えは当たり前だけど不可能。
でもまぁそこは、彼と同期になると分かった時から覚悟は出来ていた。悔しいけど彼の英語スキルは本当にすごいからね。
だけど、事務所が取ってくる仕事には少なからず恋愛系のものもあった。
俺達の代は女性で声優を目指す人が少なかった。それだからか多くの脚本家や監督は、「女声を得意とする男性声優」を求めた。そこに前から目をつけていた俺は直ぐに高度な女声を披露した。大絶賛だった。
清々しかった。俺から全てを奪った彼の歪んだ表情を眺めることが、彼に俺と同じ惨めな気持ちを味合わせるのが。
彼のような声質では女声の習得は不可能
その時の界隈は恋愛物の方が力をつけていて
俺の時代を迎えることが出来た。
親に、親友に、監督に、ファンに、世界に認められた。やっと…やっと夢を叶えられる。そう思った
だけど、焦りを覚えた彼の成長速度は凄まじく、いつしか俺の武器のクオリティを悠々と越して行った。
それに加えて社交性も申し分ない彼はまたしても俺より上に立ちキラキラと輝き出した
この時に初めて俺は上に立てない人間だと自覚した。
そんな状態が1年近く続いたある日、俺だけが残っていた事務所に監督から一通の知らせが入った「岩崎が来ていない」…と。
彼が担当する大人気アニメの生配信声優番組
監督の声は現場に来ない彼への怒りで震えていて電話越しでも周りがザワついているのが分かった。
彼は2時間近く前にここを出た。
ここから目的地までは40分程度。遅くても1時間あれば余裕で着くことが出来る距離。交通網の遅延等も考えたが何処にもそんな記事はなく、朝から顔色が悪かった彼の事が気になり俺は事務所を飛び出した
彼の身に危険がある可能性があると分かった以上いくら嫌いだとしても放っておくという選択肢は無かった
現場から最寄りに着いた頃、ザワザワとした人混みをみつけた。身バレ防止の為に声を変えてその中の一人に話しかける。
話を聞いていると「青髪」「高身長」など彼を連想させる沢山の単語がズラズラと並んだ
体調が悪く倒れ込んだとの事だ。
知り合いかもしれない、そう告げると周りの人々は安心したように散っていった。案の定、囲まれていたのは彼だった
その日はとりあえず監督に「見つかりました」とだけ連絡を入れて彼の家に送り届けた。
次の日、彼は監督から「引退」を告げられた。彼が居ないことにファンが激怒し番組の放送が厳しくなったからだそうだ。
…彼奴は何の抵抗もせずに俺の傍から離れていった。許せなかった。散々俺から奪って壊して台無しにしたのに。俺の声優の道を奪った結果がこれか…と。
俺も翌日、声優を辞めた。あんな奴をライバル視していた俺が馬鹿に思えてきたから。そんな事実を消し去りたかったから。
あ、彼奴と俺が所属していた事務所はもう潰れたみたい。まぁTOP2が消えた事務所に継続は厳しいからね。もう、俺には関係の無い話だけど。(笑)













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。