4話です
山の中を進んでいくと、美しい藤の花の咲いたところに来た。
鱗滝さんの山みたいに空気が薄いこともなく、いつも通りの動きができそうだ。
階段を登り、古い鳥居をくぐると、20人くらいの人たちが集まっていた。刀を持っているからこの人たちも最終選別を受けにきたのだろう。
そう言った2人の少女は最終選別の説明をしてくれた。
7日間生き残る。食べ物は何とかなるらしいが、そんなに長い時間集中していることは難しい…。
安全な場所を見つけることが大事そうだ。
いや、それで本当にいいの…?
私はあの人みたいな強い剣士になりたい。あの人だったら隠れて過ごすなんてことしないはずだ。
7日間でできるだけ多くの鬼を倒す。
私ならできる。
今までの稽古を無駄にしない。
考え事をしていると、鬼が出てきた。
あの日、私を襲ってきた鬼と少し似ていた…。
あの日のことを思い出して、体が震える。
私は何もできなかった…。あの人がいなかったら私は死んでいた。
やっぱり、私には…。
いやっ!やるしかない。
お母様も、おじいちゃんも、鱗滝さんも、こんな私を認めてくれた。
その期待を無駄にはできないっ!
鬼が襲ってくる。鋭い爪を出して…。
くるっと円を描くように刀を振る。
そのまま、鬼の首はストンと落ち、塵となって消えた。
ずっと出来ないと思っていたことが、出来るようになっていた。
稽古は、無駄じゃなかった。
ダメだ、感動してる場合じゃない。
もっとたくさんの鬼の首を斬らないと。
西に向かって走り出す。
さっきよりも体が軽くなっている気がした。
〈2日後〉
あれからずっと鬼を倒して走り回っている。
ただし、複数から攻撃されると危険なので、単独行動している鬼を見つけ、できるだけ素早く静かに斬ることを意識した。
そうなると時間もかかるし、集中力もつかう。
2日たって、身体にも精神的にも限界が来ていた。
くそっ、この鬼全然撒けない。
一旦隠れて休憩しようと思っていたのに…!
ひゅっと私の腕に鬼からの攻撃があたる。
腕を確認すると、鋭い棒状のものが腕を貫いていて、血が流れている。
こういうのって抜かないほうがいいんだっけ…。
腕を抑えたままだと、走りが遅くなる。
このままじゃすぐに追いつかれる。
そう言って鬼が飛びかかってくる。
鬼の腕を斬る。
片腕では首は切れないだろう。
どうしたものか…。
何か、この鬼を倒す、いや最悪逃げて時間を稼ぐためには…
突然、鬼の後ろから人が現れ、鬼の首をめがけて攻撃した。
鬼は攻撃する前に首を切られてしまった。
鬼の首を斬ったのは私と同じくらいの背丈の、長い黒髪を1つに結び、薄桃色の羽織を着た少女だった。
そう言うと少女は東の方へ走り出す。
鬼がいる可能性を考えて、急いでいるのだろう。
私も彼女についていく。
10分ほど走って、随分東の方まで来た。
暗い夜道を歩くと目的地についたようだ。
彼女が入っていくのは暗い洞窟だった。
確かに安全そうだ。
言われたとおりに腕をだす。
突き刺さったものは鬼が倒された時に消えたようだ。赤色の血がドクドクと流れていて、見ると痛みが増してくる。
彼女の治療は驚くほど丁寧で、素早かった。
あっという間に私の腕には消毒がされ、包帯が巻かれていた。
さらに奥へ進んでいった。
少し、血の匂いがする…。
そこには至るところに包帯を巻かれ、眠っている少女がいた。
痛みに顔を歪めていて、巻かれた包帯は血がにじんでいる。
そう言った綾羽の顔はとても暗くて、そのことを思い出しているのだと思った。
彼女は悲しそうに蘭を見つめる。
話しているうちに朝が近づいてきた。
1時間ほど計画を立てて、鬼のいる洞窟に向かう。
話によると休める場所を探していた2人はその洞窟に入ったが、奥には鬼がいて、蘭は攻撃を受けてしまった。
蘭が庇ってくれたおかげで綾羽は怪我をしなかったらしい。
話したことはないけれど、凄くいい子なんだろうな。
洞窟は緊張もあってか物凄く暗く見えた。
綾羽がマッチで火をつけ、枝に火を灯し歩く。
色々持っているんだなと感心してしまう。
洞窟には2人の足音が重く響く。
炎が作った2つの影が並んでいる。
いつ鬼が出てもおかしくない。
その緊張感が辺りを包み込む。
緊張とは裏腹に簡単に見つかったようだ。
「帰ろう」と言いかけた私は殺気を感じた。
綾羽の方に向かって鬼が飛びかかる。
綾羽の持っていた木の枝が落ち、火が消えた。
綾羽が無事かは暗くて分からない。でもまずは鬼を倒さないと。
暗闇の中で鬼の気配を感じとり、刀を振る。
どうやら当たってくれたようだ。
しかし、首を斬るまでにはいかなかった。
キーンッと鬼の爪が私の刀とぶつかる嫌な音が響く。
殺気を感じ取り攻撃を捉える。
ダメだっ、暗闇じゃ倒せない。
もっと集中して…。
炎の呼吸は熱い想いを刀に込める。暗闇では不安が勝ってしまうのか、本当の力が出ない。
どうすればっ…!
私はおじいちゃんとの会話を思いだす。
そして鱗滝さんから言われた言葉も。
私には力がある、こんなところで躓いていられない。
鬼の首を切り裂いた。
水の呼吸は炎の呼吸と全く違うため、最終選別は炎の呼吸だけで戦おうと思っていたの。
しかし、この状況で咄嗟に出した技は水の呼吸だった。
鱗滝さんのところに言って良かった…。
そんな事を思っている場合じゃない。
早く綾羽をっ…。
綾羽を探そうと思い立ち上がったとき背後から鬼の声がした。
鬼を倒してくれたのは綾羽だった。
私も刀を構えていたが、鬼の攻撃のほうが速かっただろう。
また、助けられてしまった。
綾羽は頭から血を流していた。
その血が目に入るのか、片目を瞑っている。
暗闇の中2人で笑った。
これが友達ってやつなのかな。
命がけの試験中にこんな事を思うなんて考えもしなかった。
急いで元の場所に戻り、蘭の手当をした。
幸いこれ以上悪化することはないそうだ。
6日目には蘭は体は起こせないが話せるほどになっていた。
そして、最終選別は終了した。
生き残ったのは私たちを含めて6人ほど。
例年に比べると多い方らしい。
綾羽に背負われながら蘭は楽しそうに話していた。
本当にそのとおりだ。
いつも稽古しているからと言ってこの7日間は今までで1番体力と集中力を使った。
早く布団に飛び込んで3日くらいは爆睡したい。
始めに説明をしてくれた少女が来て、石を1つ選ぶように言われた。
これが刀になるらしい。
正直、疲れが溜まって真剣に選べた気がしない。
軽く説明を受け解散となった。
2人に別れを告げて2人とは反対の道へ進む。
後ろから綾羽が私を呼び止めた。
こんな私が差し出せるものは少ない。
綾羽や蘭みたいに知識もない。
『親友』。綾羽もそんな事を思っていてくれたなんて…。
驚いて声が出ない。
それだけ伝えるとあっさり帰ってしまった。
夕焼け色の空に私だけが取り残される。
自分で言うと改めて信じられないことだなと思う。
今まで友達と呼べる人はいたけれど、親友と言うほどではなかった。
どこかで私なんかと親友になってくれるわけないと思っていたのかもしれない。
そんな私の想いをかき消すように2人は真っ直ぐに私を見て言ってくれた。
私もその想いに応えたい。
そう決意した帰り道は疲れが少し減った気がした。
鬼を倒せたこと、炎の呼吸を使えたこと、最終選別に合格できたこと。
それに、親友ができたことも。
一旦ここまでです。
ずいぶんと時間が空いてしまって申し訳ないです…。
その分少し長めでした。
もう少しで長期休みなので更新頻度も上げていきたいところですね。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。