第14話

13
95
2026/01/28 09:59 更新







最初は、偶然だと思われていた。



「変な夢見たんだよね」



そう言った人がいても、
周りは軽く笑うだけだった。


夢なんて、
誰でも見るものだから。


でも、少しずつ増えていく。




「なんか、同じ夢なんだけど」

「教室にさ、知らない人がいて」

「顔は思い出せないんだけど——」




そこで、言葉が止まる。


説明しようとすると、
細部が崩れる。



髪型が思い出せない。

声も浮かばない。

年齢すら、曖昧。


なのに、
“知っている”という感覚だけは、
妙に確かだった。



「前から一緒にいた気がする」



その言葉に、
数人が息を呑んだ。



——同じだ。



誰もが、
まったく同じ部分で記憶が欠けている。


怖いのに、
騒ぎにはならない。


なぜなら、
現実のどこにも
その人物の痕跡が存在しないから。



名簿にない。

写真に写っていない。

記録も、持ち物もない。



「じゃあ、いないじゃん」



そう言われると、
反論できない。



存在しないものを、
存在していたと言い張るほうが
おかしいから。



それでも、
夢は続く。




同じ教室。

同じ席。

同じ距離感。




その“誰か”は、
いつも少しだけ離れた場所に立っている。


近づくと、
目が合う直前で目が覚める。


まるで、
顔を思い出されることを
拒んでいるみたいに。



「さすがに気味悪くない?」



そう言う声が出始める。


でも、
学校は通常通り動く。


怪談は、
日常を止める理由にならない。


テストはあるし、

提出期限は来るし、

部活は続く。


怖さより、
忙しさのほうが強い。


やがて、
夢の話は語られなくなる。


話さなければ、
怖くない。


言葉にしなければ、
共有もされない。


そうして夢は、
個人の中で摩耗していく。




ただ一つだけ、
奇妙な共通点があった。



夢に出てくるその人は、
決して助けを求めない。



手を伸ばさない。

声を上げない。



ただ、
こちらを見ている。



責めるでもなく、

恨むでもなく。



まるで、



「覚えていなくても、いい」



そう言っているみたいに。


だから余計に、
胸が苦しくなる。


優しい夢ほど、
目が覚めたあとに残るから。




——本当に怖いのは、忘れてしまったことじゃない。




忘れているのに、
“何かを失った気がする”感覚だけが、
消えないことだった。





プリ小説オーディオドラマ