その日がやってくるのはホントあっという間だった。皇后様が3日後って言ったらホントに3日後になって、準備が慌ただしく流されるがままだった気もする。
花蓮さんはいつも通りスパルタだし、拓美さんは服装をどうしようかと皇后様のお下がりを見繕ってお直ししてくれたりしていた。
でも、僕は何となくこの状況が飲み込めず、勝くんがどうなっているのかも心配で集中できていないこともあった。
その度に花蓮さんの愛の鞭は飛んでくるんだけど、僕の不安も分かっていてか優しいところもあった気がする。
気がする。そう、全然目まぐるしすぎて覚えてないんだ。
拓美さんは僕の身支度をしながら緊張をほぐそうとしてくれていた。僕自身は緊張というか、ずっとふわふわしてた。思考がまとまらない感じ。
いきなり秀太が入ってくるもんだからビックリした。拓美さんももちろんのことながら固まっている。仕方ない、ちょっと声色を整えて…
いや、この人僕が男だって知ってるはずなんだけど…どういう解釈で僕を見てるんだ?
秀太がニコッと笑い出ていった。男性に免疫がない拓美さんは少しぽーっとなっていた。僕も男なんですけど、って、もう忘れられてる気がする。
拓美さんが施してくれた化粧のお陰で顔の傷も隠れ、僕の準備は整ったらしい。胸にめちゃくちゃ詰め物されてるのが違和感があるけど、女性服に慣れてしまったせいかとりあえず綺麗にしてもらったことはわかる。ふわふわの裾が自分で言うのもおかしいがかわいいと思う。
拓美さんがフフフと笑った。僕もつられて笑顔になる。優しい時間だった。
文官だった僕は僻み、ただただ独りでいた。周りと仲良くなろうとも思わなかったし、僕がバリアを張ってたせいか誰も近寄ろうともしなかった。
こんな仲間がいる世界が子供の頃以来な気がする。
あの時から殻にこもっていたのは僕だけじゃない。
拓美さんが不思議そうに首をかしげている。皇后様が僕に花蓮さんと彼女をつけてくれた意味が何となくわかった気がした。
秘策…とまでもいかなくても、僕には策があった。これは誰にもいってない。だけど、勝くんはきっとこれでわかってくれると思うものがあった。
花蓮さんは信じてくれているようでうんうんと頷いてくれた。
準備はできた。きっと、大丈夫。
※ ※ 勝成side ※ ※
あの日から、あの場にいた従者たちは俺を怖がって近付かなかったが、官僚と呼ばれる人がたまに来ては純姫を選べ、純姫を選ばなかったら国が滅ぶ、何て事を言ってくるようになった。
誰が敵なのか見えてなかったが、誰がではなくってこの場が敵の巣窟ということは気付いた。この国はめっちゃ蝕まれている。
それは俺だけじゃなく兄上も秀太も気付いてくれているようで動いているのも何となく察した。
後宮の俺用の部屋で独り準備をする。もう誰も信じられなくて近付かないよう言ってあった。
俺たち4人は俺たち4人で、か
『こーくんがみかどになったら…』
笑い声がずっと響いて…
みんなで未来を想像して…
あぁ、兄上は覚えてたんだ。俺が諦めた新しい景色を。
今日は凄く兄上が頼もしく見える。諦めていた未来も取り戻せる気がしてきた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。