文化祭の翌日。
家の傍の小川に咲いていた桜が、もうほとんど散って若葉に色づき始めている。
私は川に流れる桜の花びらを見つめながら、通学路を歩いた。
視界が、明るい。
私はこの言葉を信じて、フードを被らないで登校していた。
でもクラスメイトにからかわれたら嫌だから、一応赤いパーカーは羽織っている。
私は緊張気味に正門をくぐった。
辺りをきょろきょろと見回しながら、靴を履き替えて教室へ向かう。
ドアに差し掛かったとき、小さくため息を吐いた。
フードに手をかける。
手は震えていて、心臓だってばくばく鳴っている。
教室の中から、クラスメイトの喋り声が聞こえた。
私はフードから手を離して、教室を開ける。
すると、さっきのざわめきは嘘みたいに、しん、と静まり返った。
思わず涙ぐんで、フードに手を伸ばす。
やっぱり、私はフードを被ったままでいいんだ。
影にひっそりと佇んでいれば、いいんだ。
涙が零れ落ちそうになる、その時。
涼くんが、私の目の前に立ってくれた。
涼くんは私に挨拶をして、私の返事も待たずに自分の席についてしまう。
私は自然とみんなを見回した。
よく見るとクラスメイトのみんなは、笑みを浮かべていて、中には手を振ってくれている人までいた。
クラスのみんなが小声で話し合う。
私は勇気を持って口を開いた。
いつの間にか私は、みんなに挨拶していた。
前まで出来なかった、「おはよう」という挨拶を。
昼休み、私はクラスメイトの女の子たちに囲まれて、会話していた。
前の私ならありえない、クラスメイトとのお喋り。
私は嬉しくて、いつのまにか顔が綻んでいた。
人と会話するのが、こんなに楽しいなんて。
フードを被らなくていいと言ってくれた涼くんに、本当に感謝しなくちゃ。
見上げると、キラキラ王子、圭くんが立っていた。
俳優のような整った顔立ちの圭くんの唇は、綺麗に弧を描いている。
私が迷っていると、圭くんはいきなり私の腕を引いてきた。
な、なに……!?
圭くんが私立たせる。
首を傾げ、明るい髪が睫毛にかかる。その姿がなんともかっこよかったけど、涼くんの時みたいなときめきはなかった。
例えるなら、アイドルみたいな、私には遠い存在のような……。
中庭のベンチに私たちは座っている。
私が最初に圭くんと距離を置いていたら、手招きされて至近距離まで近づいてしまった。
ど、どうしてこんなに近く……。
圭くんが焼きそばパンにかぶりつく。
ふと、こないだの涼くんが頭に浮かんだ。
昼休み、猫にご飯をあげていた涼くん。
今頃も、あの校舎裏で食べてるのかなぁ……。
私がぼうっと考えていると、圭くんが私の頬を指でするっとなぞった。
鼻と鼻がくっつくくらい、近くなる。
あまりにも距離が近すぎて、私は圭くんの胸板を突き飛ばしてしまった。
圭くんがみぞおちの辺りをさすり、背中を丸くする。
圭くんがとびきりの笑顔を私に見せてくる。
え、笑顔が眩しい……。
私が好きなブランドを知ってる人がいるのが珍しくて、思わずカバンからハンカチを取り出した。
白くて周りにレースが縁取られ、端にKと金色の文字で書かれている。
圭くんは私の話をなんでも聞いてくれた。
モーニングティーの話や、時々趣味でお菓子作りをする話、恋愛経験は全然ない話……。
圭くんはどんな話においても頷いて、優しい言葉をかけてくれた。
それがすごく、嬉しかった。
あっと言う間に、昼休みが過ぎて行った。
どうしよう。
正直、委員会はどれも出来る自信がない。
それに、委員会なんて入ってしまったら、涼くんと話す機会が少なくなるかもしれない。
今、私は圭くんといるのに。
圭くんとベンチに座った時といい、今といい、どうして涼くんのことばっかり……。
すると、圭くんが私の肩にぽんと手を置いた。
圭くんがキラキラの瞳で見つめてくる。
これは、yesと言ってくれると思っている、期待の眼差しだ。
圭くんがガッツポーズをする。
……結局、断れなかった。
自分の素直になれない不甲斐なさを噛み締めながら、廊下を歩いていると……。
涼くんが、向こう側から歩いてきた。
朝ぶりに見れた涼くんの姿に、私は嬉しくなって涼くんの元へ駆け寄る。
涼くんの目の前まで来て、顔を覗き込んだ。
でも、涼くんは。
ちらりと私と圭くんを一瞥して返事もせずに通り過ぎてしまった。
涼くん……?













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。