珠代様はそういって頭を下げた。
硝子玉のような深紫の瞳はどこまでも慈しみ深く、美しい。また牡丹の花のような匂いはこの方の匂いだった。
風貌こそ人と変わりないが、この匂いは紛れもなく鬼の匂いだ。
奥の部屋に機械があるそうだ。
なぜだろう、後ろから殺気が感じ取れた。私へ向けられた、真っ直ぐな殺意。
びゅんと私のところへ走ってきて、そう耳打ちをしきた。ものすごい形相で睨みつけてくる銀髪の少年。
しかし、その言葉に込められた思いは「お前を殺したい」ではなく、「珠代様に近づくな」の方が大きいように思える。彼と珠代様の信頼関係があってこその発言だと感じた。
彼の強張った目を見つめ、そう言い放った。
彼は一瞬瞳孔を開いて、驚いたような素振りを見せた。
弱々しい返事を返して帰っていくが、目を凝らすと扉の隙間から私のことを睨みつけていた。わかっていますよ、珠代様には何もしません、と言っても愈史郎くんには効かないのだろう。
そんなにも大切に想っているのだから。
珠代様が抜いた血を透明な板に乗せ、蟲柱様が顕微鏡で観察した。その後何やらよくわからない機械に通して見ていた。
蟲柱様はこんな私にも気遣いをしてくださる、優しい方だ。
二人はあれやこれやと難しい話を始めたので、私はいいことを思いついた。羽織の衣嚢に入っている紙と万年筆を取り出して、つらつらと筆を進めた。
そして、未だに扉の隙間から睨んでいる愈史郎くんの元へ。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。