ここ数ヶ月、立て続けに続く舞台のお仕事。
ひとつ終わる前には、新しい舞台の稽古が始まり、龍太くんは休む暇もないくらい、いつでもフル回転。
『よし、これでおっけー』
タッパーやフリーザーバッグにおかずを入れて、メモを残す。ご飯は小分けにして冷凍庫に。
脱ぎ散らかしたままの服も、洗濯して、乾かして、畳んで…。
『お母さんみたいやなぁ、』
そんな事を1人呟いて。
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龍太くんが
こんなに忙しいのは過去に例が無いくらい。
長年の努力が花開いて来たんや…なんて頭の中では理解してるのに、会えない日々に寂しさを感じる。
最後のメッセージは既読がついたまま、2週間が経っていた。
作り置きして置いたものはほとんど冷蔵庫から無くなっていて、タッパーは洗って水切りに置かれている。
『ちょっとでもええから…会いたいなぁ、』
こんなに会えなくなるのも、龍太くんから連絡が無いことも、今までに無いことで、いつになく寂しさが募っていた。
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その日は、内部の舞台の打ち合わせが長引いて、事務所を出たのが22時を過ぎていた。
龍太くんからのメッセージは、
今日も来なかった。
駅までの近道のために、
繁華街を抜けようと、1人早歩きで歩く。
♡「ほーらー!室くんこっちだよ!」
…そんな声にピタっと足が止まる。
室くん?まさかね?
その声の方向に振り向くと、
龍「ちょぉ待ってって、早いんすわ、♡♡さん」
♡「ほら、行くよー」
紛れも無く、龍太くんの姿で…。
そのまま女の人に呼ばれて、満更でもなさそうな表情をして、腕を引かれて飲み屋さんに入っていった。
『…え、』
仕事のお付き合いだろうし、きっと、共演している女優さんかもしれない…追いつかない自分の頭にそう言い聞かせながら、駅までの道をまた歩き始める。
さっきまで早足だったわたしの足が、
鉛のように重たく感じた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。