前の話
一覧へ
次の話

第2話

《たった一人の聖女》
121
2025/07/13 07:42 更新
賢人会の代表であるマイクロトフは悩んでいた。
朝起きた時から夜寝るまでとにかく悩んでいた。
何度か他の者に相談したが、皆口を開いて、自分からは何も言えない、と目を逸らしながら言う。


それもそうか。
マイクロトフは目の前で侍女長に怒られている少女とそんな二人を後ろから見守っている剣聖を見る。


聖女に関することなど、皆、恐れ多くて口には出せん。


マイクロトフはため息を吐きながら、この状況をどうにかするべく口を開くのだった。


「リズ、説教はその辺で終わってくれぬか。」


「はい、マイクロトフ様。」


マイクロトフの言葉にリズはあなたを叱るのをやめ、素早く扉付近まで後退した。


「それで、あなた様。また、城を抜け出したと聞きましたが…今回で何回目です?」


マイクロトフの言葉にあなたは、びくりと肩を上げ、
消え入りそうな声で、五回と答えた。
五回…そう五回もこの聖女様は、無断で城を抜け出しているのだ。
改めて聞く回数にマイクロトフは頭が痛くなった。


「あなた様。何度も申し上げますが、貴方様はこの国、そして、この世界で生きている人々にとっての宝であり、希望の光です。」


「そんな貴方様に何かあれば、ルグニカ王国はきっと各国から責任を取るよう言われ、滅ぼされるでしょう。」


そう。もうあなた・ハイリヒ・ルグニカは、ルグニカ王国だけの聖女では無い。この世界の皆の聖女であるのだ。その証拠に、何度か各国から聖女を此方に渡すよう交渉を持ちかけられた。

勿論、ルグニカ王国ではその交渉を拒否したが、王がいない不安定なルグニカ王国で本当に聖女を守れるかどうか、世界中の人々が不安に感じているのは事実だ。
いつルグニカ王国内で紛争が起こるかわからない。


マイクロトフは悩んでいたのだ。
王選のこと、国のこと、そして──



これから提案する〝忠義の契り”のことを。


───

いつかは言われると思っていた。

王が不在で、不安定なルグニカ王国。
そんな国に世界で唯一の聖女がいて、各国が、世界の人達が、何も思わないわけがないし、〝聖女の掟”について強く求めてくるのは当然だった。


〝聖女の掟”

それは大昔、世界にまだルグニカ王国以外の聖女達が健在していた時に作られた世界共通の聖女を〝守る”ための掟。

そして、その中にある《聖女は忠義の契りを結ぶこと》

聖女は必ず国一番の騎士を護衛としておかなければならなかった。そして、〝忠義の契り”とは、聖女と護衛騎士の関係を強く縛る契約である。


契約した者は、お互いの居場所とその者の今の状況が分かり、どんなに離れていても会話をすることができる。


そして、護衛騎士は主人を〝裏切ること”ができない。


その為、昔は聖女だけでなく、王族や貴族達も護衛の者と結んでいた。



だけど、それは────





「剣聖ラインハルト殿。」


「はい。」


マイクロトフに名を呼ばれ、国家最強の騎士であり、騎士の中の騎士、剣聖ラインハルト・ヴァン・アストレアが、あなたの隣に立つ。


空気が変わった。


本気なんだ。
本気で、私とラインハルトくんに忠義の契りを結ばせようとしている。


それだけは、絶対に────


「嫌よ。」



「あなた様……」



ごめんなさい、マイクロトフさん。
今の国の状況も、立場も分かっている。
でも、彼にこれ以上、重荷を抱えさせるわけにはいかないの。


私は、私の言葉に呆然としているラインハルトの方に視線を向け、微笑んだ。
そして、賢人会代表マイクロトフさんに向けてもう一度言う。




「私は、誰とも〝忠義の契り”を結ばない!」




たとえ、血の繋がりがなくても、私は貴方と〝ただの”家族でいたい。




────
───────


《聖女の掟》

世界にまだ、四人の聖女が健在していた時に、聖女を守るために作られた世界共通の掟。
だが、掟の殆どは聖女の力や行動を制限するものばかりである。


《忠義の契り》

契約した者同士に強い繋がりを与える契約。
居場所とそのものが今置かれている状況、そして、
意思疎通が可能になる。
だが、契約した主人に仕える者は、主人を絶対に裏切れなくなる。

契約を破棄するには、両者の同意が必要。
だが、契約した方の相手が死ねば、自動的に破棄される。





























プリ小説オーディオドラマ