肌に触れる空気は冷たく、そろそろメイドに毛布を用意してもらおう。と無意識下で考える。
先日までは秋らしい天気で彼らと遊ぶのも楽だったが、これからは防寒具を持っていかなければ。
カーテンからぼんやりと光が漏れ、思わず手を伸ばしてしまう。
ゆっくりとカーテンを引き、窓を開ければ。満天の夜空が室内へと風を吹き込んだ。
さぁっ…と自分を押す風に思わず閉じた目をゆっくりと開ければ、変わらず夜空はそこにあった。
届くわけがないのに、手を伸ばせば届く気がして。すぅっ…と手を伸ばしてみるが、勿論その手は空を切る。
あぁ、
遠くない未来、この国は滅ぶ。きっと。
なんで滅びるか?なんて、理由は明らかだ。滅びる理由があり過ぎるんだ。
貧しさに限界を感じた貧民が反乱を起こすかもしれない。
腐りきった貴族たちによって国庫までも食い潰されるかもしれない。
王族に恨みを持った者によって殺されるかもしれない。
感染症によって国民の大半が死ぬかもしれない。
そしてなにより、これほどの問題を抱えていることに勘づいた各国の野心家によって戦争を吹っかけられるかもしれない。
お先真っ暗。なんて言葉がよく似合う。
戦争が起こったらきっと、追い詰められて、国まで攻め込んできて、降参しない王族のせいで国が主戦場にでもなって、終戦後の煙で暗雲が立ちこめるようになるのだ。
この夜空も、きっと見えなくなってしまうのだろう。
言ってしまった。と、思わず周りを見渡すがこんな夜中に誰かいるはずもなく、辺りは風と、遠くで鈴虫の声が聞こえるだけ。
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…はぁ……はぁ………
白い吐息が夜に溶け込んで消える。
声に出してスッキリすると同時に、無意識に知らないふりをしていたことに気付いた。
逃げるのはきっと、至って簡単だ。
両親はほぼ無干渉だし、いつもあいつらと集まる時に使う抜け道を使えば、きっと外に出れる。
ただ、逃げたらどうなるか。なんて考えてしまう。
まともに生活できるのか、生きていけるのか…いや、それよりも。
俺がいなくなったら、どうなるか…。
王位継承権は弟へ移り、齢4歳に国の存亡がのしかかる。この国は15年後くらいに滅びるのではないか、国民達のもっぱらの噂だが、確かに的を得ているもので…。
幼い声が唐突に聞こえ、振り返る。
予想通りそこにはドアからヒョコッと顔を出してこちらを覗く弟がいた。
思わず胸を撫で下ろし近付けば、ドアから身を出して、てててっとこちらへ駆け寄ってくる。
少し眠そうでフラフラと身を揺らす体を優しく抑え、目線を合わせるように跪く。
なんて小さいのだろう。こんなやつに、全てを背負わすのか。
弟の目は少し見開き、しばしの沈黙が漂う。
数秒間を置いたあと、寝ぼけた頭は質問の意味を理解したのか焦った表情を作り、口をぱくぱくと開閉した後、とうとう俯いてしまう。
言い切ると顔を真っ赤にしてまた俯いてしまう。
なんて残酷な希望を見せてくれるんだ。勘弁してくれ、どうしてそんなに俺の足を引っ張ってくれるんだ。そんなに引っ張られたら、俺、もう、
わしゃわしゃと義母から遺伝した綺麗な栗毛をかき乱すように撫でてやり、潤んだ目から涙を指で拭ってやる。
するとふっと顔を綻ばせ、柔らかい笑みを浮かべてくれるのだ。こいつは撫でられるのが大好きだから。
この足枷を、俺は抱えて生きていくのだ。
ここまで!
ぁぁぁ弟かあいいねぇこれメンバー一人一人描くのか凄い楽しい。
前回心無くしかけシマとか言ってたけどバリ心あるやんとかいう問題は水に流してトイレに流してさよならして…
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。