二年生の教室は、昼になると一気に騒がしくなる。
「今日の数学やばくない?」
「先生、途中から何言ってるか分かんなかった」
そんな声を聞き流しながら、私は席でノートを閉じた。
隣のクラスに、生徒会長がいる。
それを意識したのは、生徒会に入ってからだった。
昼休み。
廊下に出ると、ちょうど向かいの教室の扉が開く。
「ハンビン!一緒に食べよー」
「今日もかっこいいんだけど」
そんな声に混じって、見慣れた姿が現れる。
ハンビン会長。
制服はきっちり着ていて、シャツの襟も乱れていない。
誰かに話しかけられれば、足を止めて、ちゃんと相手の目を見る。
Hanbin「ごめん、今日は生徒会の資料作らないと」
「えー、真面目すぎ」
「あとで来てよ」
Hanbin「時間あったらね」
やんわり断って、でも角は立てない。
……やっぱり、中心にいる人だ。
そのまま歩いていく彼と、廊下ですれ違う。
一瞬、視線が合う。
Hanbin「あ、あなたちゃん」
「……こんにちは、ハンビン会長」
Hanbin「今から昼?」
「はい」
Hanbin「生徒会、午後からだよね」
「はい、放課後です」
Hanbin「そっか。無理しないでねㅎ」
それだけ。
それだけなのに、なぜか会話が残る。
Hanbin「じゃ、またあとで」
「はい」
彼は手を軽く振って、階段の方へ向かっていった。
……“またあとで”。
その言葉が、少しだけ引っかかった。
放課後、生徒会室。
mob「今日の議事録、もうできてる?」
副会長の声に答える前に、扉が開く。
Hanbin「お疲れ」
「お疲れさまです」
Hanbin「早いね」
「コピーがあったので」
Hanbin「助かる」
机にカバンを置きながら、彼はこちらを見る。
Hanbin「昼、廊下で会ったね」
「……はい」
Hanbin「隣のクラスだと、意外と会わないからさ」
「そうですね」
Hanbin「生徒会入るまで、顔知ってた?」
一瞬、言葉に詰まる。
「……存在は」
Hanbin「正直だね」
くすっと笑う。
Hanbin「俺は、あなたちゃんのこと知ってたよ」
「え?」
Hanbin「静かだけど、仕事ちゃんとする人」
褒められていると分かっても、どう反応していいか分からない。
「……ありがとうございます」
Hanbin「その反応、毎回同じ」
「すみません」
Hanbin「謝らなくていいからㅎ」
声は柔らかい。
でも、距離はちゃんと保たれている。
Hanbin「じゃ、今日も始めよっか」
「はい」
いつも通りの生徒会、いつも通りの役割なのに。
ペンを走らせながら、ふと、さっきの言葉が頭をよぎる。
――知ってた。
私が彼を知っていたように、彼も、私を見ていた。
それだけのことなのに、なぜか、少しだけ胸がざわついた。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。