──────時は少し遡る。
就業の鐘が鳴り響いてから数分。未だ担当教師の姿は見えず、二人しか居ない教室は凪のような静けさに包まれていた。
担当教師の遅刻癖は今に始まったことでは無いので、特に気に止めることもなく窓の外に広がる青空をぼうっと見つめる。
そうしているうちにふと、あなたはこの教室に居るもう一人の生徒が近日当たる予定の任務について、気になることがあったのを思い出した。解消出来るかは分からないが、話題に出す価値くらいはあるだろう。
そう思い至った彼女が隣を見れば、彼も窓の外を見ていたらしく、パチリと視線がかち合った。
都会の夜空を閉じ込めたような瞳は僅かに揺れている。その様に動揺に耐えているのだと悟るのは、彼女にとって最早必然だった。伊達に六年も一緒にいるわけじゃない。
『あるのかなって』と続く筈だった言葉は、遅刻魔屑こと一年生の担当教師である五条悟の登場によって遮られてしまった。
そのまま中途半端に扉を閉めた五条は、少女漫画のヒロインならぬウザインのような素振りで二人に擦り寄ってくる。
大根役者も後ろ指を指すような、態とらしい泣き真似にうんざりとした表情をしつつも手馴れた様子で受け流す二人の姿は最早熟練の戦士にも見える。
実際熟練とまでは行かずとも、それなりに場数を踏んできた戦士(仮)ではあるのだが、それはさておき。
あなたの言葉を尽くぶった切る五条。因みに態とである。この場に夜蛾学長が居れば締め技をキメていたことだろう。
あくまでも都合の良い部分しか聞き取らない姿勢の五条にあなたの苛立ちが猛スピードで募っていく。此奴は注意しても悪びれるどころか寧ろ助長の一手と捉えるのだからタチが悪い。
物腰の柔らかさや雰囲気から、普段はまるで異国の王子のようだと直喩されているあなただったが、彼女も一人の人間。ストレスの原因に不埒な態度を取られれば平静を保てなくなるものである。
その無駄に綺麗な顔面には風穴がよく映えるだろう、と冗談半分で術式発動の構えを取ろうとするあなたに対し、五条はさながら通り魔の如く爆弾を投下してみせた。
かもめ学園とは、あなたの地元にある中高一貫校である。
数多の《ウワサ》と負の感情が渦を巻くその学園は、直接的な関わりは無くともあなたにとって大層縁の深い場所だった。
故に。
あなたは、己が持ちうる全ての知識を総動員しても回避できない最悪の事態を瞬間的に悟ってしまうのであった。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!