第8話

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2025/02/02 20:14 更新
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────時を戻し、現在。


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ぶつぶつと独り言ちながら何処かへ行ってしまった寧々を見送ったあなたは、散らばったガラス破片を処理する片手間に今回の騒動について思索する。


呪霊や呪詛師の気配が無いことから、今回の不思議騒動は十中八九怪異の仕業だと言えるだろう。そして、時への干渉などという大業が可能な怪異と言えば、此処らでは七不思議位だ。
三番目と六番目、そして七番目のウワサは既に把握済みだが、何れも今回の騒動に該当するようなウワサではない。

つまり残る四つのウワサを知る事が出来れば解決の手立てがつくのだが……相手はこの学園の七不思議だ。そう上手く事が運ぶ筈が無い。

堂々と首を突っ込めたら良いのだけど、職業柄そういう訳にもいかないしね。


ぐるりと教室を見渡せば、今朝祓除したばかりだと言うのに蝿頭や危惧する価値も無い四級呪霊が蛆の様に湧いている。
このままこの現象を放置していれば、二級以上の呪霊が誕生するのも時間の問題だろう。アチラ側の方々には是非とも早急に解決して欲しい所存である。

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(なまえ)
あなた
(……上はこの件の解決を求めているようですし、お手伝いくらいなら規定違反にも引っ掛からないでしょう)
(なまえ)
あなた
(そうと決まれば早速────)
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蒼井茜
蒼井茜
ウワァァァァァァ!!!
(なまえ)
あなた
!?
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地の底から這い上がってきたような絶叫に思考中止を余儀無くされる。烈火の如き怒りを前面に押し出したその絶叫は、間違い無くアカネのモノだった。


掃除道具を置き、急いで声がした廊下に出る。足音のした方を見れば、八尋さんの服を引っ張り何処かへ走り去っていくアカネ(と八尋さんの身体)を追いかける源の少年と霊体化している八尋さんがいた。
……先程見えた八尋さんは八尋さんではなく、八尋さんの身体に入り込んだナニカ怪異ということか。ならば何故源の少年は放置している…??職務怠慢も甚だしいのだけど?


解消の見込みが無さそうな困惑を放置し、端に映った青紫を追うように視線を滑らせれば、なんとアオイちゃんが地べたに座り込んでいた。普段とは打って変わって沈んだ雰囲気で遠くの方を見つめる彼女は、今にも連れ去られてしまいそうな儚さを纏っていた。

物悲しげな表情をする彼女に居ても立っても居られず、「ねぇ」と声を掛ける。
そこでやっと私の存在に気付いたようで、アオイちゃんは急いで取り繕ったような笑みを貼り付けた。


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(なまえ)
あなた
……どうしたのアオイちゃん?
そんな所で座ったら汚れてしまうよ
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そう言いながら彼女に手を差し出す。
重ねられた彼女の手首は薄く赤みを帯びていた。

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赤根葵
赤根葵
…ありがとうあなたの幼馴染からの呼ばれ方ちゃん
(なまえ)
あなた
どういたしまして
(なまえ)
あなた
それで……一体何があったの?
アカネが叫んでいたようだけど
赤根葵
赤根葵
部活の事で寧々ちゃんにお話があったんだけど、その……色々あって茜くんが連れて行っちゃって…
(なまえ)
あなた
あーー成程、それは災難だったね…
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先程より幾分か柔らいだ表情をする葵にホッと息を吐くあなた。よくよく注視しなければ分からないが、その顔には確かに安堵が滲んでいる。
友人(の姿をしたナニカ)に乱暴に扱われた事が今後二人の関係に悪影響を及ぼすかもしれないと心配していたのだが、要らぬ心配だったようだ。


負の感情が拭われた様子の彼女は、ダイヤモンドの欠片を散りばめたような瞬きを取り戻していた。

今のあなたにとって、その光はいっそ眩しいくらいで。


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赤根葵
赤根葵
そう言えばあなたの幼馴染からの呼ばれ方ちゃん、今日もお呼び出し受けてなかったっけ?
赤根葵
赤根葵
"放課後屋上に来てください"って言われてたような……
(なまえ)
あなた
………………あっ
赤根葵
赤根葵
ふふっ、行ってらっしゃい♡
(なまえ)
あなた
行ってきます…
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適当に呪霊を祓いながら屋上への道を進む。ふとした拍子に境界に引き込まれる事もあったが、それ以外は何の弊害も無く屋上に続く階段に辿り着いた。

あなたは扉の前で暫く思案すると、決心したような顔付きでドアノブに手をかけた。ガチャリという音と共に扉が開き、それまでき止められていた日光が閃々と彼女を照りつけ始める。
六月とは思えない陽射しの強さに(温暖化の影響かな…)なんてぼんやり思いつつ、気配がした方に目を向ければ____

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(なまえ)
あなた
あれ、アカネと八尋さん…?
八尋寧々
八尋寧々
あなたの名字さん!?
蒼井茜
蒼井茜
あなたの幼馴染からの呼ばれ方!!?
(なまえ)
あなた
一体何をしているのかな…?
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八尋さんと源家の弟くん(あと七不思議らしき怪異)が仁王立ちのアカネに正座させられていた。

恐らく八尋さん(in怪異)がアオイちゃんに行った事についてお話・・していたのだろう。アカネから険悪そうな雰囲気がまるで感じられないので、一応解決はしたようだ。
今後あのような事が訪れないのを祈るばかりであるが、あの怪異が彼女達の傍を陣取って居る以上叶う確率は低いだろう。

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八尋寧々
八尋寧々
えぇと、ちょっと色々あって……
そそそっそれより!あなたちゃんはどうして此処に?
(なまえ)
あなた
とある子から呼び出しを受けたんです
八尋寧々
八尋寧々
(それ、も、もしかしてもしかしなくても告白じゃ?!)
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必死に話題を逸らそうとする寧々を哀れに思ったのか、あなたは苦笑しながら質問に答えると、胸ポケットから白い封筒を取り出して見せた。こういう類の物なら話が進むだろうと言うあなたなりの気遣いだったのだが、残念ながら寧々は心の内でキャーキャーはしゃぐタイプの女子である。

固まってしまった寧々を不思議に思いながらも視線を移せば、怪異と金髪碧眼の男子生徒がキョトンとした表情であなたを見ていた。

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(なまえ)
あなた
嗚呼、其方の君は中等部の子かな?
初めまして、私はあなたの名字と申します
源光
源光
オ、オレは源光って言います!
よろしくお願いします!
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そう元気良く名乗った彼は、祓い屋とは思えないくらい澄み切ったをしていた。五条先生の【六眼】を燐灰石と例えるならば、彼の物はリチア電気石と言った所だろう。


語尾全てにビックリマークが付いていそうな勢いに気圧されながらも、差し出された右手を握った。

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(なまえ)
あなた
……ええ、こちらこそ
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大切なものが零れ落ちそうな、薄い手だった。

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