武装探偵社が用意した高級マンションの一室。新居と呼ぶにはあまりにも冷たい空気が流れるリビングで、
太宰治とフョードル・フィーニックスは初めて二人きりで夜を迎えた。
太宰はソファーに腰掛け、いつものように自殺に関する専門書を開いている。
フィーニックスは部屋の中央に直立不動で立っていた。
その無表情は、昼間の顔合わせのときと寸分違わない。
太宰は皮肉を込めて話しかけた。フィーニックスは無言。
その目は太宰を捉えているが、感情の動きは一切読み取れない。
太宰はテーブルの上の便箋とペンを手に取り、それをフィーニックスに差し出した。
太宰は、彼女が兄に呼ばれる愛称を使うことで、何らかの反応を示すか試みた。
フィーニックスは、太宰から紙とペンを受け取った。
そして――何も書かなかった。
紙とペンを持ったまま、彼女は微動だにせず、太宰を見つめ返す。
その指先はわずかな力も込められておらず、その場に留まっている。
太宰は、驚きではなく、底知れない苛立ちを感じた。
無言。無表情。
太宰は立ち上がり、彼女の目前まで近づいた。
その距離は、鼻先が触れそうなほど近い。
太宰は、彼女の目を覗き込んだ。無感情の赤い瞳は、まるで鏡のように太宰の顔を映し返す。
彼女の顔は、あまりにも整っていて、あまりにも生気がない。
依然として、彼女は沈黙を守る。紙の上には何も書かれない。
太宰は、その完璧な受動性に、敗北感と奇妙な歓喜を覚えた。
この女は、彼がこれまでに見てきたどの人間よりも、
生への執着も、死への恐怖も持たない、最も純粋な虚無を体現していた。
太宰は、紙とペンを彼女の手から抜き取った。
フィーニックスは、太宰が立ち去るまで、直立不動のままであった。
その無表情のまま、彼女の『人形遣い』の異能力は、既に太宰の心の一番深い部分に、
細い、見えない糸を絡ませ始めていた――















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。