猫になった。
嘘だと思いたいけど間違いない。
ここは宿舎の隣の広場。
上を見ると側道の木が随分高いところにあり
下を見ると黒い毛並みで覆われた
自分の手(前足か?)が見える。
「なんでー!?」と叫ぶと
『ニャー』という鳴き声になった。
今日はシグナルソングテスト前の
束の間の休みの日。
さっきまで気の合うメンバーたちと
3on3をしていたはずだ。
建物のガラスの前までソロソロと移動し
自分の姿を映してみる。
『ニャー(まじかー)』
大人といってもいいくらいの大きさで
耳がとがっていて顔が小さめの黒猫。
前足で耳を触ってみるとピコンと反応した。
「キャー!猫がいるー!」
突然の大きな声に驚き全身の毛を逆立てる。
声のほうを見るとウンギが駆け足で
その後ろをソウォンが追いかけるように近づいてきた。
本能的に身構えるもウンギに抱きかかえられてしまう。
視界が急に高くなってお腹まわりがヒュッとする。
ウンギ「やだかわいー!ここに住んでるのー?」
スリスリしてくるウンギの顔を前足でつっぱり
ソウォンのほうを向いた。
『ニャー(助けて!)』
が、通じるはずもなく
ソウォンは両前足を持ち上下にパタパタと振る。
ソウォン「ニャンコちゃん、お名前はー?」
さらにウンギが両前足のつけねに手をいれ
向かい合って高い高いみたいにして
「あたし猫の匂い、好きなのー!」
とお腹に顔をうずめ深呼吸をしてくる。
『ウニャ!(くすぐったい!)』
たまらなくなっておもいきり身をよじると
驚いたウンギが手を離した。
「落ちる」と思ったが反射的に一回転し
地面にトスッと着地する。
さすが猫だなと一瞬思ったが
スキンシップがはげしすぎる二人から
出来るだけ離れようと一目散に駆け出した。
ウンギ「待ってよー、ネコちゃーん!」
ソウォン「ウンギ、嫌われちゃったねー」
ウンギ「えー、あたしー?!」
二人の話し声がだんだんと遠くなって
気が付けば反対側の草むらに来ていた。
こっそりと高い草の間から顔を出し
広場の様子を伺うと
ファニたちが3on3をしている。
『さっきまであそこにいたのに』
一生このままかと思うと悲しくなって
『ニャー』と鳴くとどこかから視線を感じた。
よく見ると輪のはずれたところに
地べたにペタンと足を投げ出してドンヨルが座っていて
鳴き声に気付いたのかこちらを見ていた。
ドンヨル「チッチッチッ」
口で音を出しながら片手で手招きをする。
ドンヨルは最近仲良くなった優しい兄さんだ。
優しいだけじゃなくどこかおっとりもしている。
ドンヨルならウンギたちと違い
はげしく扱うことはないだろうと思い
草むらからそーっと出て隣に座ってみる。
『ニャー(ドンヨルー泣)』
ドンヨルは出していた手を軽く頭にのせ
そっとなでる。
『ニャー(俺、猫になっちゃったよー)』
ドンヨル「よしよし」
今度は手を首元にもってきて
マッサージするように優しく動かす。
『なにこれ、気持ちいいんだけど』
猫の本能からなのかおもわず喉から音がでる。
そして無性に頭をすりつけたくなって
ドンヨルのお腹に上半身をあずけた。
ドンヨル「かわいいなあ」
背中をスーっとなでて腰をポンポンと優しく叩く。
ピリピリとくる気持ちよさに今度は声も出ない。
ドンヨルの手を味わいたくて
ギュッと目を閉じた。
ドンヨル「……ジョンウ」
ジョンウ「……ん?」
ドンヨル「部屋で寝たら?」
頭の上におかれた手の動きが止まる。
ジョンウ「もっと撫でて」
仕方ないというようにドンヨルの手が動いた時
「ジョンウ!」と呼ばれる声が聞こえた。
寝ぼけたまま声がしたほうを見ると
ファニのとなりで不機嫌そうな顔をした
ジウンがこちらを見ている。
ジウン「ほら、交代するぞ」
ジウンが投げてよこしたボールを
条件反射でつかんだところで事態を把握した。
休憩していてそのまま眠ってしまったのだ。
『夢か……』
でも休憩した時ドンヨルは隣にはいなかった、と気付く。
地面でそのまま寝るジョンウを気遣って
枕になってくれたんだと思う。
ジョンウ「もうちょっとだけ」
ジョンウはボールを投げ返すと
ドンヨルの足の間に体をすりこませ
お腹の上に頭をおき
その大きな体を抱き枕のようにつかんだ。
ドンヨル「兄さん、この体勢つらいんだけど」
ジョンウ「うん。ごめんね」
ドンヨル「わかってる?」
ジョンウ「ここ好きなんだもん」
また仕方ないというように頭をなでるドンヨル。
ジョンウ「ヒョン、モテるでしょ」
ドンヨル「は。何言ってんの?」
ジョンウ「猫に」
ドンヨル「あー。……猫ね」
落ち着いた声が頭から降ってくる。
やっぱり俺、ここが好きだ。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。