ふわっと、冬らしからぬ風が吹いた。
目を開いた時、あなたの下の名前はもうすでにいなかった。でも、耳にはあなたの下の名前の声が反響していて、まだいるんだという視覚的情報と聴覚的情報の差で頭が痛くなる。
視界も悪くなってきた。
顔もあつい。
目を開けるのでやっとだ。
いっそ、溺れてしまいたい。
もはや、生きている意味がない。
そう思ってしまった。
思えば、組織を壊すことだけが生き甲斐だったのかもしれない。だから、あなたの下の名前のが死んだ世界でも、生きることができたのかもしれない。
無意識に、あなたの下の名前のいた花畑へ足を踏み入れた。
そこに手を伸ばせば、あなたの下の名前に触れられる気がして、手を伸ばした。
なにも、ない。
死のイメージはついても、死んだ後のことはイメージがつきにくい。
でも、今ようやくわかった。
死んだ後は、無にかえる。
考えれば、すぐ思いつくことじゃないか。
信じたくないものが真実だった、なんて…ありふれてるよな。
ふと、空を見上げた。
あなたの下の名前が言っていた、輝く星がわかった。
視界に入るだけで、その一点が異様なくらいに光っている。見たくないのに、見てしまって…情報が頭に入っていく。
新月だったから、余計、綺麗に見えた。でも、オレには水槽に入れられた絵の具にしか見えなかった。
それくらい…目の中は潤んでいた。
伸ばしていた手をぎゅっと、握りしめた。
足元にまで目線を下げると、小さな瓶が転がっていた。
青い花が入ったモニュメントのようだった。
もう、後悔はない。
俺は決めた。
これから、すべきこと。
あの瓶に入っていた青い花は「勿忘草」
花言葉は「私を忘れないで」
あぁ、忘れないよ。
だって…君は…
言っておけば良かったな。
一月に入って、ヒロは仕事に復帰した。
でも…やっぱり、どこか苦しそうに見えて。
声をかけた。
心配してるよ。
なんて、言えなかった。
あの時、僕は止めてしまったんだ。
でも、ちゃんと、戻ってきた。
どういう心境であったであれ、信頼できなかったのは
僕が悪い。
それを素直に謝ることができないのは…
ヒロが、いつもと変わらない姿勢で僕と関わってくる
から。
でも…時々遠い目をしているヒロが幽霊みたいで…
怖いと思ってしまうこともある。
それでも。
僕はもう、ヒロを疑うことはできない。
それが、僕とヒロが親友でいるためのケジメだ。
だから、今日も。
ヒロが裏でどんなことをしているのか…
僕は知らない。
時々する、遠い目が何を意味しているのかも知らない。
知らない、フリをして、今日を生きている。
〜end〜











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!