一面を見渡してしみても、花しかない。
本当は綺麗なのだろうが、今のオレには不気味としか感じられない。冬の風も相まって、背中に悪寒が走った。
その時、風がばっと吹いた。
冬に咲く花だろうか。花畑から白い花が舞い上がっている。その辺りを見てみると、人影がある。
オレには、それがあなたの下の名前であるとは思えなかった。思いたくなかった。
でも、オレの目の前にある、人の形をした何かが喋った時にはじめて…
梵あなたの下の名前だと、認識した。
そのとき、ふと、知らない風景が頭に流れた。
誰なんだろう。
あなたの下の名前の知り合い…とかなのかな。でも、こんな長いヒゲの人、現実で見たことない…
でも今は、あなたの下の名前…に目を向けていた。
嘘?
違う。
こんなことを言いたいんじゃない。
って、なに納得したんだろ。
ついつい話に流された。いつもだったら、疑い深く人を観察するようなものなのに。
まるで…オレが、オレじゃないみたい。
そよぎ。あなたの下の名前の名字だ。
その言葉を聞いて、オレは…震えた。
例えじゃない。頭の隅々、脳が揺れてて…
何も言えなかった。
オレが無理にでも変えてやる、とか、オレが代わりになる、なんて言葉が出たくてたまらないのに。
震えて…
やっと、声が出たと思ったのに。
なんで…
死んで、あなたの下の名前についていく。
そう言おうと思ったのに、なぜか口が動かない。
さっきから、誰かに止められているみたいだ…オレは
体験したことないけど、たぶん金縛りに近い…。
金子みすずさん、だったっけ。
有名なそのフレーズは「小鳥とすずと私と」って詩
だったはずだ。
そうか…自殺、してたのか。
大正末期くらいから活躍したんだっけ。戦争が終わる前に亡くなったのは何となく覚えている。でも、どう言う死に方をしたのかまでは知らなかった。
あなたの下の名前が何を言いたいのかは、わかった。
そして、オレは悟った。
あなたの下の名前に何を、どれだけ言っても…
変わらない。
どんなに、生を切望しても死が必ずくる。
それが思いもよらないことだったとしても。
そう聞いた。
震えていたかもしれない。
頼らなくて、みっともない…そんな顔をしていたかもしれない。
でも…思い出せない。
唯一、思い出せるのは____.
その時発せられた声は、艶があって日本人特有の響きがあって…
美しかった、と言うことだけだった。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!