昔。父さんと母さんが生きてた頃…。
父さんが学校の先生というのもあって、オレの家には
本がたくさんあった。その中には日本の神話についての本もあって。
あなたの下の名前の言う、「ゴールするまで後ろを振り向くな」っていうタブー的なもの(?)は理解していた。その神話に出てくる神様の名前は忘れちゃったけど。
でも、それと同時に、あなたの下の名前は本当に神様になっちゃったんじゃないかって焦りも感じていた。
懐かしい人を思い出させるこの口調。
それは恐らく母さんだ。記憶に強く根付いている。オレを身を挺して守った。隠れる時間を作ってくれた。
でも…あの時、オレも死んでたらどうなってたんだろうって少し興味がある。眠っていたのだから、痛みは少しは減るのだろうか。
それとも、変わらず…もがき苦しむのだろうか。
まぁ、いいや。
考えるのは後にしよう。どうでもいいんだ、今は。
幽霊って、寒いとか暑いとか感じるのかな。
オレもそうなるのかな。
いや、ならないな。オレ、あなたの下の名前ほど優しくないし。
人は想像力で人を殺せたりもすると聞いたことがあるけど…俺がその代表的な例な気がしてきた。
なんでだろうな。
今にも後ろを振り向いて話しかけたい。
不安なのか?
何も言えないうちに消えちゃいそうで。
ちゃんと、あなたの下の名前いるよな?
気がついたら居なくなってたとか…
1キロもあったら、あなたの下の名前が疲れてしまうかもしれない。
確か、宙に浮けるらしいけど…それでもさっきは一緒に歩いてた。
ダメだ…不安しか出てこない…
聞こえるのは風の声。
あなたの下の名前じゃない。
そうか。神話でも言葉を返していなかった。
それで心配になって…伏線回収しにいってるなオレ。
こんな時だから、言おうかな。
ちょっと調子に乗ろうかな、と思って言ってしまった。
言葉の重みを感じる暇もないほどに。
風がちょっと強く吹いた。
それが、赤くなった頬を冷ましてくれる。
元々、冬は風が強いからかな。星がよく見えるや。
もちろん、「イエス」か「はい」しか言わせないよ。
当たり前だけどね笑
オレが、オレが存在してるって証明するにはあなたの下の名前が必要なんだ。
ほら…前に言ってたじゃないか。
「ドーナツの穴は、ドーナツがないと証明できない」 みたいにさ。オレはあなたの下の名前がいないとオレじゃないんだよ
あと100メートルもないくらい。
生きてるんだよね。
還ってくる。
隠世から、現世へ。
その時、声が聞こえた。
「振り向いていいよ!」
脳の中で急いで思い出す。
あなたの下の名前の声…あなたの下の名前の声は…
これは、本当に言ってるのか?
オレの頭があなたの下の名前の声を再生しているのか?
幻聴…?
いや、でも確かに…
また聞こえる。
「もう忘れちゃった?笑」
「ねぇ、言ってるじゃん!」
「諸伏くん。梵あなたの下の名前をお忘れかい?笑」
「そろそろ怒っちゃうぞ?笑」
話しかけられている。
その感覚が、ある。
振り返った。
その時見えたのは_____.











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!