ハグリッドの魔法生物飼育学の初回授業は、ドラコ・マルフォイのせいで大変なことになってしまった。
内容はヒッポグリフという半鳥半馬の魔法生物についてだったのだが、ハグリッドの授業をめちゃくちゃにしてやろうと画策していたらしい彼は、あろうことか誇り高き天馬に「醜いデカブツの野獣君」と言い放ったのだ。そして鋭い鉤爪に引っ掻かれ、腕を負傷した。
事前の注意を聞いていなかった彼の自業自得だ。私はそう考えるが、実際はハグリッドの管理責任だと言われてしまえば否定できない。ルシウス・マルフォイはここぞとばかりにハグリッドを責め立てるだろう。
せっかく教職に就くことが出来たのだから、これでクビになるだなんてことがなければいいのだけど。
──そして、その日の夕食後。私は今何故かラナンキュラス・ブラックに詰め寄られている。
「あ……あの、Ms.ブラック?」
夏休み中、一度スネイプ先輩と話す機会があった。その時にラナンキュラス・ブラックのことを聞いたが、想像通り彼女はナツ先輩とレギュラスの娘だと言う。──すごく言いたくなさそうにしていたけれど。
そんな彼女に迫られて、かれこれ30分はこの状態なのだ。ラナンキュラス・ブラックは何も言わないし、それ以上顔を寄せてくることもない。ただ複雑そうな表情で、私を見つめている。彼女のペットの蛇──去年の決闘クラブでドラコ・マルフォイが出した子を引き取ったやつだ──も一緒になって目をまんまるくさせて私を見ていた。
「……あ、の……」
私の様子にいい加減痺れを切らしたらしいブラックがため息をついた。
「……ねえ、ブラン。君、私に何か言うことあるんじゃないの」
「えっ?……あ!」
言われて思い出す。そう、そうだラナンキュラス・ブラックと会うのは秘密の部屋の一件以来だ!ナツ先輩と目の色以外瓜二つだから、つい最近会ったような気がしてしまっていた。
「ごめんなさい!ご心配、おかけしました……」
頭を下げてそう謝った。
──しかし、またしてもラナンキュラス・ブラックは何も言わない。
「……?」
恐る恐る頭をあげると、泣きそうな顔をした彼女の姿がそこにはあった。
「……ぇ、」
驚いて言葉を失う。
……そんなに、心配してくれていたのか。
「……本当に、心配してたんだよ。生きててよかった」
いつもの堂々とした様子とはかけ離れた、酷く頼りない声。それは私の記憶にある彼女とはあまりに食い違っていて。私はすぐに反応ができなかった。
「……ごめん、驚かせたね」
「あのっ、本当に、ごめんなさい……」
「ううん。いいんだ。ありがとう、ブラン」
取り繕うようにそう言って、彼女は私の前から去ってしまった。
──申し訳ないことをしてしまった。罪悪感で胸がいっぱいになる。
私は彼らよりもずっと大人なのに、どうしてきちんと出来ないんだろう。
いつもいつも、人に迷惑をかけてばかりいる。
──去り際に見た、彼女の悲しげな瞳が忘れられない。
そして私も──ある事実を、再確認する覚悟が無かった。
──数日後、スリザリンとグリフィンドールの魔法薬学の合同授業がやってきた。スネイプ先輩のことも、ラナンキュラス・ブラックのことも解決しないままだった。
しかもあの日グリフィンドールの寮へ戻ったら三人がいなくて、誰も行き先を知らないものだから飛び出して行こうとしたらハグリッドに連れられて帰ってきた。……ハリーを近くで守ると約束したのに、これじゃ役立たずにも程がある。自己嫌悪で押しつぶされそうだった。
そして、スネイプ先輩──、いや、スリザリン寮監のスネイプ教授。彼の態度も気分の落ち込みを更に加速させていた。ドラコ・マルフォイだ。彼は時間が半分ほど過ぎた後久しぶりに授業に現れ、包帯で右腕を吊ったままの姿をスリザリン生から囲まれてたくさんの言葉をかけられ、それをかのスネイプ教授は咎めもしない。それどころか、「座りたまえ、さあ」だなんて猫撫で声を出す始末だ。
そんなことになっていたものだから、今日の課題である「縮み薬」の調合に全てをぶつけるしかなかった。イライラしたら魔法薬。私の人生の教訓だ。思いついたのは今だけど。
「……すごい顔で、すごいスピードでやってるのに、手先は恐ろしく正確だね」
「えっ?」
ドクゼリを鍋に入れてゆっくりかき混ぜていた私の手元を見て、隣のラナンキュラス・ブラックがそう声をかけてきた。私はどう答えたらいいのか分からなくて口をもごもごさせただけだったが、彼女が何かを指さしたのでそちらの様子を確認してみる。
そこではハリーとロンと同じテーブルにつき、わざとらしくナイフを持とうとして持てない、といったような真似をした。
「先生。僕、雛菊の根を刻むのを手伝ってもらわないと、こんな腕なので──」
「ウィーズ──」
「私が手伝います」
──教室中の視線が一斉に私の方へ向いた。
「……フォークス。発言を許した覚えはないが」
「もう──」
「スネイプ先生。彼女の縮み薬はもうほとんど完成しているようですよ。あとは煮込むだけだ」
私が反論しようとすると、ラナンキュラス・ブラックが頬杖をつきながらそう言ってくれた。遠くの席からハーマイオニーの鋭い視線がこちらに向いた気がしたが、横を見るといつもの様子でラナンキュラス・ブラックがウインクを返してくれた。
(──この間のことは、怒って、ない?)
そのことに少しホッとしながら、私はぺこりとお辞儀をして前に向き直る。
「スネイプ教授」は、わざとらしくゆっくりと私が作業していたテーブルへ向かって来た。視線を逸らさずそのまま彼を見据える。彼の視線はスッと私の鍋へと移された。
「──、……フォークス、マルフォイの根を切ってやるといい」
「! ……はい、分かりました」
それだけ言い捨てて、彼は教壇へ戻って行った。
「火加減は私が見ておくよ」
「あ、ありがとう……ございます」
ヒソヒソ声が聞こえる教室の中を通り、ドラコ・マルフォイとハリー、ロンのいるテーブルへと向かった。
「おい。どういうつもりだ」
雛菊の根に手をつけた私に向かって、マルフォイが耳打ちしてくる。それはそうだろう。これまでビクビクと怯えてばかりで、スネイプ教授に覚えてもらいたくて必死だった私がこんなことをしているんだから。ハリーとロンも目をまん丸にしてこちらを見ている。
「Ms.ブラックが言っていた通りです。私、もう準備終わっていますので」
「いやっ、そもそもなんで前からあいつはお前を──」
「Mr.マルフォイ、終わったらあとは何を手伝えばいいですか?萎び無花果の皮をむいて、イモムシを輪切りにしましょうか。急がないと調合、終わらなくなってしまいますよ」
私の言葉に、マルフォイはぐっと息を詰まらせた。ハリーとロンは、信じられないものを見るような目で私を凝視していた。
「ふ──フン。あんな奴の事はどうでもいいんだ。それより父上は学校の理事会に訴えたんだ。魔法省にも。お気の毒に、君たちのご友人のハグリッドはもう先生でいられないだろうな」
「マルフォイ──」
「Mr.マルフォイ、材料は全て揃いました」
コトン。私がナイフをテーブルに置いた音が響く。
「あとは材料を順番に入れて、合間で混ぜるだけです。教科書の通りに。まだ助けは必要ですか?」
「──いらない。早く戻れよ」
「はい。ハリー、ロン、お邪魔しました」
自分の道具を持って立ち上がる。そのまま席に戻ろうとすると、ごく小さな声でドラコ・マルフォイが毒づいた。
「──クソッ、あんな親のいない奴のどこがいいんだろうね」
「──ブラン、ブラン。どうしたの?」
肩をトントンと叩かれて、ハッと私の意識は現実に引き戻された。ハーマイオニーだ。周りを見ると、みんな荷物を持って教室を出ようとしていた。
「──授業、終わったんですね」
「そうよ。一番に提出したものだから、居眠りでもしていたの?あなたらしくない──本当に最近のブランはらしくないわ」
ハーマイオニーの言葉をぼんやりと聞きながら、荷物をまとめて立ち上がる。
「──大丈夫?なんだか具合が悪そうよ」
「大丈夫です。ちょっと慣れないことをしたから気分が悪くなったみたい」
「それはそうよ。だって、あなたがスネイプにあんなことを言うなんて……」
あはは、と軽く笑って誤魔化す。
地面がどこかふわふわしているような感覚だったが、どうにか前に進んだ。
廊下に出るとハリーとロンが待っていた。ハリーは何だかもの耽り顔で、ロンはずっとスネイプ教授の文句を言っていた。どうやらネビル・ロングボトムが縮み薬を上手く作ることが出来ていなかったのをハーマイオニーが手助けしたらしい。
「水薬がちゃんと出来ていたからって五点減点か!ハーマイオニー、どうして嘘つかなかったんだ?ネビルが自分でやりましたって、答えればよかったのに!……ねえブラン。ハーマイオニー、どこに行っちゃったんだ?」
「えっ?」
言われて隣を見る。すると、一緒に歩いていたはずのハーマイオニーが突然姿を消していた。
私たちは今玄関ホールへの階段を昇っていて、一番上までたどり着いたところだった。
「あ、いた」
少しの間キョロキョロと人の流れの中を探していると、ハーマイオニーが息を切らしながら階段を昇ってきた。
「どうやったんだい?」
「何を?」
「君、さっきはブランの隣にいたのに、次の瞬間階段の一番下に戻ってた」
「えっ、ああ──私、忘れ物を取りに戻ったの。アッ!あーあ……」
ハーマイオニーがそう答えた瞬間、彼女が持っていたパンパンの鞄の縫い目が破けて中身が飛び出してしまった。
「ハーマイオニー、少し持ちますよ」
「ありがとう……」
「どうしてこんなに持ち歩いてるんだ?いや、君たちがいつも本にまみれているのは知ってるけど、ハーマイオニーのそれ、多すぎない?」
「私がどんなにたくさんの学科をとってるか、知ってるわよね」
まだ呼吸の落ち着かないハーマイオニーがそう答えた。確かに、去年と比べてもあまりに教科書の数が多すぎる。ロンが私が預かっている教科書の表紙を見て言った。
「今日はこの科目はどれも授業がないよ。『闇の魔術に対する防衛術』が午後あるだけだよ」
「ええ、そうね。ブラン、ありがとう。カバンに入れるわ」
ハーマイオニーの返事は話を聞いているんだかいないんだかよく分からないものだった。言われるままに教科書を渡す。どうにかしてカバンに全てを詰め込んだハーマイオニーは、一人大広間へ歩き出した。
「お昼に美味しいものがあるといいわ。お腹ペコペコ」
「そうですね……」
そのままハーマイオニーの後ろを着いていく。後ろではロンとハリーが何やら話していたのだけど、私たちの耳にそれが入ることはなかった。
お昼はロクにご飯が食べられなかった。ハーマイオニーに心配されながらも、私はなんとか体を引きずって一緒に次の授業へ向かった。そして、教室に着いてから愕然とした。
──次の授業がリーマス先輩の「闇の魔術に対する防衛術」だったなんて。
元々地の底まで沈んでいた気持ちが更なる深淵を目指し始めた時、リーマス先輩が教室へ入ってきて、挨拶をした。
「やあ、みんな。教科書はカバンに戻してもらおうかな。今日は実地練習をすることにしよう。杖だけあればいいよ」
言われるがままに荷物をしまう。そして、杖を手に持った。生徒たちの準備が終わると、リーマス先輩は全員を廊下に連れ出した。そして、職員室へと向かっているようだ。
途中、ピーブスが仕掛けたいたずらを呪文で見事に解決していた。
そして職員室へ到着すると、リーマス先輩はドアを開けて生徒たちを中に誘導した。全員が入ってドアが閉まる音がすると、重ねるように声がした。
「ルーピン、開けておいてくれ。私は出来れば見たくないのでね」
その声にハッとして顔を上げると、職員室の中にはスネイプ先輩が一人だけ座っていた。しかしすぐに立ち上がり、黒いマントを翻して生徒たちの横を通り過ぎていった。
「ルーピン、多分誰も君に忠告していないと思うが、このクラスにはネビル・ロングボトムがいる。この子には難しい課題を与えないようご忠告申し上げておこう。Ms.グレンジャーが耳元でヒソヒソ指図を与えるなら別だがね」
彼の言葉は、私の心に重くのしかかった。今そんなこと聞きたくない。聞きたくなかった──。
胸が苦しくなったその時、リーマス先輩はこう言い返した。
「──術の最初の段階で、ネビルに僕のアシスタントを務めてもらいたいと思ってましてね。それに、ネビルはきっと、とてもうまくやってくれると思いますよ」
──すぐに、バタンという音がした。スネイプ先輩が職員室から出て行ったのだろう。
私は心の中に何かが澱んでいるのを感じながら、周りの生徒たちと同じようにリーマス先輩の指示で部屋の奥へと進んだ。
そこには古い洋箪笥が置かれていた。リーマス先輩が近づくと、突然大きな音を立てて壁から離れた。……私を含め全員が驚き、何人かは飛び退いていた。
中にはまね妖怪ボガートが入っているらしい。たまたま現れたものを、彼が授業で使うために取っておいてもらったそうだ。
「──それでは、最初の問題ですが、まね妖怪のボガートとはなんでしょう?」
リーマス先輩の質問に隣のハーマイオニーが綺麗に手を挙げ、スラスラと答えていく。まね妖怪とは、自分がいちばん怖いと思うものに姿を変える力を持っている。
彼は、今度はハリーに質問した。まね妖怪に対して今私たちは有利な点があるが、それは何か?──ハリーは私たちが複数人でいるから、まね妖怪がどんな姿に変身すればいいのか分からないのではないかと答えた。
「その通り。まね妖怪を退治する時は、誰かと一緒にいるのが一番いい」
そしてリーマス先輩はまね妖怪が二人の人間を一度に驚かそうとして半身ナメクジに変身してしまった時のことを話してくれた。そして、呪文の練習を始めた。
「はじめは杖無しで言ってみよう。──リディクラス、ばかばかしい!」
「リディクラス、ばかばかしい!」
全員が一斉に唱える。そして次にリーマス先輩は、ネビル・ロングボトムを前に呼んだ。彼はガタガタ震えながら前に出たが、リーマス先輩はにっこりと笑って世界一怖いものは何か、と尋ねた。言い淀んだ末に、彼は蚊の鳴くような声でこう言った。
「……スネイプ先生」
笑いが起こった。ネビル・ロングボトムも、控えめに笑っていた。
「スネイプ先生か……フーム……ネビル、君はおばあさんと暮らしているね?」
しかしリーマス先輩は笑うことはなく、真面目な表情でネビル・ロングボトムにそう質問を続けた。そして、おばあさんがいつもどんな服を着ているか尋ね、はっきりと想像するように指示した。
まね妖怪が箪笥から出てきたら、スネイプ先輩の姿になる。ネビル・ロングボトムが杖を構え、呪文を唱える。その時に、おばあさんの服装に精神を集中させ──上手く行けば、スネイプ先輩がおばあさんの服装を着た姿になる、と笑顔で言ったのだ。
周りの生徒たちはさっきよりも大きく笑っていた。大爆笑だった。私は、ローブの袖の中で手をぎゅっと強く握った。
そしてみんながひとしきり笑った後、リーマス先輩は全員に問いかけた。
「……みんな、ちょっと考えてくれるかい。何が一番怖いかって。そして、その姿をどうやったらおかしな姿に変えられるか、想像してみて……」
その言葉で、すうっと生徒たちが静かになった。みんな、自分の恐ろしいものを考えているのだろう。
──私の一番怖いもの。
考えるまでもない。……スネイプ先輩を失ってしまうこと。あるいは、スネイプ先輩を孤独にしてしまうことだ。
私は目を閉じて、深呼吸をした。……大丈夫、今はしっかりしなければ。
まね妖怪はどんな姿になるだろうか。スネイプ先輩の死体か、あるいはスネイプ先輩が一人でいるところか。それを怖くない、面白い姿にする、と言われると──難しい。私は決してスネイプ先輩を笑いたいわけではない。
ほかに怖いものと言えば、シリウス・ブラックやジェームズ・ポッターだけど……これが出てしまったらリーマス先輩が私の正体に確信を持ってしまうだろう。
あるいは、ヴォルデモート。
──しかしそれはそれで、違う問題がある。クラスが混乱に陥ってしまうだろう。
やはりスネイプ先輩しかないと思った。
面白い姿というのは思いつかないけれど、こんな未来にはしないという気持ちがあれば、大丈夫だろうか──。
「みんな、いいかい?」
リーマス先輩が生徒たちに問いかける。準備できたわけではないのだけど、授業の進行を止めるわけにはいかない。
彼はネビル・ロングボトムを前にやると、他の生徒たちを下がらせた。そして三つ数えると杖の先から火花をほとばしらせ、それが箪笥の取っ手にあたり勢いよくその扉が開いた。──スネイプ先輩の姿だ。ネビル・ロングボトムに迫って行こうとする途中で──彼が上擦った声でどうにか呪文を唱え、その姿はとても似合わないレースのドレスやハゲタカの帽子、巨大な赤いハンドバックを持ったものに変わった。
生徒たちから大きな笑い声があがり、スネイプ先輩の姿をしたまね妖怪は途方に暮れたようだった。
リーマス先輩が声を上げ、生徒たちが次々に前へ出る。
ミイラになったり、バンシーになったり。ネズミ、ガラガラヘビ、血走った目玉──そしてロンの番には大きな蜘蛛に変わった。ロンの呪文で蜘蛛の足が全部消えて、私の前にゴロゴロと転がってくる。
「──っリ、リディ……」
突然のことに驚きながら杖を構えると、胴体だけの蜘蛛は人の姿へ変わっていった。しかし、私が思っていたより背は高くなかったし、真っ黒でもなかった。霧の中に立っているその姿は、とても見慣れたものだった。
「──……」
私がいちばん恐れているもの。
それは、それは──……。
「……リディクラス!」
──金色の瞳も、肌に浮かぶ虹色の鱗も、全てが泡になって消えた。
石けん水をぶちまけたような大量の泡は、見た目に反してすぐに消え去り、隣のハリーの近くで今度は黒いなにかに姿を変えようとしていた。
「こっちだ!」
ハリーが杖を構えようとした瞬間、突然リーマス先輩がそう叫んでまね妖怪の前に出た。黒い影が消え、彼の目の前に銀白色の玉が現れ──リーマス先輩が呪文を唱えると、まね妖怪がゴキブリになって床に落ちた。
「ネビル!前へ!やっつけるんだ!」
リーマス先輩がそう叫び、まね妖怪は再びスネイプ先輩の姿になった。
「リディクラス!」
今度は上擦った声ではなく、毅然とした声でネビル・ロングボトムが呪文を唱えた。一瞬だけ彼のおばあさんの服装をしたスネイプ先輩の姿が見えたが──しかしすぐにネビル・ロングボトムがそれを笑い飛ばしたため、まね妖怪は破裂して煙のように消えてしまった。
彼の勇姿に教室中から拍手が起きた。
リーマス先輩はまね妖怪と対峙した生徒全員と質問に答えたハリー、ハーマイオニーに五点を与えた。そして月曜までのレポート課題を出して、授業は終わった。
生徒たちは興奮しながら職員室を出た。口々にまね妖怪との対決について話している彼らに遅れないように、その後ろを着いていく。ロンやハーマイオニーも興奮して話していた。
「『闇の魔術に対する防衛術』じゃ、いままでで一番いい授業だったよな?」
「ほんとにいい先生だわ。だけど、私もまね妖怪に当たりたかったわ──」
「君ならなんになったのかなぁ?成績かな?十点満点で九点しか取れなかった宿題とか?」
からかうように笑ったロンに、いつものようにハーマイオニーが憤慨する。そして、思い出したように私の方を見て聞いてきた。
「ブランのあれは、なんだったの?」
──一瞬、言葉に詰まる。しかしすぐに答えることが出来た。いつもの私とは全く違って、口が回った。
「──家の書斎にあった、童話の魔女かもしれません。昔、夜眠れなくなった時に読んで、怖くなってしまったことがあって──」
「そんな時に本なんか読むからだよ。そういう時は隠してあるお菓子でも食べて気分をまぎらわせばいいのに」
「ロン。ブランはベッドにお菓子を隠し持ったりしてないのよ」
「うっそだろ。みんなそうじゃないの?」
驚いてみせるロンに、なんとか笑い返すことが出来た。自分で驚くほど冷静だ。むしろ、心が冷えきってしまったようだった。
──まるで、あの夜の雨のように。
「──ああ、いたいた」
ハリーたちとそのまま一度グリフィンドール寮へ戻ろうとしたところで、教室に戻ってきたリーマス先輩と鉢合わせた。
「ルーピン先生。どうされたんですか?」
「ちょっと心配になってね。ブラン、さっきの授業で具合を悪くしたんじゃないかな?」
「えっ──」
まだぼんやりとしていて、自分に声をかけられるんじゃないかということに気が付かなかったから驚く。
「ホットチョコレートでもどうかな?少し話したいこともあるんだ」
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。