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ガチャガチャと激しい音が部屋に響く。
私の喉からは苦し紛れの唸りが漏れ、葵ちゃんは楽しげに小さく笑う。
こうして、いじめられる事に慣れてはいたつもりだが、私は思わず腰を浮かせて声にならない声を叫んだ。
もうダメだと思った矢先、形勢逆転。ギリギリのところで壁際から脱し、反対に葵ちゃんの操るキャラを追い込んでいく。
水を得た魚。
コマンドを素早く入力し、壁から相手キャラを逃がさないようにしながら必殺技を繰り出す。防がれる事なく、見事に命中してKO。勝利のセリフを吐くキャラに合わせて、私も同じポーズを決めてみせた。
あのあと、気まずさを感じながら夕飯を済ませ、しばらく四人で団欒した後に、私の部屋へと二人して乗り込んだわけだが……。
なんとか重い空気を払拭しようと、元々プレイするつもりだった格闘ゲームを引っ張り出して遊び始めた。
最初のうちは言葉少なだったが、時間が経つ事に相手への罵声が増え、スポーツマンシップなどどこへやらの戦闘スタイルで相手をボコボコにし、勝者が敗者へ向けて大いに煽るという碌でもないゲームの仕方を楽しんでいた。
既に両手指では足りないくらいに試合をしているが、自分の勝率が低くなった方が、「最後のお願い」と称して再試合を求めるので全く終わらない。こんなところばかり負けず嫌い同士の気が合う。
今も、負け越した葵ちゃんが、人差し指を立てて私に詰め寄ってきていた。
ハッハッハーと茶化した笑いを返し、さて次はなんのゲームをしようかなと背の低いボックス型の棚へハイハイで進み物色する。
対戦型のゲームが多いが、二人で共闘できるものもいいなぁなどと考えながら眺めていると、背後から葵ちゃんが覆いかぶさってきた。
ズンと体が重くなり、肘から崩れ落ちそうになる。
肩をくねらせ、葵ちゃんを引き剥がそうと試みるが、軽く体重をかけられると面白いぐらいに自由がきかなくなった。
グリグリと拳が私の脇腹をくすぐる。
突然の報復に、私は思わず支えていた腕の力をなくし、ゴロリとその場に転がって笑った。
泣きながら爆笑する私に追い打ちをかけるように葵ちゃんの手が脇腹を撫でていたが、ふと手が止まる。どうしたのかと呼吸を整えながら彼を見上げると、あの時のような少し気まずそうな、それでいて熱っぽい視線が落ちてきた。
その姿勢のまましばらく。ジワジワと私も羞恥で顔に熱が篭っていくのがわかった。
笑い泣きしていた涙が、つうっとこめかみを流れていく。その跡をなぞるように葵ちゃんの指が撫でた。
そっと頭が落ちてきて、思わずぎゅっと目をつぶった私の耳元で声がする。
顔が離れていく。
強く閉じていた目を開けると、赤くなった葵ちゃんの顔。緊張したような、強ばった表情で私を見つめて答えを待っている。
私はぼうっとそれを見ていたが、ゆっくりと頷いた。
曖昧な返答に笑う葵ちゃん。
再びそっと近づいてきた顔を私は両手で制す。
手の平に衝突した葵ちゃんの口から、「ふぎゃっ」と猫が尻尾を踏まれた時の音が聞こえた。
自室が二階の為、緊急の用でもなければ両親が上がってくる事もないし、現在深夜に差し掛かる時間帯。より確率は少ないが、もしもの可能性もある。
言わんとする事を察した葵ちゃんは、一つ息を吐いてから私の上から退き、少し扉を開けて階下の様子を探ってから静かに扉を閉め、鍵をかけた。
ついでに部屋の電気も落とすと、私の情けない驚きの声が出た。笑いながら、床に寝転がったままの私へ戻ってくると、手を差し出して起こしてくれる。
片膝をついてしゃがみ込んで、私の顔を覗き込んだ。
はにかんだように笑い、そのまま私の手を引いてベッドへ座らせた。自分もその隣へ腰掛けると、二人分の重さにギシリとベッドが軋む。
壊れないかな、とどうでもいい事を考えていると、頬にそっと大きな手が当てられ、追いかけるように葵ちゃんの顔が寄り、互いの唇が合わさった。
リップ音が鳴り、離れたかと思うとすぐにまた重ねられる。
今度はいつもより深く、舌先が触れ合うとピクリと戸惑うように動きが一瞬だけ止まり、次いで舌全体を撫でるように蠢く。
私も応えようと真似てみるが、頭がふわふわしてしまい上手くできているかさだかでない。苦しくなる呼吸を浅く繰り返し、葵ちゃんのシャツをギュッと握りしめた。
それに気がついた彼は、顔を離して私の頬を撫でて様子を窺う。
私は、ぼうっとしたまま葵ちゃんを見つめ返し、距離が離れてしまったことが寂しくて、何を考えるでもなく手を伸ばして自ら唇を重ねた。
驚いたように葵ちゃんの身体が固まり、そうかと思った時にはベッドの上に押し倒されていた。
眉を寄せ、私を組み敷くと噛み付くようなキス。先程より少し荒っぽく求められ、葵ちゃんの息が上がったのが分かった。
急くように服の裾から葵ちゃんの手が忍び寄り、するりと指先が服の中へ滑り込んで肌を撫でる。壊れ物を触るかのような手つきにゾクリと肌が粟立った。
思わず鼻にかかった声が漏れ、恥ずかしさから両手で口を抑える。
が、彼の手は止まることなく私の肌を蹂躙し、下着を付けていない胸元にまで到達すると、いっそうゆっくりとした動作で手の平に収めた。
震える声に力を入れて答える。
葵ちゃんの息を飲む音が聞こえた気がした。
手の平全体で包み込むように触れられ、爪の先で引っ掻くように突起を弄られると、ビクンと腰が浮いた。
怖い、とは言わなかった。
やめてほしくはなかったから。
それでも、なぜか不穏な感情が首をもたげ私を見下ろしている。
この先への好奇心と葵ちゃんに触れてもらえる幸福感があるのに対し、全てを見せることになる不安と嫌われるかもしれないという恐怖が勝る。また前のようになるのは嫌だった。
しばらく人の胸に手を置いたまま考えていた葵ちゃんだったが、「その手をどかして考えろ」とは言えず待ってみる。
と、サッと服の中から手をどかして私の身体を起き上がらせ、胡座をかいた自分の膝の上に乗せるように正面から抱き合う。
葵ちゃんの胴を足の間に収める格好になり、とんでもない近距離に顔がある事にドキリとした。
服の上から背中をそっと撫でる。
ピクリと私の肩が揺れた。
バレてたんですね、と心の中で呟く。
これだから長年の付き合いほど嫌なものはない。
コクリと小さく頷き、葵ちゃんの首に腕を回して目を軽く閉じた。
服の上から大きな手が背中を撫でる。
指先だけで背骨の一つ一つを確認するように、ゆっくり優しく降りていく。直接肌に触れられるよりは刺激が少なく、けれどくすぐったい感覚にふるりと身体が震えた。
ギュッと腕に力が入ると、しばらく背中を撫でてから、支えるようにしっかりと手の平を当てがい、反対の手で脇腹に触れる。
緊張に固まってしまいそうになった時、耳元で「力抜け」と葵ちゃんの低い声。喉の奥でつっかえていた息をおそるおそる吐き出すと、それが合図になったかのように胸に葵ちゃんの手が当てられた。
自分の意志とは関係なく動く指。
服の上からでも分かるくらいに突起が主張し、それを摘んで転がされると恥ずかしさで爆発しそうになる。同時に、力の抜けた身体が気持ちよさを感じているのも事実だった。
きゅっと指先で突起が引っ張られると漏れ出るように声が吐かれ、もう一方の胸に葵ちゃんが顔を寄せてかぶりつく。服の上から舌先でつつかれ、唾液でじわりと湿っていくシャツにビクビクと反応してしまう。
薄い布越しの愛撫に物足りなさを感じてしまい、もじもじと腰が動いたが、それを押さえ込むように葵ちゃんの手が腰を支え、クリクリと突起を捏ね回される。
名前を呼ぶと、指先は胸を弄り回したまま、顔だけ上げて私の顔を覗き込む。怖がっていないか、嫌がっていないかを確認するように。
初めに感じていた恐怖はどこへやら。もっと、と欲張りを言ってしまそうになっていた私は、恥ずかしさから顔を赤くして葵ちゃんの頭を抱きしめる。
腕の中で、彼のこもった笑いが聞こえた。
胸に当てられていた手が静かに下降を始め、ズボンの上から足の付け根当たりを往復する。
他人になど触られたことのない場所に葵ちゃんの手が当てられ、焦らされるような快感を与えられていると下着が湿っていった。
ゆらゆらと腰が揺れているのが自分でも分かり、けれど止める事もできずに、羞恥と苦しさで目頭が熱くなる。泣いて困らせたい訳ではないのに。
吐息混じりの葵ちゃんの声に、私は涙に詰まった声で「うう……」と呻くしか出来なかった。
ハッと葵ちゃんの肩が揺れ、身体が離れると慌てたように私の両肩を掴む。
ポロリと涙が頬を伝い、葵ちゃんの腕を掴む。
後を追うようにボロボロ涙が零れる。
一瞬、葵ちゃんは驚いた顔をしたけど、すぐに真っ赤になってお互いの額どうしを合わせた。鼻をすすると、ザリ……と前髪が擦り合う。
呆れたようなため息と共にグリグリと頭を押し付けられる。
痛い痛いと笑えば、安心したように葵ちゃんも笑う。
言いながら顔だけでなく耳まで赤く染まっていく葵ちゃんを見ていると、だんだんと気持ちが落ち着いてきた。自分よりも状況が荒れている人を見ると心が落ち着くというのは本当らしい。
うん、と頷く。
顔を上げた葵ちゃんに、自ら唇を重ねる。
ゆっくりと目を閉じ舌を絡ませ、葵ちゃんの耳から首を撫でる。ピクリと彼の身体が跳ね、私の肩を掴んでいた手が身体の線をなぞるように下がり、臀部を撫でてから再び足の付け根を撫でた。
固くなりそうな身体の力を抜く。そうすると不思議なくらいに気持ちよさに変わっていく。
唇を離すと、葵ちゃんが掠れた声で訊く。
触ってもいい、なのか。
気持ちがいい、なのか。
どちらに対しても答えは同じだったので、私は首を縦に振る。葵ちゃんの太い首に綺麗に浮き出る喉仏が上下に動いた。
そろりと手が動き、ズボンと下着の間に葵ちゃんの手が入っていく。ぬるり、と指が滑ると彼の息が少し止まった。
顔を見ることができずに、首にしがみつく。
葵ちゃんの吐息が首筋に当たった。
長い金色の髪がカーテンの隙間から注ぐ月明かりに煌めく。そこに顔を埋め深呼吸すると、大好きな彼の匂いがして安心する。
下着の上から数度敏感な部分を撫でられ、甘い声を洩らして気持ちよさに喘ぐ私を見て、葵ちゃんは少しばかり苦しそうに
トン、と濡れた下着の上から指先で軽く叩く。
ぴくんと震えて、私は小刻みに何とか頷き、彼が息を飲むのを聞いた。
ちょっとの間手が離れ、すぐに下着を割って入っていく。おずおずとしなやかな指が感じやすくなっていた突起に当たると、びりびりっと電流が走った。
背中が弓なりに反り、腰が持ち上がる。
思わず大きな声が上がってしまい、慌てて口を押さえた。
耳元で甘く名前を囁かれる。
指の腹でヌルヌルと突起を優しく捏ねられ、首筋にキスの雨が降る。
足を閉じようにも、葵ちゃんの身体が足の間にある為に完全には閉じられず、抗えないまま彼の指に嬲られていく。
ピンと足が伸びると更に快感が強くなって、押さえる手の隙間から声が溢れてしまった。葵ちゃんの耳元ではしたなく声を上げながら快楽に溺れてしまう。
コクコクと何度も頷けば、抱きしめるように片手が背中に当てられ、突起を弄る指が少し速度を持ち、更には長い指が中へと侵入してきた。
きゅうっと指の形が分かるくらいに締め付け、中を擦られると大きく腰が揺れた。
いやいやと首を振るが、葵ちゃんの手が止まることはない。
優しく、スピードを保ったまま指を動かされるとジワジワと快感が迫り上がる。
ビクビクっと大きく身体が跳ね上がり絶頂を迎える。
余韻の中、葵ちゃんの指がいまだにゆっくりと動き、連動して私の身体も面白いくらいに跳ねる。
荒く息を吐く私の身体を撫で、しばらく感度の上がった私を弄んでから指を引き抜く。それすらも快感に変わり、声が出る。
ちゅっ、と汗が浮いた額にキスが落ち、私をベッドに寝かせると葵ちゃんは部屋の隅に移動してしまう。
突然なくなった彼の熱に不安になり、私は名前を呼ぶ。
暗い部屋の中、ぼんやりと葵ちゃんの背中が見える。
床の上に無造作に置いてあったバッグの中からゴソゴソと何かを探し当て、私の元へと戻ってくる最中にゴムの入った袋を破り開ける。
ギシリとベッドを軋ませ、脱力したままの私のズボンと下着を取り去り、自らも服を脱ぐ。
小さい頃は見慣れていた筈が、目の前に晒された均整のとれた身体に息を飲む。
ずっと下に視線を下げていけば、怒張した葵ちゃん自身。恥ずかしくなり、思わず枕で顔を隠してしまう。
声が遠くで聞こえ、ゴムの装着音が生々しく響く。
ガバッと枕が引き剥がされる。
すぐ近くに葵ちゃんの顔があり、心外だというように眉が顰められていた。
流れるような動作で考えが至っていなかったが、葵ちゃんが買いに行ったのか。
お店で周りの目を気にしながら買い物をする彼の姿を想像すると、なんだか可愛らしくて笑えてくる。笑ったらいけないんだろうけど。
ベッドが軋み、葵ちゃんが覆い被さる。
体温を感じる距離になると、ドキリと心臓が高鳴った。
額から頬、耳にとキスが落ち、小さな声で「入れるぞ」と続いて、ゆっくりと挿入が始まった。
息が止まりそうになるような圧迫感。
苦しそうな葵ちゃんの吐息。
二人分の呼吸音が部屋中を占め、室内の温度が上がった気がした。
ずぶずぶと奥まで異物感がせり上がり、葵ちゃんの動きが止まったかと思うと、ドサリと私の上に倒れ込む。身体中がピタリと密着する体勢に、私は慌てて彼の背中を軽く叩いた。
大きな背中を撫でると、葵ちゃんは私を掻き抱き、熱い息を吐き出す。
熱く濡れた言葉がまとわりつき、私はドキリと胸を鳴らす。同時に葵ちゃんの小さな喘ぎが耳元でした。
呟き、こめかみにキスをしてベッドに片肘をついて、もう片方の手は私の腰を撫で、奥をつつくように腰を動かし始めた。
中を擦られるというよりは緩やかに振動しているような感覚に、私は甘く声を上げて葵ちゃんの太い腕を掴む。
すぐ近くに聞こえる葵ちゃんの喘ぎ声に、彼も同じように気持ちいいのだと思うと嬉しかった。
こんなに傍にいて、今も愛おしげに触れてくれているのに、もっと一緒になりたいと強欲になってしまう。
彼の頬に手を当て、触れるだけのキスを送る。
怒った時のような声音。
でも、起き上がった彼の表情は嬉しさと照れと、けれどやっぱり少し怒ってるみたいで。
大きな手が私の腰を押さえつけた。
次いで、引き抜くほど浅くまで腰を引き、一気に奥深くまで押し込まれる。
衝撃の強さに、目の前がチカッと光った。
シーツをギュッと握り締め耐える。
抉るように奥を貫かれ息が詰まった。
ぱちゅぱちゅと水音と肌のぶつかり合う音が響き、大きな快感の波に乗せられて喘ぐことしかできない。
快楽から逃げるように腰が動くと、葵ちゃんの手によって引き戻されてしまう。同時に奥まで彼の自身が打ち込まれ、嬌声が上がる。
きゅうっと中が締まると、葵ちゃんの息も上がっていく。
ガクガクと揺さぶられ、腰をしならせる。
何度となく出し入れされる中、片足を持ち上げられ、より深く挿入されると声が我慢できなかった。
速く深くなっていく行為に、私はあまりの気持ちよさに泣きそうになりながら葵ちゃんを呼ぶ。
性急になる腰の動きに合わせ、私の声も途切れ途切れに駆け上がっていく。
大きくスライドさせていた動きが、細かく奥を穿つような深い動きに変わり、膨張していく葵ちゃん自身をキツく締め付けた。
低く絞り出される「すき」に、身体が反応してしまう。
誰に言われるよりも嬉しい。
絶頂が近づく中、葵ちゃんを見上げる。
長い髪が首元に張り付き、艶かしい瞳が私を見下ろしていた。その彼の口から私の名前が溢れ出る。
トン、と奥に硬いものが当てられ、同じくしてビクンビクンと中で痙攣するのが分かった。
私の身体もそれに倣うように腰が小刻みに震え、葵ちゃんのモノをそれでも中へ中へと誘うように蠢く。
数回扱くように抽挿された後、疲れ果てた葵ちゃんが私の上に乗りかかった。
荒く息を吐きながら深呼吸をしていたが、さすが運動部の彼は回復も早い。私がまだへばっているのに対して、既に身体を起こして私の中からゆっくりと自身を抜いた。
ゴムの口を縛りゴミ箱へ放り投げた姿を見て、ああ家でも使っているのかなぁなんてくだらない事を考え、隣に寝転がった葵ちゃんを見つめる。
ぱちりと目が合うと、幸せそうに微笑んだ葵ちゃんが鼻先に唇を当てた。
キスされた鼻を指先で触り、私はへへへっと笑う。
笑顔を浮かべた私に、葵ちゃんは赤くなって、私の鼻をギュッと摘んだ。
急に息が出来なくなり、鼻声で抗議するとようやく離してくれる。
鼻の形が変わってしまった感じがして、手の甲でごしごしと擦って不満の声を上げた。
拳を握り込む葵ちゃんに、「たんまたんま!」と笑いながら腕を取る。
ムードなんてあったもんじゃない。
けれど、この距離感がたまらなく安心できる。
ブツブツ文句を言いながら拳を収める葵ちゃんの胸に顔を寄せる。
ビクッと身体が震えたが、すぐに優しく私を抱き締め返してくれた。髪にキスをして、深く息を吸い込むのが聞こえた。心臓の音が伝わってくる。
……。
「すき」と返してくれない。
私は顔だけを上げ、葵ちゃんを見る。
彼も私を見返していたが、続く言葉はなかった。
眉間にシワを寄せて私はもう一度言う。
ニヤニヤ笑いながら私を見下ろす憎たらしい顔。
さっきまでの優しい男はどこへ消えたのか。負けず嫌いにも程がある。
ムッとした表情を返して「そーですか」とわざとらしく頷き
ちらりと葵ちゃんを見る。
視線から逃げるように葵ちゃんの目が泳いだが、そう時間を置かずに私と目を合わせた。
大正解な答えに、私は照れを隠す為、イヒヒッといたずらっ子のように笑った。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。