それから、なんとなくあの子の顔が見れなくなった。目を合わせるたび、言葉を交わそうとするたび、汚い感情が足を引く。
那月の日本語は目を見張るスピードで上達していった。
日本語の不自由な転校生ではなくなったことで、周囲からの人気は徐々に冷めていった。加えて、何事も完璧超人な彼女への畏怖や妬みが生まれ、クラスで孤立し始めた。
人間というのはつくづく都合の良い生き物だと痛感した出来事だった。
そうして何事もなかったかのように時は過ぎ、蝉の鳴く季節となった。あの日のツチガエルは暑さに耐えるために森の奥の日陰は身を潜めるから、パタリとみなくなった。
「えー、皆さんもう明日は夏休みということで。浮かれすぎないよう注意して下さいね。先生から、夏休みの宿題について話をします。」
夏休みは親が夫婦水入らずで旅行し、あたしは弟妹達の面倒を見るため、夏休みの宿題はいつも最終週にやっていた。
しかし今年は親が旅行はしないといったため、少し早めに終わらせることができそうだ。
先生の話を受け流しながら考え事をしていた。
「それから、皆さんには作文を書いてもらいましょう。テーマは自分の名前の由来です。」
「えーなにそれめんどくさーい」
「んなのやる意味あるー?」
「静かに。これは先生達で話し合って決めたことです異論は認めません。原稿用紙3枚分ですよ、忘れずきちんとやってください。」
そして、
「なーに、親が自分を思って大切につけてくれたものです。親の愛がわかる君たちなら、原稿用紙3枚くらい余裕でしょう。」
先生の言葉があたしの鳩尾を殴る。言い知れない不快感。例えるならば大勢の人がいる中で居眠りを指摘された時みたいな。表情筋が強張り、耐えられず自分の手元を見つめ俯く。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。