これは愛緒が名前をもらう前のお話…
そう言って愛緒の母親は愛緒に暴力振るう。
愛緒が血だらけになっても、自分の手が血だらけになってもずっと続く。
いわゆるヒステリックというやつだ。
愛緒も父親は居ない。こんな母親を見かねて出て行ってしまったからだ。
こんな生活に耐えられなくなった愛緒は家を出て行くことにした。
外に出て見たはいいものの、愛緒には行く当てがない。
ましては友達や助けを求められる家もない。
愛緒は途方に暮れ、路地の角の方で座っていた。
その時だった。
愛緒は1人の女の子に出会う。
どこかのお嬢様なのかすごく顔が整っている。
その子と少し話をしてみると意外にも愛緒とその子は共通点が多かった。
目が赤いこと、父親がいないこと、など。
他にもある気がしていたが愛緒は聞き出すことが出来なかった。
昔から親に愛をもらってこなかった愛緒は名前がなかった。
そこで、女の子は愛緒に”愛緒“と名前をつけてくれた。
女の子は少し悩んでから、何かをひらめたような顔をして言った。
愛緒はそれから初めてその女の子と自己紹介をした。
その時初めて、愛緒はその女の子の名前を正式に教えてもらう。
それからというものずっと愛緒とあなたの下の名前は共に時間を過ごした。
何日間かもしれないし何年かもしれない。
でもそれは誰にも分からない。
だって、人間の愛緒という人物はもうこの世にはない。
あなたの下の名前がその手で壊したのだから…
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!