他人の空似ってやつかもしれない。
この世にその愛緒って奴に似てる人なんて沢山いるだろう。
でも、僕は愛緒のことを苦しそうに話すあなたの仮の名前の顔が忘れられなかった。
そしてこの話を聞いていて分かったあなたの仮の名前の本当の名前。
あなたの仮の名前は海を見て言った。
というよりも海のもっともっと遠くを見ていた気がする。
まるで未来を見ているかのように。遠くを見ている。
あなたの仮の名前は悲しそうな顔で“嫌い”と言った。
その顔は本当に嫌そうな顔はしていなかった。
でもその顔には自分の名前への愛おしさすら感じた。
あなたの仮の名前は急に黙ってしまった。
まだ何かあなたの仮の名前の中にはあるのだろうか。
それとも僕のことを嫌がっているのだろうか。
なんなのか僕には一ミリも分からない。
でも、あなたの仮の名前は何かを隠している。そう感じた…
“帰らせて”と言ったあなたの仮の名前の目は本気だった。
本当に話したくない。そう目が言っていた。
だから僕は引き下がる。これ以上あなたの仮の名前を追い詰めたくなかっただけなのに。
いつも僕はそうなんだ。変なところで空回ってしまう。
これだからあなたの仮の名前を救えないんだ。今度こそはって決めてたのに。
あなたの仮の名前目線
私はあれから一言も話さず、家に帰って来た。
強引すぎて逆に罪悪感が湧いてくる。
でも、言いたくないことは言わなくても良いんだよね。
これは愛緒が教えてくれた言葉。ためらったら言わなくても良い。
”私はそこまで強い人間じゃない“って、”心は笑っていないから無理に笑うな“って
愛緒は私を励ましてくれた。きっと、言うべきことはこのくらい。
あの時のことなんて誰にも話さない。そうでしょ、愛緒?
私は気づいたら橋の上にいた。
さっきのところから少し奥、綺麗な海が見える橋の上。
私はヒトリで立っていた。でも、もう私はヒトリじゃない。
きっと上に行ったら愛緒に会えるよね。
あぁ、あの人の名前を聞いておくべきだったかな。
まあいいや。
ーーーーーーーーッ!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!