第9話

朝の海は。
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2022/10/11 09:07
目が覚めると隣にあなたの仮の名前は居なかった。

流石に帰ってしまったようだ。だって、もう朝だったから。

居るわけがない。そう分かっていたけど少し寂しかった。

(なまえ)
あなた
あっゆきむら。さん、起きたんですね。
話しかけてきたのはあなたの仮の名前。

居ないと思っていたが少し離れたところに居ただけだったらしい。

それだけですごく嬉しくなってしまうのはあなたの仮の名前に依存しているからだろうか。
ゆきむら。
なああなたの仮の名前。なんで死んだんだよ。
(なまえ)
あなた
私ですか? 死んでないけど…
ゆきむら。
未来では死んでんだよ。なに思い詰めてんの?
(なまえ)
あなた
自分で考えたらどうでしょう?
(なまえ)
あなた
きっとゆきむら。さんなら分かるはずです。
なんて言って僕をはぐらかすあなたの仮の名前。

僕はあなたの仮の名前の言っていることが全然分からない。

なんで僕にあなたの仮の名前のことが分かると思ってるんだよ。

ゆきむら。
分かるはずねえじゃん。
(なまえ)
あなた
じゃあ…いつか教えてあげます。
ゆきむら。
絶対教えろよ?
(なまえ)
あなた
それはゆきむら。さんの返答次第ですかね。
ゆきむら。
なんで僕に関係ありそうなんだよ。
あなたの仮の名前目線
ゆきむら。さんに教えるつもりは全くない。

というよりも教えられる環境になるはずが無い。

私が死にたい理由? そんなの一つに決まってる。

ずっと昔から分からなかった。ずっと昔から与えられて来なかったもの。

愛緒でも無理だったんだ。ゆきむら。さんもきっとダメ。
(なまえ)
あなた
みんな私から消えていくもの。
ゆきむら。
…? 僕は消えない。約束する。
(なまえ)
あなた
知ってる。だから私が消えるんですよ。
ゆきむら。
はあ、それで僕がどんなに苦労したか…
聞き分けが悪い。こんなに悪い人初めて見た。

みんなそう言ったらどっか行くのにずっと私の目を見てくる。

そういうところが嫌なんだ。私が私じゃないみたいに…気持ち悪い。
(なまえ)
あなた
分かった。
(なまえ)
あなた
そこまで言うなら絶対いつか教えてあげるから。
ゆきむら。
本当か? ありがとう。
なんて微笑むから自分が私が、分からなくなるんだよ。

ゆきむら。さんが何を考えているか本当に分からない。

ここまで分からないことも初めてだ。
(なまえ)
あなた
ゆきむら。さんと居ると初めてのことばかりです。
ゆきむら。
僕も一緒。じゃあさ、もっと沢山初めてのことしよ?
(なまえ)
あなた
何するんですか?
ゆきむら。
どっか出かけよ。お前、やったことないだろ。
図星だった。


昔からどこかに行かせてもらうなんてしてもらえなかった。

だから心が弾むなんて感情。消して、見て見ぬ振りをした感情が私の中に取り戻されていく。
(なまえ)
あなた
分かりました。ゆきむら。さんに着いていきます。
ゆきむら。
行ってくれるんだな? よっしゃ、決まり。
ゆきむら。
じゃあ、どこ行く?
そう。

”ゆきむら。さんに着いていきます。“

どこまでも、いつまでも、取り返しのつかないこの感情も全部、背負ってもらうから。

出かけよう。ゆきむら。さんに着いて、どこまでだって。
(なまえ)
あなた
じゃあ、遠くまで歩きたいです。
ゆきむら。
目の前にある海を辿ってみるか。
(なまえ)
あなた
はい。
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(なまえ)
あなた
ずっと先まで。

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