第36話

月光に揺れる月
2
2025/11/04 08:21 更新

ルナは、ひとりだった。
戦いが終わったはずの街には、まだ炎の匂いが残っている。
ヴェイルの姿はもうなく、空には欠けた月が浮かんでいた。

「……ヴェイル。あなたの分まで、強くならなきゃいけないのに……」

彼女の指先で、砕けたストーンの欠片が微かに光る。
その光が消えるたび、心のどこかが凍っていくようだった。

風が吹いた。
どこからか、かすかな声が聞こえる。

「悲しむな。お前は、まだ“選ばれている”。」

ルナは振り向く。
そこに立っていたのは、闇のような微笑を浮かべるノクティスだった。

「……またあなた……何のつもり?」

「ただ見ているだけさ。
 お前たち“光の少女”が、どんな結末を迎えるのかを。」

「光の……少女?」

ノクティスは屋上の縁に立ち、夜空を見上げた。
「この世界は、光と闇でできていると思っているだろう?
 だが、それは違う。
 本当は——“どちらも同じ根から生まれた”んだ。」

ルナは息を呑む。
ノクティスの瞳が、まるでルナの奥底を覗くように輝いていた。

「……何が言いたいの?」

「お前の中にも、闇はある。
 それを拒めば拒むほど、飲み込まれるだけだ。」

ノクティスの指が宙をなぞると、
ルナの足元に黒い影が広がる。
そこには“もう一人のルナ”が映っていた。

顔は穏やかで——けれど瞳は真っ黒だった。

「これは……!」

「恐れるな。受け入れろ。
 お前が本当に望む“光”は、まだその先にある。」

ノクティスの声が、風に溶けて消える。
影も同じように、月光に吸い込まれていった。

ルナはしばらく立ち尽くした。
手の中のストーンがかすかに震えている。

「わたしの中の……闇……?」

その時、遠くから声が聞こえた。

「ルナ——!」

振り向くと、ひかりが駆け寄ってきた。
泥だらけの姿で、それでも笑っている。

「探したんだよ! 一人で行かないでって言ったのに!」

ルナは力なく笑った。
「……ごめん。少し、考えたくて。」

ひかりがそっとルナの手を握る。
「大丈夫。闇があるなら、光もあるよ。
 私たちは、それを見つけるためにここにいるんでしょ?」

ルナはうつむき、そして初めて少しだけ笑った。

「……うん。ありがとう、ひかり。」

月の光が二人を包む。
けれど、その月の裏側で、何かが静かに目を覚まそうとしていた——。

プリ小説オーディオドラマ