芸能界には少なくとも下心だけで仕事をしているひともいる。
今日だって、ほら。
〈海瀬さん、連絡先教えて貰えませんか?〉
「あ、ごめんなさい...今携帯持ってなくて」
〈電話番号だけでも〉
生憎ほかのメンバーは、まだ来ていなくて。
少し早めに着いたのが裏目に出てしまったのか、密室にふたりきり、閉じ込められてしまった。
「あの...ほんと、今ないし、電話番号も...職業柄、あまり教えられなくて」
〈あー...そっか〉
ごめんなさい、一生懸命に申し訳ないですという表情を作って見せるも引き下がる様子はなく、じゃあご飯だけでもとせがんでくる。
...うざい、気持ち悪い、てかちゃんとマスクしてもらわないと困るなぁ。
早くひーくんでも誰でもいいから来てよ、と時計を見る。
〈クリスマスとか〉
「すみません、仕事入ってます」
〈じゃあ年末とか〉
「...コンサートの準備あります」
〈なんでそんなに無愛想なの?仕事に響いてもいいの?〉
まだ世間的にも知名度が低いあなたが何を言ってるんですか、と言う言葉をぐっと呑み込む。
気持ち悪いというよりムカつく。
仕事に響いてもいいのなんてお前はお偉いさんか?
「...もう収録始まるんで、いいですか?」
〈何言ってるの?まだ30分はあるよね?〉
「なんで、」
〈台本そこに置いてあるじゃん、天然なのかな?かわいいね〉
気持ち悪い気持ち悪い。
壁を背に向けてしまったせいでどんどん追い詰められて、もう逃げ場がない。
1ミリもキュンとしない壁ドンをかまされたところで、ガチャりとドアが開いた。
ああ、救世主よありがとう...!!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。