第40話

君 が 幸 せ な ら .
1,082
2023/02/18 08:27
君の忘れ物は、忘れちゃいけない大切なモノ。
桃赤ですが、1部桃青あり。
青くん、桃まま悪役気味。
俺の目の前で君は紅い花を撒いた。
どんどんスローペースになっていく世界。
周りのざわついている声も、
心を急かす救急車のサイレンも、
全部、君に向けられたもの。
トラックだったからか、
トラックから少し離れた場所に横たわる君。
スローペースの中、必死にもがいて着いた彼の元。
君は薄ら目を開けて、
りーぬ。愛してる。
なんて言って目を閉じた。
目からは無数の涙。
目の前も分からないほど、ぼやけていた。
よく分からず君が運ばれれば、俺はそれに同行した。
気づいたら君は俺の目の前にいて、
俺の隣には、君の母親がいて。
モブ
あんたなんかにッ!ポロポロ任せなきゃ良かったッ!!ポロポロ
パチンッ
ッ!……
そんな事をいわれて、殴られた。
あぁ、そうだよな。
俺はいちゃダメなんだよ。
俺といたら、みんな不幸になっちゃう。
俺が、愛した人を不幸にさせてしまう。
マイナスの言葉が、スラスラと出てくる。
そんな俺をいつも助けてくれたのも君で。
でも、そんな君は今、夢の中だから。
気が有り得ないくらい滅入ってて、
君に会うまで孤独だった俺が、
もう、君なしじゃ生きていけなくて。
信用することが嫌いな俺にとって、
俺自身が君にこんなに尽くしているなんて、
有り得なかった。


だからさぁ、早く目を覚ましてよ。

その、深い海のような透き通った目で、
俺だけを写してよ。
1秒でもはやく、君の安全を知りたくて。
君の彼から、“大丈夫だ”なんてメールが来てたけど、
でも、やっぱり不安で。
好きだから。
大好きだから。
君の恋人として、隣には立てないけど、
せめて君の相棒として、
隣に立っていたい。
この気持ちは、誰にも、一生話さない。
そう、決めていた。
最寄りの駅から全速力。
上がった息を整えつつ、引き戸に手をかける。
開けば、眩しい光が僕を差す。
目の前には僕より何倍も小さな背中。
整った顔がこちらを見た。
あ、ころちゃん、ニコッ
早かったね。
なんて、いつもの莉犬くんじゃない、
弱々しく笑う莉犬くんがいた。
席、外すね、ニコッ
ゆっくり話して、ニコッ
胸が痛む。
たとえ恋愛的に好きじゃなくても、
好きな人が同じだった人でも、
それ以前に、
メンバーで、友達で、大好きだから。
そんな顔を見ていると、
胸に小さい棘が沢山刺さるような感覚を受ける。
あと、
、?
ごめんね。
そう告げて、彼は去っていった。
ねぇ、さとみくん。
なに、彼女泣かせてんだよ、
なんで、親友、泣かせてんだよッポロポロ
君は悪くないのに。
君のせいにしないと、
彼に当たってしまいそうで。
早く起きて欲しいのも事実で……
ッん………パチッ
突然、君の長い睫毛が動いた。
思わず名前を呼ぶ。
さ、さとみくんッ?!!
次の瞬間、君はとんでもない事を口にする。
どなた、ですか、?
、、、、、は、?
僕、何にも覚えてなくて、すみません、
か、活動のこともッ?!
なんの活動でしょうか、、?
ッ………
自分の名前は?
桃城さとみ
何人家族?
2人。母親と俺。
最後に、こんなことを聞いた。
君には彼女が居るんだけど、誰か分かる?
分から、ない。でも、愛した人は、いた気がする。
ッ、!
とても、最低だ。
僕の脳裏の考えが、最低すぎる。
でも、それと比例するように、僕は君が欲しい。
だから、
そっ、か。
僕が、さとみくんの彼女。
ッあ、ごめ、
いーから!また1から思い出つくろ!
と、まぁ、なんとも最低な返答。
話しすぎた。そろそろ帰ろう。
まぁ、無事でよかった!
また来るねニコッ
おう、ごめんな。
彼が聞いているとも知らずに、呑気に帰った。
もうそろそろ、戻ろうとした。
扉が空いていて、中を除くと、
笑顔な君。
あぁ、君がいる。
その事実だけで、
心がいっぱいになった。
でも、その満ちた心は、君の親友の一言で崩れた。
僕は、さとみくんの彼女、!
ッは……
もう、君が事故に合ってから、
何もかもがボロボロになって、
死にたかった。
なにか、したかな。
神様の癪に障る様なこと、したのかな。
ッうポロポロぅぐッポロポロひぅッポロポロ
君の、俺と2人の思い出が、全部消えたこと、
君のとなりはもう、俺じゃ無い事。
泣けば泣くほど突きつけられて、
苦しいよ。
次の日、君は検査をした。
記憶が戻すには、思い出の強い場所に行くといい。とのことだ。
きっと、俺がさとみくんを連れ回して、
今までの思い出巡りをしたら、
すぐに思い出すのだろうか。
でも、それが本当に正しいのか。
ころちゃんが、彼女の方が、
君も、、君も、ッ
よっぽど、ッ、楽しいのではないかッ……
俺は、君が大好きだから、
愛してるから。
君が1番幸せであって欲しい。
君がもっと幸せになるには、
その隣は俺じゃない。
君の彼女である、ころちゃんだ。
だから、
、?あなたは、、、
事情は聞いてるよ。
“親友”だった莉犬だよ!
ごめんな、忘れちまって、
また、仲良くしてくれればいーの!
ッへへ、ニコッ
俺の取り柄は演技だから。
ほら、“彼女”のころちゃんも、さとみくんが元気ないともっと萎えちゃうよ!
とんでもなくその言葉が不快でも、
気持ち悪くても、
君の為だから。
全ては、君の幸せの為だから。
ころちゃんはね、ちょっと生意気なんだけど、涙脆くて、メンバー1の泣き虫なんだよ!
普段はおちゃらけてて、かっこ悪いけど、でも、真剣になると、ホントにかっこよくて、
リスナーさんとか、メンバーにも沢山愛を伝えて、
ころちゃんの周りには沢山の人が居るんだよニコッ
ころちゃんが凄いから、周りの人達もころちゃんに対して暖かい。
きっとさとみくんが好きになったのもそんな部分なのかもニコッ
なに、それ。
なんなのッ
嫌味?余裕?
莉犬くんはさとみくんが好きなんじゃないのッ?
もぅ、莉犬くんのこういうとこが嫌い。
どうせ、俺には釣り合わないからいい機会だと思った、とか、俺じゃ幸せにできないから、とか
変な理由で、ッ
って、莉犬くんを苦しめてんの、
僕じゃんッ……
どうにもできない過ちを犯し、
平然としてる僕を見て、
莉犬くんはどう思う?
うざくて、死んで欲しくて、消えて欲しくて、とんでもない不快感を感じているだろうか。
君が隣じゃなくなって、早1週間が経とうとしてた。
ころちゃんのいい所は山ほど出てくるのに、
自分のいい所は、これっぽっちも出てこない。
止めてくれる人も居なくなって、
腕は血だらけで、
トントンしてくれる人もいないから、
寝れなくて、
ご飯も食べれないし、
さとみくんには顔だしてないし、、
もう、死んでもいいかなって、
苦しい。
本当に俺、弱くなったな、w
さとみくんが居ないと、何にもできないや、w
エゴサもご飯もペットもリスカも、
今は要らないから、
君が欲しいッ。
抱きしめて欲しいッ。
でも、それと同じくらい、
幸せになって欲しいッ。
だんだんさとみくんも慣れ始めて、
僕のことも彼女扱いしてくれる。
嬉しいのに、
嬉しいのに、脳裏にはあの笑顔が過ぎる。
最近、莉犬くんがお見舞いに来なくなって、
少し心配気味なさとみくん。
そんな僕たちにLINEが入った。
会議だってー
会、議?
そー、多分これから活動どうしてくかー、みたいな感じ?
あーね?
明日か、大丈夫だな。
会議、どーしよ。
一瞬見ただけでも分かる。
まともにご飯も睡眠も取ってなくて、
血を出しているから酷く痩せた。
取り敢えず、メイクと服の力でなんとかなるかな。
休むのは、できる限りしたくない。
心配と迷惑をかけてしまうから。

明日は会議だから、しっかり寝たい。
そう思い、睡眠薬を無造作に出した分だけ飲んだ。
結局一睡も出来ずに朝。
はぁッ………
取り敢えず放ったらかしの腕に包帯を巻いて、
自分の持っている服の中の最大限の、ダボッとした服を選ぶ。
メイクで隈無くして肌と唇の血色を良くする。
よしッ完璧。
戸締りをして家を出る。
今日で、お終いだから、
何事もなく、終わりますように。
バタンッ
会議場所はさとみくんの病室。
個室の為、話しやすい。
珍しく1番最後の莉犬くんは、
声のトーンや、振る舞い方は全く変わっていないのに、
ダボッとした服からでも分かる痩せ細った身体。
ごめん!遅れたぁ、ニコッ
さとみくん!どう?順調そう?
あぁ、お陰様でなニカッ
良かったねニコッ
会議、始めましょうか!!
そー、だね。
俺は、ある決断をしていた。
君の永遠の幸せの為に。
あの……ごめん、ちょっといい、?
あ、うん。どしたの?
……
俺、すとぷりを脱退しようと思う。
本当に、誰のせいとかじゃなくて、ただ、1人で、個人的に決めたことなの。
っ、は、?
ど、どーして、、
ッ…………
少し、実家に帰ろうと、思ってて。
今、荒れているらしくて、どうにもならないとの事でヘルプに入ろうかと少し前から思ってました。
今じゃ、なきゃだめ、、?
俺の、心の余裕が無くて。ごめんなさい。
全ては、君の幸せの為。
グループにも、メンバーにも迷惑を掛けていることなんて承知の上だ。
すきだから。
だいすきだから。
俺は君といちゃだめなんだ。
俺の周りにいる人はみんな、不幸になる。
だから、ごめん。
申し訳ないです……さようなら。
皆から、無理やり離れるよ。
ちょっ……ッ
目から涙が零れる。
自分の顔がどうであろうと今はなんでもいい。
これが俺の中の正当であることは間違いない。
全力で走って、全力で泣いてるもんだから、
上手く息が出来なくなる。
倒れかけの俺は、何とか家に着いた。
これからは、元通り。
前は見えず、死ぬことだけを考える人生。
苦しいから。
君が居ないとこんなにどうしようもなくなる。
俺には、君が必要だけど、
君には、俺が必要じゃない。
だから、さようなら。
次はちゃんと愛せますように。


次はちゃんと、死ねますように。

なにかが突っかかる。
迷信だけど、なにか、こう、
歯に挟まった物が取れない、
もどかしい感じ。
俺は記憶を無くしたらしいけど、
莉犬といると、なんか懐かしい感じがして、
守らなければ、という使命感も得るときがある。
なぜなんだろう。
彼女はころんなのに。
申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
どうして?
全ては僕のせい?
優しすぎる君を僕は上手いように使いすぎてしまったかもしれない。
それでも、さとみくんに真実を伝えたくない僕は、
もう、さとみくんのなんなのか分からないです。
表面上、彼女だし、
彼女が終わったって、
きっと、みんなは親友のままで居させてくれる。
でも、メンバーで、大好きで、さとみくんの彼女、
りいぬくんに、深い傷を負わせてしまった僕は、
果たして本当に親友として隣にいてもいいのだろうか。
実家に帰った。
薄暗くて、荒れていて。
見るだけで吐き気に襲われ、
もっと、自分がこの世に生まれてきた意味を失う。
ピーンポーン
モブ
はい。
お父さん、りいぬです。
モブ
ッ……すぐ出るから待ってろ。
コクッ
ガチャッ
お父さん……
モブ
よく来たな、りいぬ。
モブ
お母さんは、ご機嫌にテレビ見てる。
大丈夫、なんですか。
モブ
…大丈夫とは言えない。
モブ
帰るか?
いや、寄ります。
モブ
お母さん、、りお、来たよ。
モブ
あら、りおちゃん!
お母さんッ……ニコッ
モブ
あらぁ、そそな格好してどうしたの?ニコッ
ッ……
モブ
おいで?ニコッ
モブ
これとかどう?!
モブ
やっぱり、りおちゃんは華奢で、スタイルが良くて、顔が可愛くって、胸も…でかかったのに……
ッあ……
モブ
こんな服も、似合うわねニコッ
モブ
オシャレな服の方が良いかしらニコッ
大人になってから気づいたけど、
俺が我慢してれば、お母さんは、こんなにッ……
こんなに幸せそうに、俺を愛してくれる。
やっぱり、俺が……
我慢すれば、みんなは幸せになる。
さとみくんの事だって、そうだった。
すべて、すべて、俺の気持ちは、
俺の心の中に閉じておいて、
俺は、女の子になった方がいい。
俺も、その方が楽な気がしてきた。
俺は、俺自体はいらないから。
莉犬くんの家と、連絡先が消えてから1ヶ月経った。
さとみくんは活動を再開しても思い出すことはなく、
ただ、一刻と時間が過ぎていく。
会議の時だった。
急にさとみくんが立って、
りーぬが、りーぬがッ!!
なんて、突然叫び出した。
りーぬ、?りーぬがどうしたんですか?!
分からないッ、けど、このままにしといたら、取り返しのつかない事になりそうでッ……
ころんッ!!行くぞッ…!
っあ、うんッ……
なぞの頭痛に襲われ、
ふと、彼女の姿を思い出す。
そう。りいぬの姿を。
全てが明白になった。
濃く、晴れることのなかった霧は、
姿を消した君が薬となって、
晴れたのだ。
ころんが嘘をついてようと、
俺の事を好きだろうと、
申し訳ないが、今はどうでもいい。
記憶を取り戻したきっかけはきっと、
まだりーぬと出会ってまもない頃の状況と似ていたからだ。
医者は、強い思い出、と言った。
だが、俺にとって、りーぬの音信不通が強い思い出トラウマだったのだと思う。
りーぬが音信不通になったのは今回が初めてでは無かった。
出会って、少しずつ仲良くなっていた頃、
りーぬは、
“ごめんね、ありがとう”
と言う言葉を残して、死のうとした。
まぁ、自殺未遂で終わったのだが。
なぜ、辞めたのかと聞いたら、
“空、空が余りにも綺麗だったから。”
自殺しようとしてる自分がおかしくなった。
でも、本当は、少し怖かった。
なんて、儚い顔でそう言った。
その瞬間、俺はりいぬが好きと気づき、
守りたい、という衝動にも駆られた。
そんな強すぎる思い出が、記憶を戻す薬となったのだ。
そしてりーぬはまた、消えようとしているのではないか、
否、消えようとしているに違いない。
だから、ころんを連れて、りーぬの実家に向かった。
ピーンポーン
機械音が鳴り響き、心を急かす。
上がった息を整えつつ、出てくるのを待つ。
モブ
はーい
出たのはお父さんらしき人。

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