ちょっと待って…その言い方、まるでレノが彼が怪獣だって事をずっと知っていたような口ぶりじゃない…?
変な汗が頬を伝い、私は8号に視線を向けた。
その皮膚は怪獣そのもので、顔面はドクロのような作りになっている。
瓦礫の上に登った彼は強く地面を蹴り上げ、その拳で怪獣爆弾を吹き飛ばしてしまった。
隊長がイヤホン越しに全員に指令し、皆一斉に地へ伏し、シールドを全開にする。
けれど、8号が立っている一列。
そう、私達が伏している場所だけは風も僅かでその影響で飛ばされる隊員や飛んでくる瓦礫で怪我をする人は一人もいなかった。
まるで彼が、暴風から私達を守っているように見えた。
爆弾が破裂し、その影響で発生した暴風が収まった後、いち早く彼の方へ向かっていったのはやはり彼…。
市川レノだった。
その後彼は亜白隊長に身柄を拘束され、しばらく時間が経った頃。
保科副隊長から皆に外に集まれと指令があった。
私達第三部隊隊員は皆二列に並ばされ、今まさに本部施設へ移送される彼を見送っている。
『同行する警備部隊、準備完了しています』
皆神妙な面持ちで彼を送る中、私とレノ…そして四ノ宮は彼を見る事が出来なかった。
彼が皆に背を向け、二台に足を踏み入れた時、私の横に並んでいたレノが突然動きだしおじさんに向かって叫んだ。
彼の名前を呼ぼうとしたのか、無情にも扉は呼ぶ声よりも早く閉められてしまい、その声は届かなかった。
おじさんが本部に連れていかれた後、残された私達五人はピリついた空気感の中で誰も口を開くことが出来ずにいた。
そんな中、この空気を軽くしようとしてくれた勇者が一人…。
伊春が口を開いた。
伊春の勇気も儚く散り、皆また口を噤んでしまう。
私もフォローしようとしたが少し間違えてしまったみたいだ…。
再び訪れた静寂の中、イヤホンからオペレーションルームよりお達しが届いた。
そんな強い意志の宿る瞳を隊長に向け、見事にそれに感化された私は隊長に一歩踏み出した。
うむむ、着実に来てるぞ…!!
成海ちゃんもうすぐだぜ!!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!