福地源一郎 side
俊典に仕事の事がバレて 、早四年程が経った 。
( ※現代軸から見たら二十一年前です 。)
其の間 、特に何が或る事も無く 、
順調と云えば順調と云える日々………
只少し心の穴が増えていくだけの日々 。
……嗚呼 、あと噂になっている話が或る 。
” 異能力による身体強化手術 ” …
とんでもない力を得る事が出来るらしいが 、
未だ誰一人として成功していないらしい 。
なんでも 、躰への負荷に耐えられないのだとか……
人喰らいの狗から今度は実験体モルモットになるのか…
随分とまた滑稽だな 、笑
其の事を考えつつ 、
俺は血の着いた感覚が未だ残る頬を摩っていた 。
もう慣れたと云えば慣れたのだが 、
背筋や脚 、耳の裏を通るゾワリとした感覚は
矢張り気味悪いものだ 。
公安の通路を歩いていた俺は 、咄嗟に道陰に隠れた 。
福沢と 、俊典が居たからだ 。
友だ 、何を隠れる必要が或る………?
意味の無い自問自答 。
無意識に浮かび上がってきた自問自答の答えは 、
当然直ぐに答えられた 。
此処は俺や福沢を含めた異能力者達が住居とする地下 。
其々六畳程の広さの部屋が与えられており 、
正に収監された様な 、
淋しい空気が何時だって漂っている 。
其の道程の中で 、尤も目立たず話し合いが出来る場所 。
二人は其処に居た 。そして…………
変わらず白い歯を見せている 。
其処は何時も通りだ 。
だが眉は下がっており 、
幾らかあの巨体が小さく見える 。
だから俺は隠れた 。
俺抜きで何を内緒話する心算なのか……
俺は息を弒した 。
一言一句 、訊き逃さない為に……
話の内容はこうだった 。
『 此処から抜け出して 、自由になる方法が或る 』
此奴が云い淀んで
中々口に出さないものだから 、
其処は割愛させて貰った 。
福沢の一つ目の回答は 、俊典にとって
嬉しいものだった 。
俊典の力強い言葉に 、
福沢は顎に手を中て少しの間俯いた 。
恐らく 、今俺と福沢は同じ事を考えているだろう 。
そうだ 、
誰かが裏切れば他の異能力者が何をされるか判らない 。
そう云われ続け従って来た 。
一人だけ扶かる等 、絶対に無しだ 。
またもや優柔不断な俊典に変わって俺が纏めてやろう 。
『 会長は異能力者を弒す心算等毛頭無い 』らしい 。
一応の根拠としては
『 抑 、標本の少ないものを
自ら手にかけるのは有り得ない話で或る 。』だとか
福沢は息を呑んで目を輝かせた 。
其れは俺も同じだった 。
だが其れは何秒後かに瞬きを失う 。
「 不幸中の幸い 」…
象徴の影と成れた事 、俺もそう思った 。
漸く終われるのだと思った 。
漸く此の息苦しさが少し楽になるのだと思った 。
漸く 、友と「 誠なる正義 」を追えると思った 。
そう 、思ったのに……………………!!
盗み訊きしてたなんてバレたら
またムスッと顔で「 其れが正義を追う者のやる事か 」
と云われてしまう 。
だが 、そうはならなかった 。
やたらめったら焦った 、小さい声が訊こえた 。
奴は俺の処へと
吉報を届けようとする福沢を制止したのだ 。
後頭部を下から殴られた様な衝撃だった 。
無理矢理良い方に意図を読み取った福沢は 、
案内をする様に道を空け 、
手を上向きに進行方向へ向けた 。
俊典の狼狽えっぷりに 、
理由は未だしも 、流石の福沢も察しがついた 。
察しは怒りだった 。一人称が荒くなる 。
奴は顔を両手で覆った侭 、頷いた 。
だって…………だって 、何なのだろうか 。
何を云っているのだ?此奴は……
嗚呼 、知っている 。視線を感じていた 。
何時も 、「 莫迦なのか 」と思っていた 。
…嗚呼…… 、嗚呼…………………… 。
理解するのに 、そう時間は掛からなかった 。
感情が乗ってこないのは
俊典の云う通り 、俺が変わってしまったからか 、
或いは…………
否 、違う 。決して其の様な事は無い 。
俺は失って等いない 。
只 、何も考えない方が楽だからだ 。
何時も隣に居る福沢の 、偶の思い詰めた顔を見れば 、
よぅく其の重要さが判る 。
だから俺は失って等いない 。
仕舞って或るだけだ 、深くも 、浅くもない処に 。
仕舞っているだけなのだ 。
如何して判らない 、気づかない 、
俺に直接話をしようとしない…………?
二人の云い闘いが訊こえる 。
訊こうと思うが 、思うのだが 、
靄が掛かった様に上手く訊こえない 。
俺は何も云わず其の場を離れ 、自室に戻った 。
何時もは寒くすら感じる部屋が 、
今日は温度を感じられない 。
其れから福沢が夜に抜け出す事が度々あった 。
何日か毎に 、
抜け出し帰って来た友が
罰を受けているのを黙って見る日々……
何日か毎に 、
「 嗚呼 、自分は友二人に捨てられたのだ 」
と思う日々………
日が進むにつれ目を合わせなくなっていく友 。
辞めて呉れ 、中途半端な同情等不愉快なだけだ…… 。
そんな日常が進み 、一年経つ少し前の頃だった 。
その日 、遂に福沢は帰って来なかった 。
如何やらGPS迄繋がらないらしい 。
本音を云うと…
否 、此れを本音だと確信出来る自分も居ないのだが 、
心の底から祝福していた 。
当然だ 。我が 、友だからだ 。
だが其れと同時に妬ましい 。
俺と云う友を置いて行ったのか 、何も告げず 、
自分だけ扶かろうと云うのか 。
俺ならそんな薄情事しない 。
そう 、しないのだ 。ならば…………
思わず乾いた笑みが零れる 。
「 夢を見るのも良い加減にしろ 」
手元の紙が 、そう云っている様な気がした 。
其奴は ” 異能力による身体強化手術 ” の案内
が書かれた紙だった 。
次回 → 番外編「 狼の子育て 」
【 +α 】
〜 オールマイト( 八木俊典 )の考え 〜
⬇️の事を福地さんが去った後に福沢さんに云っていたと思って下さい 。すれ違いをしてしまい 、此の過去編の福地さんは勘違いしている状態です 。現在(50歳)の福地さんは福沢さんから話を訊いているので勘違いはしていません 。只 、自分と話もせず勝手に諦めた事を怒っています 。
抜け出すのは容易では無い 、
だから確実を考え 、一人しか手伝う事は出来なかった 。
正確に云うと 、
福地を救う事を完全に諦めている訳では無く 、
慥かに自分が救うのは難しいが福沢が後から扶け出す
と云う選択肢が或る 、と云う考えだった 。
其処に関しては本人達の好きにすれば良いと 、
自分は干渉出来ないが 、
寧ろ救ってやって欲しいと思っていた 。
近くに居ても 、自ら手を伸ばせない辛さ 。
八木俊典は英雄として 、象徴として…
此の出来事は迚も悔しい事であった 。
そして友は扶け合うもの 。
自らの手を差し伸べてやれなかった事を後悔している 。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!